上の子が小学校受験中の下の子放置問題。ケアはどうする?公認心理師が解説!
小学校受験の準備は4~5歳くらいからスタートするご家庭が多いと思いますが、下の子がいる場合は、上の子ばかりというわけにはいきません。まだまだ手のかかる子が2人いる点で、中学受験や高校受験とは違う大変さがあります。そこで今回は、「小学校受験対策中のきょうだいのケア」というテーマで、公認心理師である佐藤めぐみさんにお話をお聞きしました。
目次
小学校受験対策中、下の子の年齢別【0~4歳】で意識したいこと
小学校受験をする際の下の子ケアは年齢によっても大きく変わりますが、ポイントを1つ挙げるなら、その年齢の心理発達をおろそかにしてはいけないということです。それぞれどのような点に注意したらいいかを年齢別に見てみましょう。
【下の子が0歳】安定したアタッチメントを形成しよう
生後0~1歳の時期は、お世話自体は手がかかりますが、寝る時間も長く、動き回ることもほぼない時期なので、上の子の勉強中に直接割り込んだりすることがあまりない点では、他の年齢よりやりやすいのではないかと思われます。
とは言え、いつも上の子のペースというわけにはいきません。この時期の下の子にとって、最も大事なタスクとも言える“親とのアタッチメント形成”に気を配りながら、上の子の受験勉強を進めていくのがポイントになります。
安定したアタッチメントを育むためには、親の応答感受性がとても大事になります。応答感受性とは赤ちゃんが発するサインに対し、どれだけ周囲が反応よくリアクションできているかを指します。
とくに、「絶対的依存期(新生児から生後6ヵ月まで)」は親への依存度がもっとも強く、赤ちゃんが自ら動くことができませんので、親が出向いてあげる必要があります。
「赤ちゃんが泣く、お母さんが来てくれる」
「赤ちゃんが笑う、お父さんが笑い返してくれる」
このように周囲が安定した反応を提供していることが、その子の心の安定につながっていきます。0歳代は、“人への信頼感”や“絶対的な安心感”のように健全な心理発達の根っこが育まれる大切な時期なので、「ほおっておかれないこと」がポイントと言えます。
ただ、実際問題、赤ちゃんの一挙手一投足に反応できるかと言ったら、それは難しいものです。上の子の受験がなくても、100%反応できる親はいないと思います。要は程度の問題です。
赤ちゃんが声を出す・泣く・足をばたつかせるなどサインを送っているのに、誰も来てくれないと途方に暮れてしまいますし、泣けば来ると分かると、もっと泣くようになってしまいます。それしか親を引き寄せる手段がないと学ぶからです。
このような状態になると、「赤ちゃんは泣いているし、上の子の勉強も見なくてはいけない」と親が手一杯な状況になりかねないので、応答感受性を意識していくことは大事なポイントと言えます。
100%を目指すと無理がかかるので、自分のできるベストを尽くしましょう。
1人で2人を見るときは、赤ちゃんをひざ元に抱っこしたり、近くのバウンサーに置いたりして、視覚的に届くようにすると望ましいです。あとは、睡眠のリズムを整えていけると、タイミングが読めるようになるので、親の方が動きやすくなります。
【下の子が1歳】関わる大人の輪を広げよう
自分で歩けるようになり行動範囲が広がるため、上の子の受験との両立が難しいと感じる時期でもあります。とくにこの時期は、よく動くけれど言葉がまだ通じきっていないので、「ちょっと待っててね」「静かにしてて」ということが伝わりにくく、「あぁ~困った」が増えてきます。
よって、1人で2人を見なくてはいけない場合、「うまくいけばラッキー」というくらいの期待感が実際にはちょうどいいと言えます。
うまくいかせることを前提に考えていると、下の子が上の子にちょっかいを出したり、直接的ではなくとも注意を引こうといたずらしたりすると、イラッ、ムカッと簡単に沸点にたどり着きやすくなり、さらにうまく回らなくなります。親の捉え方はとても大事なので、どこに基点を置くか、あらためて見直してみてください。
そしてこの辺りから、上の子のケア、下の子のケアを手分けすることを検討しましょう。
親に頼む、夫婦で分担する、シッターさんに来てもらうなど。
0歳のときにはお母さんにべったりだった子も、だんだんと両親以外の人が入り込む余地を作れるようになるのもこの時期です。
お母さんだけ、お父さんだけという狭い範囲で囲い込み過ぎてしまうと、おじいちゃんやおばあちゃん、シッターさんなどの新しい人たちが入り込みにくくなるので、受験を決めたならば、サポートの輪を広げていく試みを積極的にしていくことはとても大事だと思います。赤ちゃん期から外に出て、家族以外の人と触れさせるということですね。
【下の子が2~3歳】自我の芽を上手に育もう
上の子が受験期に、下の子のイヤイヤ期を迎えるご家庭は、きょうだいの年齢差としては一番大変なのではないかと思います。自己主張が増えてくるイヤイヤ期は、「ボク、ワタシがやるの!」という主張が増えますが、だからと言って、完全に1人でやり切れるわけではありません。
お母さんやお父さんには「手を出さないでほしい、でも横で見ていてね」というのがこの時期の子どもの気持ちです。自立した行動をしたがる一方で、心理的には自分がおろそかにされることを好まないので、1人で上の子も下の子も、というのは非常に難しいと言えます。
誤解のないようにお伝えしておくと、イヤイヤ期は「イヤ」と反抗することが目的ではありません。その子の自我が健全に育まれる過程で「イヤ」という言葉が出やすいから、そう呼ばれているに過ぎません。よって、「イヤイヤ」があるからOKとか、ないとダメといううわべの状況だけで判断するのは間違いです。
その子の自我が健全に育つような接し方をして、結果的に「自分」が育てば成功となるものなので、「私の今の接し方はこの子の自我成長を促せたかな?」という自問をしながら、日々接していくことはとても重要です。
もし、上の子にかかりきりになるあまり、下の子に我慢させ過ぎてしまうと一般的にイヤイヤがひどくなりがちです。そうなるとさらにやりくりが大変になり、親のメンタルも不安定になりがちなので、夫婦で連携する、もしくは上の子を塾や幼児教室で見てもらうなど、大人2人以上で乗り切ることを強くおすすめします。
【下の子が4歳~】悩みをそのままにしないこと
年子など、年齢差があまりない場合がここに当てはまりますが、4~5歳の時期というのは、一般的に見ても個人差が大きいもの。
それまでの4~5年でそれぞれ違う経験をしているので、一概に4歳はこうだとは言い切れないところがあります。よって、中には受験期をうまく乗り越えられるご家庭もあれば、難しいと感じるご家庭もあるのではないかと思います。
下の子が聞き分けのよい子である場合は、受験自体は進めやすいと思いますが、それに甘んじて振り回してしまうのは望ましくありません。問題が表面化するまでに時間がかかるタイプでもあるので、下の子の性格に甘え過ぎないことは大事なポイント。しっかり下の子との時間も取っていきたいところです。
一方で、下の子が「扱いが大変」「目が離せない」と悩みが多い場合は、よい機会だと思って向き合うことをおすすめします。私の相談室の傾向からも、4~5歳のときの悩みはそのときにしっかり向き合っておいた方が、小学校以降をよりよい形で迎えられることが多いと感じているからです。
問題は先送りにして自然に消えていくものではないので、上の子は外部に任せ、自分は下の子に時間をとっていくことも大事でしょう。
上の子(小学校受験生)のケアの注意点
ここまで、受験期間の下の子のケアをお伝えしてきましたが、上の子のケアの注意点についても少しだけ触れておきます。
心の発達は、子ども時代のどの時期も大事ですが、やはり小学校に入るまでの初めの数年はその子の人生の土台を作る意味でもとても重要な時期と言えます。よって、小学校受験の過程で、その子の心の成長にマイナスになるようなことをしないように意識しましょう。
具体的には、「失敗=ダメな子」という認識にならないように、声かけや接し方を気をつけていきます。これ以外にも、
●受験に成功する=存在価値が高い
●いい点 を取る=お母さん・お父さんが好きでいてくれる
●悪い点を取る=あの子よりもダメな人間だ
●結果が出ない=弟・妹にお母さん・お父さんを取られる
なども同類の認識です。共通しているのは、受験の過程で遭遇するさまざまな出来事の結果を自分の存在価値と重ねてしまっている点です。
私の相談室でも、このタイプのお悩みはよくお聞きします。お子さんのことではなく、親御さんご自身の悩みにおいてです。
自分が幼少時に、“いい子 ”でいることを親に強く求められたことで、大人になった今でも、「人の顔色を気にして動いてしまう」「できない自分を受け入れられない」「自己肯定感が低い」と悩んでしまっています。
「受験は受験」とその子の存在価値とは切り離し、条件抜きで愛することを心がけていきましょう。
バランスよくきょうだいと関わるために意識したいこと
先述の「親の応答感受性」のところで触れたように、上の子の受験対策にかかりきりになるあまりに、下の子をないがしろにし過ぎると、さらに手がかかるようになり、結果的に自分の首を絞めることにもなってしまいます。
下の子の心が安定していると、上の子へのサポートもやりやすくなるのは確かなので、どちらかに偏らないバランスがカギになります。
お世話する大人の数が2人以上いることは大きな助けになるはずですので、受験をすると決めたら、まずは夫婦で連携を取れるのかを確認し合うこと。
片方の熱い思いだけで乗り切ろうとすると、回り切らずに子ども(とくに下の子)に影響が出やすいので、家庭内で解決できない場合は、お金をかけてでも誰かのサポートを得る心づもりでスタートすることをおすすめします。
また、上の子、下の子どちらにも言えることですが、その子の心の発達にマイナスな影響を及ぼしてしまうほど受験を突き詰めてしまうのは問題です。
幼少期の親の接し方は将来的に残りやすいので、時おり今の状況を俯瞰し、行き過ぎていないかをチェックしながらバランスを取っていきましょう。
最後に、伸芽会の牛窪基久先生にお話をお聞きしました。
勉強は無音でなくてOK。あえて小さな声で話して「耳の感度」を上げる意識をしよう
どうしても下のお子さんに手がかかる時期もあると思います。その場合、まずは受験生である上のお子さんの精神状態を理解してあげましょう。そして、きょうだいそれぞれがお母さん(お父さん)を独占できる時間を5分でも作ることを心がけてください。
その際、特に上のお子さんは、一方通行の会話ではなく対話(作業の手を止めて目と目を見て、お子さんの話を聞く)の時間をとることも忘れないようにしてください。
また、小さなお子さんがいると、家中が騒がしくなり、一緒にいる時間が長いお母さんの声も大きくなってしまいがちです。これは、上のお子さんの耳の感度を無意識に下げてしまいますから、あえて「静かにゆっくりと小さな声」で話して、耳の感度を上げるよう心がけてみてください。
最後に、よく「上の子が勉強中に下の子がうるさくして困る」というご質問を受けますが、試験本番もある程度騒がしい環境ですから、無音にこだわらなくても大丈夫です。
伸芽会式の学びとは?
小学校受験において学校側が求めているのは、知識の量よりもそれを生かせる力です。教えられたとおりに答えることよりも、自分で発見したものを発展させていく創造性があふれていることです。
伸芽会では、合格につながる創造性の芽を伸ばす独自の教育として、「造力教育」「体験力教育」「自助力教育」を掲げ、半世紀以上の実績に基づく指導で合格へ導きます。
詳しくは伸芽会HPを御覧ください。
https://www.shingakai.co.jp/about/
「のびのび」と「しつけ」は両立するの? 受験期の親子の関わり方
上の子と下の子、ママがバランスよく関わるコツとは?
育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/
▼小学校受験をこれからお考えの皆様に、最初に必ず知っておきたいことをまとめた連載コンテンツがこちら!
- ホーム
- ちょっと気になる受験のコト
- 上の子が小学校受験中の下の子放置問題。ケアはどうする?公認心理師が解説! - SHINGA FARM