思春期の子どもの心を守る境界線「バウンダリー」の引き方とは?

思春期の子どもの心を守る境界線「バウンダリー」の引き方とは?

友達、親、先生、SNSなど、子どもたちがNOと言えない人間関係の正体は「バウンダリー」にあると話すのは、『わたしはわたし。あなたじゃない。10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』の著者で、スクールソーシャルワーカーの鴻巣麻里香(こうのすまりか)さん。親も無意識に侵害しがちなわが子のバウンダリーのこと、さらに親子関係を良好にする秘訣を伺いました。



鴻巣麻里香さん
精神保健福祉士・スクールソーシャルワーカー。外国にルーツがあることを理由に幼少期に差別やいじめを経験する。ソーシャルワーカーとして精神科医療機関に勤務し、東日本大震災の被災者・避難者支援を経て、2015年に非営利団体KAKECOMIを立ち上げ、子ども食堂とシェアハウスを運営。現在はスクールソーシャルワーカーとして子どもたちの心のケアをサポートしながら、講演、執筆など多岐に渡り活動している。新刊『わたしはわたし。あなたじゃない。10代の心を守る境界線「バウンダリー」の引き方』(リトルモア) が発売中! X(@marikakonosu

バウンダリーとは「加害されないために必要な境界線」

__まず、バウンダリーという言葉の意味を教えてください。
バウンダリーとは、個人の境界線あるいは他者との境界線という概念です。この概念は、精神分析や心理学の中で古くより存在しました。

バウンダリーという言葉としては1980年代前後から、メンタルヘルスやセルフヘルプという文脈で使われ始めました。

日本では2010年頃からアドラー心理学の流行に合わせて広まっている印象で、「心理的に加害されないための境界線」という意味合いで使用されています。

__なぜ、「バウンダリー」をテーマにした本を執筆しようと思ったのでしょうか?
私はソーシャルワーカーとして、子どもたちや親御さんたちの困りごとを支援しています。

そこで最近感じるのが、子どもたちに「あなたはどうしたい? 最善は何かな?」と質問しても、「親が、先生が、友達が」は出てくるのに、「私は」と自分の気持ちが答えられない子が多いことです。

これは“自分の軸がない”のではなくて、“自分と他人の心配や願いがごちゃ混ぜな状態”だと気づいたのです。

つまり、悩みを抱える子の多くは、周りの言葉で“私の嫌”の境界が崩されている状態=バウンダリーが侵害されているのです。そこで、その子たちのバウンダリーを明確にし、引き直すことを支援のプロセスに加えたところ、とてもよい効果がありました。

バウンダリーは「自分は何をされた(言われた)ときに嫌な気持ちがするか、何が願いか」を言葉や図にして視覚化できるので、「お互いの線がぐちゃぐちゃになっているところを整理してみよう」と小さい子でも理解しやすいのです。それを伝えたくてこの本にまとめました。

親は無意識のうちにわが子のバウンダリーも侵害している

親は無意識のうちにわが子のバウンダリーも侵害している

__バウンダリーは友達間だけでなく家族間でも存在するということでしょうか。
バウンダリーは親子間でも存在します。たとえば、

「男の子なんだからしっかりしなきゃ」
「お姉ちゃんなんだからお世話できるよね」
「女の子は大人っぽい」

なども、子どものバウンダリー侵害に該当します。

子どもたちは、こうした大人からの期待を“自分らしさ”かのようにふるまって、気づいたときには“本当の自分らしさ”がよくわからなくなることがあるのです。

私たち大人は「無意識のうちに子どもを苦しめていることがある」と理解する必要があります。

__他にわが子に言いがちなバウンダリー侵害フレーズはありますか?
「自分で決めたんだから最後までやりなさい」も子どもへのバウンダリー侵害です。やると決めたのも自分なら、途中で気持ちが変わって辞めると決めてもいいはずですよね。

仮に頑張って続けてきた習い事を途中でやめると言い出したら「そっかやめていいよ」と簡単には言えないかもしれませんが、辞めたい気持ちをまずくみ取って「その気持ちは大切」であると伝えましょう。

そのうえで「親としてはこう思うんだ」と、子どもの事情と親の懸念を分けて考えてみてください。親の懸念を材料にした説得にならないよう注意が必要です。

“なんか嫌”のスイッチ探しがバウンダリーを守る手助けになる

__子どもにバウンダリーをわかりやすく伝えるコツはありますか?
まず、人間関係は“心地いい関係”が理想だけれど、心の膜にチクチク入ってくる人がいる(=苦しくなる)と伝えます。

そして、その膜は人によって厚さも形も違うこと、さらにチクチクすることはあなたが悪いのではないけれど、守ってあげられるのは自分だけであることも教えてあげてください。

これは本にも書いていますが、友達と話すのは楽しいけれど、噂話や悪口、恋バナなど心地よくない話題もあるはずです。

子どもたちに「それを話しているときはどんな感じ?」と聞くと、

「緊張する」
「なんか嫌な気分」

などと教えてくれます。
体は正直なので、その「嫌な感じ」に気づけると、自分のバウンダリーの守り方がわかってきます。

たとえば「トイレに行ってその場を離れる」などが対処法になる場合もあれば「とりあえず話には加わらずその場にいるだけ」が適している子もいます。

大人になると“嫌だ”という気持ちを頭で封じがちなので、幼少期から“なんか嫌”のスイッチとそのスイッチが入ったときの対処法を探す練習をしてみるとバウンダリーの理解がしやすくなるはずです。

「好き」は最強のバウンダリーになる!

「好き」は最強のバウンダリーになる!

__わが子が自分のバウンダリーを守るために、親ができることはありますか?
“なんか嫌だ”と同じように“好き”な気持ちも、心を守ることを助けてくれます。なぜなら、好きなことを考えているときは心地いいからです。

親からしたら「どこがいいの?」と感じる好きも出てくるかもしれませんが、誰かを脅かすものでなければ、大人はジャッジしないことがポイントです。

もし、残虐で攻撃性のあるものや性的に逸脱したものなど刺激の強い好きがある場合は、その刺激で心の痛みをごまかそうとする行動の可能性があります。SOSかもしれないという視点を持ちましょう。

思春期のわが子と良好な親子関係を築くためのコツ

思春期のわが子と良好な親子関係を築くためのコツ

__親子間でバウンダリーを侵害せず、良好な親子関係を築くためにはどうすればよいでしょうか。
まずは「自分と子どもの懸念を線引きすること」。親と子のバウンダリーはそもそも違うのです。

転んでケガをして痛いと泣くわが子に「痛くない痛くない」と否定したことはありませんか? これもわが子へのバウンダリーの侵害です。残念ながら、わが子が素直に感じたことを否定するコミュニケーションは日常にありふれているのです。

その状態が続いて「親に言っても無駄」とならないために、普段から「晩ごはんは何を食べたい?」「週末は何をしたい?」など些細なことでいいので、子どもの意見と気持ちを聞いて尊重するのが良好な親子関係を築くコツです。

とはいえ、今の時代は親も子も忙しく、話し合う時間もないというご家庭もあるでしょう。そんなときはツールとしてメールなどのテキストでのやりとりでも十分効果があります。

__親子喧嘩の定番「友達の持ちものやルールがうらやましい」の対応を教えてください。
まずはわが子の話を聞いて「〇〇ちゃんがうらやましいんだね」と気持ちを肯定してから、どうしてうちがNOなのかを説明しましょう。

その際、世の中にはいろんな家のルールがあること、さらにそのルールの目的は「あなた(子ども)を守ること」だから友達とは違うと話してあげるのがおすすめです。

※子どもの思春期に関しては、こちらの記事もご覧ください。
女子は8〜9歳から始まる子も!小学生の思春期と親の接し方を解説!ココロ編・カラダ編
子育て心理学のプロに聞く!思春期の入り口、子どもの「コンプレックス」とどう向き合うべき?

親が子どものエピソードや写真をSNSでさらすのもバウンダリーの侵害

親が子どものエピソードや写真をSNSでさらすのもバウンダリーの侵害

__思春期になると子どもへの干渉の度合いが難しいです……。
子どものプライバシーの保護(子どもの権利)は親の義務ですが、それを認識できていない親は少なくありません。

もちろん、親は子どもを危険から守りたいからそうしているのですが、「親の管理や干渉が強くなると、子どもは秘密を持つことで自分のバウンダリーを守るようになる」ということも覚えておきましょう。

何よりも大事なのは、先回りする危険の回避ではなく、親子の信頼関係の構築です。

__スマホやSNSに関して親はどんなことを意識すればよいでしょうか?
子どもにスマホを与える際は、始めにルールを一緒に決めて渡すのが鉄則ですが、わが子のSNSのアカウントのやりとりや写真を勝手に見る、親が子どものエピソードや写真をSNSでさらすのもバウンダリーの侵害になります。

実際に、海外では子ども時代の写真を無断でSNSにあげた親に対して、成人した当事者が裁判を起こした事例もあります。

子育てには正解がありませんし、孤立感や無力感、不安感を感じやすいので、それを和らげるために親御さんがSNSを活用することが多いかもしれません。

ですが、オンラインでもオフラインでも秘密を守って信頼できる人とつながることが重要であり、SNS上で子どもの日常を発信するにも「子どもの同意」が必要であるということを改めて意識していただきたいです。

子どものバウンダリーはまだ作られている途中である

__最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
子どものバウンダリーは作られている途中であるのはもちろんですが、大人だからバウンダリーが完成されている、というのは幻想です。関わる人が変わればバウンダリーの形も変わり、揺らいでは引き直すの繰り返しなのです。

よい教育を受ければ、完璧で健全なバウンダリーが手に入るわけではありません。ただし、子どもは親や先生など身近な大人からのメッセージを強く受け止めてしまうため、子どもの方がバウンダリーが揺らぎやすく、壊れやすいのは事実です。

そのため、大人の側がきちんと引く、引き直すことが必要です。

この本を読まれた大人の方の感想としては、

「子ども時代の辛かったことを思い出した」
「自分がわが子のバウンダリーを侵害していると気づいて耳が痛い」

の2つが多いですが、どちらも変わるきっかけだと前向きにとらえていただきたいです。

私自身、親として完璧にはできていませんし、ダメだと思うところは山ほどあります。

自分を責める必要はありませんが、「私にはできない」と甘やかさずに、少しずつ実践していくきっかけにしていただけたら幸いです。

※親と子どもの関わり方や、子どもの「好き」の見つけ方については、こちらの記事でも解説しています。
過干渉は逆効果!?3歳~4歳を伸ばす親の心構えとは?
「自分の好きが分からない!」子どもたちの悩みと向き合う、 吉井奈々さんにインタビュー

著者プロフィール

SHINGA FARM(シンガファーム)編集部が執筆、株式会社 伸芽会による完全監修記事です。 SHINGA FARMを運営する伸芽会は、創立半世紀を超える幼児教育のパイオニア。詰め込みやマニュアルが通用しない幼児教育の世界で、毎年名門小学校へ多数の合格者を送り出しています。このSHINGA FARMでは育児や教育にお悩みのご家庭を応援するべく、子育てから受験まで様々なお役立ち情報を発信しています。
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