全寮制寄宿学校「ボーディングスクール」伝統重視の英国でも改革の波

全寮制寄宿学校「ボーディングスクール」伝統重視の英国でも改革の波

全寮制寄宿学校である現在のボーディングスクールは、貴族の身分に属さない富裕階層のために、15世紀から16世紀にかけて英国で誕生した学校がモデルになっています。しかし、伝統を大切にする英国でも、近年はボーディングスクールの改革が多くみられます。これまでとは違った運営スタイルを導入しているケースなど、現地の取り組みや改革をご紹介します。

日本にも名門ボーディングスクールがオープン

日本にも名門ボーディングスクールがオープン

450年以上もの歴史を持つ英国の名門校ハロウスクールの姉妹校となる「ハロウ安比」や、英国式で通学制・寮制選択が可能な「ラグビー・スクール Japan」など、日本でも新しいインターナショナルスクールの開校が話題になっています。両校とも「ザ・ナイン」と呼ばれるイギリスで代表的な名門ボーディングスクール9校に含まれており、日本での開校は英国ボーディングスクールの教育改革の一環と見なされています。

これらの学校は上流階級に向けた名門校ではあるものの、英国では時代と共に従来のような形での維持が難しくなっています。名前は知られていても、近年、学業面では必ずしも上位にランクされておらず、高額な学費を払ったとしても、名門大学合格に向けてトップクラスの成績を収めることは難しい状況にあります。

その背景には、YouTubeなどオンラインでの情報共有が教育現場に与える影響が大きいとされています。しかし一方で、英国の伝統的な教育やマナーを求める外国人には人気が高く、そういったニーズに応えるためにオンライン展開や海外進出を進めているのです。

「ザ・ナイン」の学校においては、イートン校とハロウ校以外では男子校から共学校への移行が進んでいることもあり、イギリスの名門大学を目指す富裕層の留学生などに依然として人気があります。英国経済誌ファイナンシャルタイムスの報告によれば、現在、英国ボーディングスクール生徒の約40%を海外からの留学生が占めています。

社会の変化に合わせたフレキシブル対応も

近年のボーディングスクールでは改革の一環として、完全寄宿制ではなく、食事と学童付きで夜は帰宅する「フレキシ」や、週末は家に帰る「ウィークリー」といったシステムを提供するケースが増えています。

これは、共働きの増加など社会の変化や、ボーディングスクールに関するマイナスな報道に対応するための取り組みです。とくに男子校では、堅苦しい伝統的な儀式や風習がインターネットを通じて広まり、保護者間で不信感が高まっています。

学校側も生徒確保のために柔軟な運営方針にシフトしており、なかでも「フレキシ」のオプションを充実させています。保護者の希望に応じて、生徒が学校に滞在する日程をホテル予約のように選べる学校もあります。

名門校受験する子に必要な「プレップスクール」

名門校受験する子に必要な「プレップスクール」
ボーディングスクールには、公立と私立の2つのタイプがあります。英国国内には現在、比較的手が届きやすい費用の約30校の公立ボーディングスクールがあり、これらの学校は11歳以上のイギリス国籍保持者のみを受け入れています。一方で私立のボーディングスクールは、通常は 11歳から13歳の間に受験を経て入学します。

11歳から13歳の私立ボーディングスクールの受験対策は、一般的な節目である4歳または7歳から、児童に高度な教育を行うプレップスクールに通うことです。これにより、ボーディングスクールの受験に必要な学力や基礎的なスキルを身につけることができます。7歳であれば、プレップスクールを経て私立ボーディングスクール一貫校に入学できるチャンスもあります。

年間にかかる費用は公立でも約200万円からと高額で、私立校ではおよそ2~3倍になります。11歳での名門系ボーディングスクールの受験科目は知能テストと国語、算数が主流です。受験準備についてはプレップスクールに入るという選択肢が多いものの、家庭内で家庭教師と親がサポートするケースもみられます。

13歳での受験には理科、歴史、地理、外国語、古典(ラテン語など)などの科目が加わって専門的になるため、どうしてもプレップスクールからの受験が必要となります。

こういった受験形式も学校改革の一環として徐々に変化し、プレップスクールを経由しない11歳での受験が主流になってきました。また、11歳での競争を避けるため、競争率の低いボーディングスクールでは10歳で受験させるケースもあります。

ただ、全体的にボーディングスクールの受験競争率は下降気味であり、ロンドンのデイ(通学)スクール人気校と比較するとそれほど高くありません。そのため、ロンドンでは滑り止めとしてボーディングスクールを受験するケースも見られます。

まとめ

このように、英国のボーディングスクールは歴史的なスタイルを保ちつつ、近年では多くの改革が行われています。ネットの浸透や階級制社会の変化に伴い、運営スタイルだけでなく受験システムも少しずつ変化していきそうです。

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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