2019年第一弾となる伸芽会セミナーは「ワーキングペアレンツの教育フォーラム＆合格報告会」。前編では、著書『「学力」の経済学』でおなじみ、慶應義塾大学 総合政策学部准教授の中室牧子先生によるお話からお届けします。

日本の教育への公的支出は、34か国中最下位！

経済協力開発機構（OECD）が昨年秋に公開した2018年版の「図表でみる教育（Education at a Glance 2018）」。これによると、国内総生産（GDP）のうち小学校から大学までの教育機関に対する公的支出の割合は、なんと日本が先進国34か国中最下位でした。

なぜ、このようなことになってしまったのか。政府は経済財政有識者会議という教育における日本の教育機関を担うトップの会議においても、今でも個人的な体験談が語られたりしているんです。

加えて、近頃は「子どもを3人東大に入れたママさん」や「偏差値40から東大に入った」という例外的な話に注目が集まる傾向がありますよね。でもこうした一部の話は必ずしも全体を表しません。そこで教育における科学的根拠、エビデンスを私たちは研究しているというわけなんです。

「勉強しなさい！」は効果的か

具体的な事例でお話すると、私への問い合わせで最も多い質問なのですが、親が子どもに言う「勉強しなさい！」は果たして効果があるのか。

これに関しては、勉強を「夫が家事をしてくれない」「ダイエットを頑張る」などと置き換えて考えてみると、人の行動を変えるのは容易ではないことがわかりますよね。

では、どうすれば変えられるのか。

これには動機（インセンティブ）を効果的に使うことが最も効果があると最近の研究ではわかってきました。

アメリカのある「ご褒美実験」では、テストで90点をとったら2000円あげるという一発勝負の報酬よりも、本を読んだら200円、宿題をやったら200円など目の前の課題をこなすごとに報酬をもらう子の方が成績が伸びたという結果が出ています。

お金は使い方次第で子どもをも動かす立派な動機になるということです。

もちろん、必ずしもお金でなくてもいいのですが（トロフィーなど）、これらを8～10週間続けると、お金のようなインセンティブがなくても習慣化されると言われています。習慣形成の呼び水としてインセンティブを使うのはいいかもしれませんね。

また、子どもにとっては同性の親が最も身近なロールモデルになるので、女の子なら母親、男の子なら父親の学ぶ姿勢や生活態度なども大きく関わってきます。

「勉強しなさい」とがみがみ言うのではなく、「母親は時間を決めて守らせる」、「父親は横で見ている」と役割を分担するのが子どもの勉強時間を伸ばす近道だという研究結果もあります。

就学前教育が効果的なのは、非認知能力がもっとも深まる時期だから！

私の著書でも申し上げている、就学前教育が経済学的に見て効果的だという見解。これは、「早期に質の高い知識を身につけると、後々楽になる」というさまざまな検証結果に基づいているのですが、加えて、最近では“生きる力”や“21世紀型スキル”といった“非認知能力”がもっとも深まるのが幼児期であるという研究結果も出てきました。

私が幼児期の非認知能力の中で重要だと思うのは自制心とやりぬく力です。これらはその後の人生において大きく影響を与えるものでり、IQとはまた別ものなんです。

現在こうした理由から、非認知能力をどう効果的に伸ばせるかという研究が、さまざまな国で行われています。

これから社会の仕組みも大きく変わっていくであろう21世紀を生きる子どもたち。親御さんは、どうぞ例外的な話やエビデンスのない話をうのみにせず、お子さんの非認知能力こそを、就学前の時期に伸ばしてあげてほしいと思います。

 

先生の著書『原因と結果の経済学』では、医師の津川友介氏とともに、「メタボ検診を受けていれば健康になれる」「テレビを見せると子どもの学力は下がる」などの世の中にあふれる根拠のない通説を、データを通して真偽を見抜く思考法を紐解いています。ぜひチェックしてみてください！

後編では、2019年の名門私立幼稚園・小学校受験に合格された、ワーキングペアレンツの方々による合格者インタビューです。