子どもを叱りすぎたときの親の正しい行動とは?【専門家が解説】
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忙しい子育ての中で、「叱りすぎてしまい落ち込んだ」という経験は多くの親御さんがしているのではないでしょうか。それを繰り返さないために、原因を分析して改善を図ることが何より大事ですが、それでも叱りすぎてしまった場合に親が取るべき行動を、公認心理師の佐藤めぐみさんがアドバイスします。
目次
子どもを感情的に叱ってしまう状況とは
叱りすぎてしまうときというのは、ほぼ間違いなく怒りの感情があふれています。そしてその怒りの背景にあるのが、
・疲れている
・寝不足が続いている
・思い通りにしたい気持ちがある
・イヤイヤ期や反抗期に手を焼いている
のような状況です。きっかけとなる要因はさまざまですが、総じて言えるのは、心身が疲弊しているということ。
怒りが爆発する前から、すでに助走が始まっていることが多いのです。怒りやイライラなどの感情コントロールが肝になるのは明らかですが、助走の段階からテコ入れするのがポイントです。
・子どもとのベストな接し方に関しては、こちらの記事をご覧ください。
『「子どもとの接し方」に悩む親が急増中!年齢別の対処法をアドバイス』
子どもを叱りすぎたときにすべき親の行動4つ
後悔するほど叱りすぎないためには、自分なりの原因を探り、そこの改善を図ることが一番大事ですが、それでも思わず叱りすぎてしまった場合はどうしたらよいのか。そのポイントを見ていきましょう。
行動その1 素直に謝る
感情的に叱りすぎたことを子どもに謝りましょう。
「ごめんね。ママ言いすぎちゃった」
「大きな声を出していやだったね」
「ひどい言い方してごめんね」
と自分がやりすぎてしまった点を伝えていきます。
中には、親が子どもに頭を下げることに抵抗感がある方もいますが、「謝ったら自分を下げることになる」というのは間違った認識です。
そういう場面で自分の非を頑なに認めないことの方が、はたから見たら自分を下げていますよね。
子どもには「よくないことをしたら相手に謝ること」を教えているのですから、親自ら模範を示していくのは大切なこと。子どもにも、「ママ・パパはちゃんと謝る人」ということを示していきましょう。
行動その2 叱られてどう感じたかを聞く
その後は「ママが強く怒ってどう思った?」などと、お子さまの気持ちを聞いてみます。「怖いと思った」「嫌われたと思った」「ひどいと思った」など、その時感じていることを言ってくれたら、それを真摯に受け止め、その言葉それぞれに対応していくのが望ましいでしょう。
「嫌われたと思った」なら、「ごめんね、そんなことないの。〇〇ちゃんのこと大好きなんだけど、うまく気持ちをコントロールできなかったんだ」など、誤解している部分に対し、自分の非を認めます。
行動その3 一緒に気持ちを切り替える
強く叱ってしまった後は、親子共に気持ちを引きずりやすいもの。とくに子ども側は、親がいつまでも怒っていると、気持ちが切り替えられず、顔色を伺うようになることもあります。
大事なのは次回同様な場面で、同じことをお互い繰り返さないことであり、今回の件をクドクドと怒ってもいい影響はありません。親側から、「もう怒ってない」ということが伝わるような工夫をしていきましょう。
行動その4 ルールは変えない
子どもを叱る状況は、たいがいが「〇〇してほしい(のにしてくれない)」「〇〇を止めてほしい(のに止めてくれない)」という場面で、そこには家庭内のお約束やルールが存在します。
叱りすぎたからと言って、そのルールを「ないこと」にしてしまうのは望ましい対応ではありません。ダメなことはダメ、ということですね。
もしここで「強く言いすぎたから、今回は特別にテレビを見せてしまおう」のように対応してしまうと、約束を守る大切さが曖昧になり、さらにテレビを消せなくなってしまいます。
叱りすぎてしまうのがいけないのであって、注意しているポイント自体は間違っていないことが多いので、修正ポイントを間違わないようにしましょう。
・子どもの上手な叱り方については、こちらの記事をご覧ください。
『「怒る」と「叱る」はどう違う? 子どもを傷つけずに叱る6つのルール』
「叱ること」と「愛情」は分けよう
SNSでは、「叱った後に“大好きだよ”だなんて、まるで“DV彼氏”みたい」という声もあるようです。
たしかに、謝罪したり、愛情を伝えても、次も同じようなことをしてしまっては、そもそもの問題は解決できていないので、この点は似ていると思います。
ただ、親が叱りすぎたときに「大好きだよ」と伝えるのがDV彼氏と同様かというと、そうではありません。
DV彼氏とされる側の彼女は共依存状態になっていることが珍しくなく、ひどい暴力を受けたとしても、彼氏の元へ戻っていくことがほとんどです。「彼を理解してあげられる人は私しかいない」と自分の存在価値をそこに見出しているためです。
少し話が逸れましたが、親が子どもを叱るのは愛情があるからこそで、よその子にそこまで真剣にはなれませんよね。でもここが間違いやすい部分で、「わが子なのだから何とかしなくちゃ」と思うあまりに、一線を超えてしまうのです。
叱ることと愛情を伝えることは違います。私が日ごろ相談を受ける時に感じるのが、「甘やかさないけれど、甘えさせる」というバランスの必要性です。子育てにおいて、
①子どもを導く場面では甘やかさない→生活リズム、社会ルールなど
②子どもを満たす場面ではどっぷり甘えさせる→遊び、スキンシップ、会話など
この2つがよいバランスでどちらも必要なのです。①が上手く行かずに「叱りすぎてしまう」のが今回のケースです。
愛情があるからこそわが子を叱っているのですが、叱りすぎてしまっては子どもが親から感じる愛情を目減りさせてしまいかねません。本当の愛ある叱りというのは、
・知らないことを教える
・繰り返し練習させる
・根気よく付き合う
ことなので、一度強く叱ってからの「ごめんね」ではありません。「謝って済むなら警察はいらない」という言葉がありますが、やってしまったことは取り戻せませんし、謝ってプラマイゼロになるのかと言えば、そんなことはありません。
これが育児は“育自”と言われるゆえんですが、親の「コツコツ進もう」という覚悟が求められるのです。
・親子や友達間での依存についてはこちらの記事をご覧ください。
『親子の共依存とは?特徴と抜け出すための解決策を解説』
『小学生も悩む「友達依存症」の特徴や解決策を解説!診断チェックあり!』
自己嫌悪に陥ったときの親のメンタルケア
叱りすぎてしまった夜、寝ているわが子に「ごめんね」と謝りながら落ち込んでしまう話は非常によく聞きます。事が事だけに自分を責めたくなる気持ちもわかりますが、私のこれまでの経験を踏まえれば、こういう場面で自分を責めすぎないことが実はとても重要です。
これは責任逃れの意味合いで言っているのではありません。自分を責めると、「私はダメだ」と感じやすく、それが前に進もうというやる気を奪うからです。
「自分を責めちゃうと前に進みにくくなるから切り替えよう」と自分に言い聞かせて方向転換を図りましょう。
今回は叱りすぎてしまった場合の対処法をお伝えしてきましたが、何より大事なのは、感情的に叱る悪循環から抜け出すことです。「じゃあ何ができるか」へと目線を向けて、自分のメンタルを前に向かせていきましょう。
・親のメンタルケアに関してはこちらの記事をご覧ください。
『夜泣きやぐずりはメンタルリープ?ひどい時期の対処法と親のメンタルケア』
上でも少し触れましたが、怒りには“助走段階”があります。子どもが「水をこぼした」「テレビを消さない」という困りごとを起こす前の段階で、もうすでにうっすらと心の中で怒っていることが非常に多いのです。
その原因は、睡眠不足やPMSなどの体調不良だったり、頭の中で「あの子はいつも私を困らせる」「夫が何もしてくれない」などと考え続けるグルグル思考だったりとさまざまです。
感情コントロールというと、その場の「爆発」をいかに鎮めるかに目が行きがちですが、いったん起こった爆発を収めるのは非常に難しいもの。それよりは、まだ「うっすら」の段階で自分なりの気持ちを落ち着ける儀式をする方が助けになることは多いのです。
自分の怒りを順序立てて分解し整理していくことは、改善における重要なプロセスですが、自分1人ではどうにもならないという場合や落ち込んでどうしようもない場合は、専門家をはじめとした第三者と一緒に取り組むことも助けになるはずです。
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「怒る」と「叱る」はどう違う? 子どもを傷つけずに叱る6つのルール
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育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/