【公認心理師監修】赤ちゃん言葉のメリット・デメリットまとめ
小さいお子さんを育てているご家庭では、赤ちゃん言葉を使った方がいいのか、それとも標準語で話した方がいいのか、迷われる方も多いようです。そこで、本記事では子どもの言語発達を促すポイントについてまとめ、最後に公認心理師の視点でのアドバイスをお伝えしていきます。
目次
赤ちゃん言葉(幼児語)の特徴と使う時期
今回のテーマは「赤ちゃん言葉」についてです。赤ちゃん言葉とは、“幼児語”のことで、たとえば、
対象物が発する音からきたもの:ワンワン→犬、モーモー→牛、音を出しやすいマ行、バ行、パ行を用いたもの:マンマ→ごはん、ブーブー→車
間に“ん”を入れたもの:あんよ→歩く、足、ねんね→寝る、おんも→外
同じ音を繰り返すもの:きれいきれい→きれい、ないない→捨てる
などが挙げられます。発語に個人差はありますが、一般的には1歳前後から単語が出始め、1歳半くらいになると2語文も出始め、赤ちゃん言葉を多用する時期となります。
いずれも、小さい子の聞きやすさや言いやすさに沿ったものなので、ごく幼少期の一時期しか用いないという“期間限定の言葉”という特徴があります。子どもは自然とたくさんの言葉を覚えていくため、やめる時期を心配しすぎる必要はありませんが、目安としては4歳頃までに自然と大人言葉に移行できるといいようです。
赤ちゃん言葉のデメリットとは? あえて使わない選択も
短い期間しか用いないこと、さらに以下のような考えから、最近では赤ちゃん言葉をあえて使わないで育てるというご家庭も増えているようです。
「いずれは標準の言葉を覚えていくのだから二段階にする必要はない」
「赤ちゃん言葉を使わない方が語彙が増える」
「赤ちゃんにとって難しいサ行の発音が苦手になる場合がある」
など、合理性や知育の観点から赤ちゃん言葉をあえて用いない選択をしているようです。語彙力に関しては、1人の子で使った場合と使わなかった場合を比較できるわけではないので、そうだとする断定するのは難しいと思われますが、いずれは標準語に置きかえていくというのはまさにその通りですので、このような発想で取り組むご家庭があるのもごく自然なことだと思います。
赤ちゃん言葉は幼児期の言語発達にどう影響するか
そもそも、赤ちゃん言葉を使うか、使わないかを迷う背景には、できるだけ早いうちに多くの言葉を身につけてほしいという親の願いがあるものと思われます。
子育てをしていると、つい周囲と比較し、「うちの子は順調に育っているか」と気になることがありますが、その中でも言語の発達は親の心配事になりがちで、私の相談室でも、「周りと比べて言葉が遅いのが気になっている」と相談されることがあります。
早いと安心、遅いと不安、このように、子どもの言語発達をわが子の成長のスケールとして捉えられていることが多いようです。
ですが、言語の発達においては個人差もあるため、赤ちゃん言葉を「使ったから早く」「使わなかったから遅い」だけでは言い切れません。そこで、以下では赤ちゃんに話しかける際に意識したいポイントをお伝えしたいと思います。
赤ちゃん言葉を用いる3つのメリット
では、赤ちゃん言葉を用いることは言語発達に有効なのでしょうか?
イギリス・カーディフ大学のレイング博士はニューズウィーク日本版の「Why Baby Talk is Good」という特集内で、赤ちゃん言葉の良さや特徴について、以下の点を挙げています。
■赤ちゃんが好んで耳を傾けやすい
大人が赤ちゃん言葉で話すとき、特有の声音(こわね)が使われる傾向があるそうです。特徴的なのは、高い声であること、抑揚が大きいこと、ゆっくり話すこと。まるで歌うような感じで話すと、赤ちゃんがじっと注意を向けることも研究でわかっています。
■単語として独立しやすい
これはゆっくり話すことも大きく関係していますが、赤ちゃん言葉では個々の言葉や音が明瞭に発話されることが多く、その分、赤ちゃんが単語として拾い出しやすくなります。言語処理のスピードがまだ遅い赤ちゃんにとっては、ゆっくりと単語ベースで声かけをされた方が処理しやすいと考えらえています。
■音の繰り返しが多いので伝わりやすい
畳語とは、ワンワン、メェメェなどの繰り返しのある言葉のことで、赤ちゃん言葉に非常によく見られます。これらの言葉は新生児であってもより強い脳活性をしめすとされ、赤ちゃんが簡単に覚えられることもわかっています。
このような観点から、赤ちゃん言葉の利点が述べられていますが、これらのポイントをあらためて見てみると、赤ちゃん言葉の言葉自体について触れているのは3つめで、それ以外は、声のトーンや抑揚、そしてスピードなどの「どう伝えるか」を言及しているのがわかります。
そこで思い出されるのが、“ペアレンティーズ”。アメリカで用いられている赤ちゃんに語りかける際の手法です。
特徴は3つあり、
高い声で
抑揚をつけて
ゆっくりと
声の高さは1オクターブほど高く、そして抑揚は高低をしっかりと、言葉と言葉の間を空けてゆっくりと話すことをポイントとしています。
これらはレイング博士の言っていることとぴったり重なることからも、赤ちゃんにしっかり伝える上での非常に大事な秘訣だと言えるでしょう。
言語習得は耳から! 赤ちゃんへの「聞こえ方」を意識しよう
ここまでの話で見えてくるのは、赤ちゃんに言葉を伝えていくためには、何を言うか以上に、どのように言うかの方が大切なように思えてきます。
言語習得は耳から始まります。耳でキャッチしたことがいずれ口から出るようになってくるのですから、伝わらなければ始まりません。一般的に、話し言葉は言葉が区切りなく流れる傾向があるため、工夫をしなければ、処理能力が未発達の赤ちゃんには届きにくくなってしまいます。
過去に私たちが取り組んできた英語学習を思い出すとイメージしやすいと思うのですが、私たち日本人は読み書きよりもリスニングが苦手という人は多いですよね。英語教材の1ページ目に出てきそうな「I have a pen」。書いてあれば簡単に読めるのに、話し言葉だと、「Ihaveapen」のように聞こえてしまうため途端にわからなくなってしまいがちです。今私はアメリカに住んでいて、日々英語に苦戦しているのですが、なぜかと言えばネイティブの人が話すと単語がくっついてしまうから。単語1つ1つはとても簡単なものでも、つながってしまうだけで意味不明になってしまうのです。
この視点は赤ちゃんとのコミュニケーションに役立てることができると思います。単語自体は、“犬“と言うよりは、”ワンワン“の方が、赤ちゃんには伝わりやすく発音もしやすいかもしれませんが、「みてみてワンワンあそこにいるよ~」だと、単語が埋没してしまっています。それだったら、「いぬ、いるね」の方が単語1つ1つが際立っていますよね。ペアレンティーズの3つのルール“高い声で、抑揚をつけて、ゆっくりと”を意識することが伝える極意ということなのでしょう。
言葉を促すには親子のコミュニケーションが不可欠!
赤ちゃんの心×言語発達の関係性
私は子どもの心理発達が専門なので、言語の方は詳しくありません。よって、赤ちゃん言葉の方がいいのか、大人言葉がいいのかという言及をする立場ではありませんが、“子どもの心×言語発達”という観点であれば、何がカギとなるかをお伝えできます。
「子どもの心を育みながら言語も促す」、このために一番大事だと思うのはコミュニケーションの量です。
世の中を見渡すと、「赤ちゃん言葉の方が語彙が増える」と言う人もいれば、逆に、「初めから普通の言葉で話した方が伸びる」という人もいます。成果を感じている人のSNSなどを見ると、つい飛びつきたくなりますが、その方たちは日々あふれるほどの声かけをしているからこその成果なのだと思っています。
「よし、普通の言葉で行こう!」と決心しただけではダメということですね。
生まれたばかりの頃は、声をかけても伝わっていない気がしてしまい、気づいたら黙々とお世話をこなしていたということはけっこうあるものです。ですが、赤ちゃんはお腹の中にいるうちから(妊娠第三期)、子宮を通じてママが話す言葉を聞いているのだそうです。その段階では1つ1つの単語ではなく、話し言葉の流れのリズムや抑揚を聞き取っていますが、それらになじむことで、生まれる頃にはママの話す言語を好むようになるのだとか。ですので、親が“おしゃべり”であることはとても大事なのです。
今はどこのご家庭も忙しく、親子のコミュニケーションが減っていると感じています。ともすると、テレビやタブレットの前に長時間座らせたままということもあります。生まれてからの数年間は、人への信頼感や自分の存在価値を築き上げていく非常に大事な時期ですが、その材料となるのが親子間の無数のやりとりです。親からの声かけが多ければ、それだけその子は自分は愛されていると感じますし、周りの人や社会にも良い見方をするようになっていきます。言葉を伸ばすだけでなく、子どもの心も健全に導いてくれるのです。
高い声で
抑揚をつけて
ゆっくりと
そして、たくさん
この4つを意識して、お子さんの言葉と心の発達を促していってほしいと思います。
育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/