親が誤解しがちな小学校受験 │大原英子さん対談【第1回】

親が誤解しがちな小学校受験 │大原英子さん対談【第1回】

言葉自体は知ってはいるけれど、いまいち実態がわからないという人も多い小学校受験。そこで、幼児教室伸芽会で長年小学校受験に奮闘するご家庭をサポートしてきた阿部響子先生と、これまで数千人を超える親子にアドバイスをしてきた幼児教育コンサルタントで小学校受験専門「コノユメSCHOOL」を運営する大原英子さんによるスペシャル対談企画が実現! 第1回のテーマは「親が誤解しがちな小学校受験」です。

大原英子先生
大原英子先生
幼児教育コンサルタント。幼児教室で10年以上の指導を経て独立。現在は、私立小学校受験を目指すご家庭を応援する「コノユメSCHOOL」(https://www.konoyume.com/)を運営し、早慶はじめ難関小学校に合格者を送り出している。これまで指導してきた親子はのべ2,000人以上。自身も東京大学卒。SNSでも精力的に発信を行っている。
X(@ohara_konoyume)、Instagram(oooohara00
伸芽会受験局教務本部 阿部響子先生
伸芽会受験局教務本部 阿部響子先生
慶應義塾幼稚舎・慶應義塾横浜初等部をはじめ、難関校対策指導教室のサポート歴は18年以上。小学校受験に奮闘する保護者の悩みに寄り添った丁寧かつ適格なアドバイスには定評がある。

誤解① 子どもを伸ばすために幼児教育は必須なの?

__そもそも、幼児教育とは何なのでしょうか?
大原英子先生(以下、大原先生):私は幼児教育とは、社会に出たときに役に立つ土台作りだと思っています。ですから、いかにその根を強く張り巡らせられるかがポイントだと考えます。そして、誤解されがちですが、幼児教育=ペーパー学習だけではありません。

自分で考えたり、さまざまな体験も含みますから、幼児期にやるといい影響があるのは間違いありません。ただし、「じゃあ何をすれば?」は人それぞれですし、幼児期の学びは親が生活の中で意識したり声をかけたりしないといけない。そこが、家庭だけでは大変なところではあります。

阿部響子先生(以下、阿部先生):よく、伸芽会に見学に来られた親御さんに、低年齢になればなるほど「幼稚園でやっていることとあまり変わらないんですね」と言われることがあります。2~3歳の子どもがやれることにはまだ限りがありますから、一見そう思われるのかもしれません。

ですが、幼児教室では、遊びを通して関わる教師に、一人ひとりに合わせた明確な“ねらい”があります。家族以外の大人たち、長年幼児を見てきた先生たちとの関わりが多くなればなるほど、その子への気づきが増えるのです。

大原先生:息子の英会話スクールで同じことを思いました。「こんな簡単な単語カードなら、自分でできるんじゃない?」と。でも家じゃやらないんですよね(笑)。お教室に継続して通うことで、子どもは気持ちを切り替えられるし、続けることで成長を感じ、気づきがあると親になって実感しています。

誤解② 幼児教室に通っていれば、有名小学校に合格するの?

__では、幼児教室に預けていれば、有名小学校に合格するのでしょうか?
大原先生:そう考える親御さんが一定数いるから、合格者数の多い幼児教室に人が集まるんでしょうね。とはいえ、そもそも何人受けたのか、そのプロセスを最後まで何人やりとげられたのか、といった数字を冷静に見る必要があります。何より、わが子にそのやり方が合うかどうかの視点は必須だと思います。

阿部先生:1週間168時間のうち幼児教室に通うのは平均すると週2日×1~2時間の約4時間。その短い時間で、子どもが劇的に変わったら怖いですし、親にとって一大事業である子育てにおいて、本当にそれでいいの?と思ってしまいます。小学校受験準備においても幼児教室はあくまで学びのペースメーカー。それを家庭でどう実践していけるかで、合格に近づき、その先の子どもの人生も豊かなものになると思います。

誤解③ 小学校受験=知識の詰め込みでかわいそうなの?

__小学校受験は「子どもにとってかわいそうなこと」なのでしょうか?
大原先生:小学校受験は学びがたくさんあります。しかし、やり方次第ではそうなる場合もあります。長年関わってきた中で、小学校受験がいいなと思うのは、ペーパーだけではないところです。

たとえば、お弁当包みなど生活の練習は自立の促進剤にもなりますし、四季のことも、昔はおじいちゃんおばあちゃんから教われたかもしれないですが、今はなかなか難しい。

さらに、小学校受験は「自分の考えを伝えること」が大事なので、これは社会に出てからも必須。5~6歳でこんなに話せたら、これから先楽しいと思うし、可能性がすごく広がりますよね。ただ、親も人間ですから、焦りから「なんでできないの!」とイライラすることもあります。

「今週までにこれをできなきゃ」と仕事のようにタスク管理してしまうと、子どもの気持ちがおいてけぼりになり、苦しくなってしまいます。子どもにとって唯一無二の親からそんな言葉を言われ続けたら悲しいですよね。
その感情をコントロールできずに親子関係が崩れるくらいなら、受験はしなくていいと思います。とはいえ、完全に怒らないのは無理なので、一緒に乗り越えようと思えるご家庭は大丈夫です。

阿部先生:同感です。親子関係のみならず、夫婦関係も悪くなるくらいなら、やらなくていいと思います。ただ、私立の校長先生方のお話を聞くと、学校側はテストで、「特別に詰め込まれた知識の量」ではなく、「幼児期にしてほしい体験をしている家庭のお子さまか」を見ているのです。

たとえば、最近は重さ比べで「重いと下がる」という感覚さえない子がいらっしゃいますが、それを知識として教えてしまうか、公園でシーソー遊びを体験させて身につけるか。どちらを選ぶかは親の意識の違いですよね。中学受験以降は、できないところをつぶす勉強ですが、小学校受験は決して同様ではない事を認識していただきたいです。

誤解④ 小学校受験の合格を勝ち取るのは特別な家庭の子なの?

__小学校受験では“普通の家庭の子”では合格は難しいのでしょうか?
大原先生:そもそも普通ってなんだろうって思いますよね。「学校側は何を見たいか」だと思います。「入学後の生活に無理なくついていけるか」「中学受験に向けて頑張れる子か」など、学校によって求める基準が異なりますからね。

その際、注意してほしいのが「慶應横浜初等部には元気な子しかいない」など、一定の合格者から聞く噂話です。もちろん、皆がリーダーシップを取れる子なわけないですし、控えめな子もいます。大事なのは、学校側の視点を持つこと。

阿部先生:どんなに私たちプロが言っても、頻繁に会うママ友の声を信じてしまうんですよね(笑)。私もよく、難関校合格者像は、学校側の立場で考えようと話します。学校側は「自分たちの教育理念で育った子が社会に貢献してもらいたい」と考えているはずです。そこからどういう子がほしいのか?と考えると、「入学後に伸びる子」。

つまりは、
「教科学習の土台となる力が身に付いている子(話をしっかり聞いて考えられる子)」
「人間力の土台となる力が身についている子(まずは笑顔で挨拶ができる子)」
「集団生活に適応できる子(テキパキ行動する子)」
「学校の教育理念に賛同してくれる親御さん」

などが挙げられます。これらはどの学校も共通だと考えます。だから、難関小学校に複数合格する子がいるのです。

ちなみに、慶應義塾幼稚舎の話をすると、「あそこは優秀なお子様が行くところですから」とおっしゃる親御さんがいますが、私はその度に「幼児が優秀も何もない。差があるのであれば体験の量の違い。難しいと言われるのはあくまで倍率ですよ!」とお伝えしています。

誤解⑤ 願書や面接対策は「用意した答え」を覚えればいいの?

__小学校受験の願書や面接の準備は「用意した答え」を覚えればいいのでしょうか?
大原先生:むしろその逆です。最近の傾向としては、学校側も「覚えてきただけでは太刀打ちできないような問題」を出す学校が増えてきています。たとえば、白百合学園小学校では、「虫になれるとしたらどれになりたい?」と女の子があまり考えたことがないテーマで、自分の意見を求める課題がありました。もはや認知記憶はAIには勝てないのは明確なので、私学側も、自分で考えたり、プレゼンテーションを取り入れた授業がかなり増えているようですから、そういう授業が楽しめる子に来てほしいですよね。

阿部先生:何か集団で課題を与えても、その時々で自分たちが楽しめる方法を考えられる子、工夫できる子、全体を把握できる子は強いですよね。一方で、受け身な子は「やり方を教わっていないからできません」とか、自分の事を聞かれているのに「わかりません」と答えがちだったりしませんか?

大原先生:同感です。自信がないと答えに印がつけられない子も一定数います。受け身の対策をしすぎている子は、ペーパー問題で見たら分かる問題でも、教え込まれた通りにチェックしないと解けない。どんなに頑張っていても、考える力や直観力を失うのはもったいないですよね。わからなくても「やってみよう」という気持ちや瞬発力も受験には大事な力だと感じます。

もちろん親御さんも同様です。願書添削をすると、みんな同じような言葉が並んでいますが、それでは何も伝わりません。自己分析を重ね、そのご家庭ならではの具体的な方針が明確に表れた願書にしたいですよね。

誤解⑥ 合格しなければ今までの取り組みはすべて無駄?

__幼児教育のゴール(目的)は、小学校受験での合格なのでしょうか?
大原先生:小学校じゃ人生は決まりませんから、受験はあくまで通過点です。私は最終的に、その子が自立して社会に出て、自分で人生を選び取っていけることが究極の子育ての目的なのかなと思っています。

阿部先生:合格をいただいたとしても、それはむしろスタートだと思います。今は一人っ子も多く、目も手もかけられる環境により、自然と過干渉傾向の親御さんが増えています。しかし、子どもが小学生になると、親の目が届かないところでの活動時間が増え、困難があっても子ども自身が解決していかなければなりません。机上では学べない、それらの準備、体験も幼児教室では行っています。

子どもと自分(親)は同一ではありません。親に話したくないことも、嘘をつくことも出てくるでしょうが、それも成長です。「親の子離れ」を意識して、親も成長していく必要があります。一歩離れた場所からでも、子どもの自主自立、成長を見守れる親になるのも目的にあると思います。

親御さんへメッセージ

__最後に、幼児教育や小学校受験準備に奮闘する親御さんにメッセージをお願いします。
大原先生:小学校じゃ人生は決まらないとはいえ、受験を決めたのは親ですから、やるからには覚悟は必要です。それにはまず「自分と子どもを同一視しないこと」。そして、受験は相性も縁もありますから、「この学校じゃなきゃダメ!」ではなくて、たとえご縁がなかったとしても、「家族一丸となれたいい経験だったね」と言えたら、それは幸せな受験になるのです。

幼児期に家族で取り組んださまざまな体験は子どもにとって一生の宝物です。心の中に宝物を一杯詰め込んだ子は、逆境にも強いです。そんな宝物を心にいっぱい持った幼児教育であってほしいと思います。

阿部先生:伸芽会の教室では、第一志望校合格に向けて精一杯バックアップさせていただく所在ですが、時間は元に戻せないですから、子育てにおいて、幼児期にしか味わえない体験や楽しさも忘れてほしくないですね。合格してしまえば、大変だったこともいい思い出になるかもしれません。ですが、後で「もっと楽しめばよかったな。子どもらしさを失わせちゃったな。」にはしてほしくないんです。ですから、もし大学附属の一貫校に入学したとしても、小学校、中学校、高校とその時々にしかない感性を存分に育んでもらいたいです。

幼児教育で育まれたものは数字などでは確認できないけれど、受験を通して子どものこと、家族のことを一生懸命考えた想いは絶対に残ります。「あの時ほど、わが家庭の事を考えた事はなかったね……」と思い返せたら、それはいい受験であり、そのご家庭ならではの幼児教育の証なんだと思います。

小学校受験と幼児教育の誤解、いかがでしたか。次回は「共働き受験で合格を勝ち取るために知っておきたいこと」です。お楽しみに。

著者プロフィール

SHINGA FARM(シンガファーム)編集部が執筆、株式会社 伸芽会による完全監修記事です。 SHINGA FARMを運営する伸芽会は、創立半世紀を超える幼児教育のパイオニア。詰め込みやマニュアルが通用しない幼児教育の世界で、毎年名門小学校へ多数の合格者を送り出しています。このSHINGA FARMでは育児や教育にお悩みのご家庭を応援するべく、子育てから受験まで様々なお役立ち情報を発信しています。
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