ボードゲームで子どもの非認知能力を育む!アメリカの活用方法をご紹介
近年、日本ではボードゲームが教育現場で注目を浴びており、習い事に取り入れようという動きもあります。アメリカでは日本よりも早く、教育の一環として授業にボードゲームが導入されています。そこで今回はボードゲーム大国アメリカで、実際どのように活用されているのか、どのような点において教育に役立つのかについて説明します。
目次
ボードゲームで培われる「非認知能力」とは
ボードゲームがなぜ注目を浴びているのかをひもといていくと、そこには「非認知能力」との深い関わりがあることがわかります。
幼少期の「非認知能力」の重要性については、2000年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカ人経済学者のジェームズ・ヘックマン教授が提唱し、世界中の教育者たちから注目を浴びるようになりました。
主に、自己肯定感や共感性、主体性、協働力、遂行力などを指していて、数値化することは難しい「生きる力」と言われるものです。また、この「非認知能力」が幼少期に高かった子どもは、将来、社会的地位や心身の健康指数が高いという研究結果もあります。
テストなどで数値化される「認知能力」は、むろん大切です。しかし、今後はそれに加え、「認知能力」をより伸ばすためにも「非認知能力」をいかに伸ばすかがとても重要とされているのです。
「生きる力」を育むため、2020年に日本で約10年ぶりに学習指導要領が改訂されたことも大きな反響を呼びました。
政府広報によれば、「グローバル化や人口知能・AIなどの技術革新が急速に進み、予測困難なこれからの時代。子どもたちには自ら課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、自ら判断して行動し、よりよい社会や人生を切り拓いていく力が求められる」と説明されています。
わかりやすく言えば、子どもが自分自身で問いかけ、自らが答えを導き出すという「探求心」や「主体性」を引き出す能力を養うための学習ということです。
時代の変化とともに、今までのような詰め込み型の学習方法だけでは太刀打ちできない時代の到来を見据えています。
「非認知能力」が求められるボードゲーム
ボードゲームが教育現場で注目される理由としては、ゲームを進めるうえでどうしても「非認知能力」が必要になるという点です。
ボードゲームでの遊びのなかでは、対面にいる相手がどう出てくるのか表情を見ながら考える洞察力、勝つための戦略を立てるための計画力や判断力、ルールを守るといった忍耐力や自制心など、たくさんの「非認知能力」が求められます。
さらに、細かいパーツを自分で組み立てたり片付けたりすることで、手先の器用さが向上することなどもメリットとして挙げられます。
特に幼児や小学校低学年児童において、楽しみながら学習できるということは大きな利点です。
教育現場のさまざまな場面で活用
また「非認知能力」と関係性が深い学習として、アメリカでは「Social and Emotional Learning(SEL)」(社会情緒的教育)というカリキュラムがあり、多くのプリスクール(幼稚園の年中・年少)や小学校で取り入れられています。
目的は自制心や忍耐力、コミュニケーション能力の強化です。特に低学年の教育現場で重要視されており、小学校入学前のキンダー学年(主に5歳児)の担当になる教師は、このSELを教えることがアルファベットや数字を教えることと同じくらい重要とされています。
そしてSELの一環として、授業のなかにはさまざまなボードゲームやカードゲームが取り入れられています。まず、ゲームを始める前に生徒は教師と必ず約束をします。ルールを守る、負けても癇癪を起さない、といったことです。
使用するゲームの種類はいろいろありますが、例えばプリスクールやキンダー学年の子どもは色や形、数字を学びます。サイコロの目の数字やボードのマス目の色を楽しく学べることはもちろん、負けそうになった時も投げ出さない、泣かないといった感情コントロール力を育むことができるのです。
また学年が上がりSELがある程度身についた後においても、教師によっては市販のボードゲームに自らひと手間加えた形で授業に使う場合もあります。例えば、品詞を学ぶ際にはボードゲームに付属するものとは別に、教師は小さい紙1枚につき1品詞を書き入れた紙を用意します。
最初に生徒は教師のお手製の紙を1枚引き、その品詞を正しく使用して一文を考えて発表。それができれば、通常通りゲーム付属の札を1枚引いてゲームに進めるというルールです。もしも品詞を使った文章をただノートに書かせるだけであれば、退屈してしまったり、考えられずに手が止まったりしてしまう子が出てくるからです。
こういった形をとって複数人でゲームを交えながら授業を進めると、誰しも1番にゴールしたいという闘争心が駆り立てられて積極的に考え、活発に発言します。このように、ボードゲームを通じて生徒たちはSELも鍛えられ、授業に意欲的に参加するようになるのです。
右下の白い紙が教師のお手製。書かれている品詞を使った一文を発表する(画像提供:Hiromi)
※ハズブロ社 ボードゲーム「Candy Land」を使用(日本国内での取り扱いのない商品になります)
まとめ
日本の学校現場においても探求学習授業が組み込まれ、机上の学び以外での学習が進んでいます。
遊びながら学べるボードゲームはこの年頃の子どもたちにとって、最適な学習ツールの1つと言っても過言ではありません。これからは従来型の学習方法に加え、ボードゲームのような体験を通じて「生きる力」をつけていく必要があるのではないでしょうか。
執筆者/Hiromi
<参考文献と参照URL>
『世界最高の子育て』著:ボーク重子
『幼児教育の経済学』著:ジェームズ・J・ヘックマン
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3041102/
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/youji/dai1/siryou3-2.pdf
https://highscope-japan.org/know/history/#:~:text=%E3%83%9A%E3%83%AA%E3%83%BC%E5%B0%B1%E5%AD%A6%E5%89%8D%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E3%81%8C,%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%92%E9%96%8B%E5%A7%8B%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/sougou/main14_a2.htm
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201903/2.html
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。