子どもの発達の差は個性!当事者だからわかる「発達凸凹っ子の育て方と伸ばし方」
大人になってからADHDだと知った元ゲームクリエイターの南雲玲生さん。ご自身の少年時代を重ね「才能あふれる子どもたちの居場所を作りたい」と沖縄で発達凸凹っ子(はったつでこぼっこ)※のための放課後等デイサービス「ドーユーラボ」を創設されました。
今回は、精神科医の後藤健治先生監修の著書『天才肌な発達凸凹っ子の育て方: せっかくの才能を引き出すための新発想アドバイス』(誠文堂新光社)をリリースされた南雲さんに、当事者だからこそわかる思いや、凸凹っ子たちの才能を引き出すアドバイスを伺いました。
※ドーユーラボでは発達障害ということばは使わず、発達障害児を発達凸凹っ子(はったつでこぼこっこ)と呼んでいるため、本の中でもそのように表記しています。
音楽ゲーム「beatmania」を始め、数々のヒット作品を生み出した音楽ゲームクリエイターとして活躍されてきた南雲さん。自身のADHD診断を契機に、発達凸凹っ子のための放課後等デイサービス「ドーユーラボ」を創設。これまでの南雲さんの活動や、ギフテッド・天才児など発達凸凹っ子が集うドーユーラボの取り組みなどをまとめた、精神科医の後藤健治先生監修の著書『天才肌な発達凸凹っ子の育て方: せっかくの才能を引き出すための新発想アドバイス』(誠文堂新光社)が発売中。
目次
当事者だからわかるADHDの生きづらさと活かし方
__南雲さんは大人になってからご自身がADHDだと知ったそうですが、精神科医の後藤健治先生の診断を受けて、新たな気づきはありましたか?
一般的には発達障害の診断が出たら、ショックを受けたりネガティブな感情になるのかもしれませんが、私は「なるほど!」とすっきりしたんです。
それだけではなくて、自分のことも含めて発達障害や人間に興味を持ち、「どうすればもっと生きやすくなるのか」の分析をしたいと思ったんです。それが結果的に、今の仕事にもつながっています。
__南雲さん自身、幼少期は「学校に居場所がない」と感じ、ゲームクリエイター時代は「居心地がいい」と感じられたそうですが、当時の心境を教えていただけますか?
今は「何がどう辛いか」を言葉で伝えられるのですが、子どもの頃は自分の思いにも気づけないので当然言葉にできなかったし、同級生と話が合わず、学校でやることの意味が理解できませんでした。
ただ、自分なりに「周りに合わせなきゃ」とは思うので、無理に楽しそうな顔をしようとするも、気を抜くと不用意な発言をしてしまったり(笑)。授業も教科書を読めば内容がわかるのに、45分間耐えるのが退屈でしたし、当時はストレスから、どもりや吃音もひどく、人前で話すことができない子ども時代でした。
一方、高校の頃から「周りを意識したり無理に合わせたりしなくてもいい」と思うようになって楽になりました。高校時代やゲーム会社で働いていた10年間は、特に人間関係で困ることはありませんでした。
周りにいる人たちが自分より知識レベルが高かったし、好きなことを学べる環境で刺激に満ちていたからだと思います。何より、ゲームクリエイターは自分に似ている人ばかりだったのも居心地がよかったんです。
つまり、発達凸凹っ子は興味関心の高いことに対する過集中といった特性を活かす仕事につけば、不自由なく暮らせるし、むしろ大成功する可能性を秘めているのです。
最近の発達凸凹っ子に多い特徴
__最近の発達凸凹っ子に見られる特徴について教えてください
ドーユーラボに来る発達凸凹っ子たちを見ていると、大きく以下のような特徴があると思っています。
・表面上だけ周りに合わせている子
→「そこまで考えなくてもいいのに」と思うほど周囲や親に気を使っている(女の子に多く見られる)
・ADHD系の子
→落ち着きがないのは低学年まで。高学年以降は頭の中の多動に移行するので、見た目ではわからない。ただし、人を警戒して距離をとるため、ふてぶてしく見えてしまうことがある。一人で黙々と作業に没頭できる
・アスペルガー系の子
→人懐っこくて人の話は聞かない。趣味の話をしだすと止まらない
ドーユーラボではこういった特性を生かして、プログラミングやアート、音楽などの好きなことをどんどん深めて伸ばす働きかけを行なっています。
発達凸凹っ子は高学年になれば自分の診断結果を理解できる
__「発達凸凹っ子はいいところを伸ばし、困っている部分だけ補正すればいい」という考えにたどり着いた経緯を教えてください
発達凸凹っ子も空気を読んだり分析したりして周りに合わせようとします。ただ、そのためには自己評価や自己肯定感が上がらないと頑張れません。
何か得意なことや好きなことで成果を出して自信がつけば、凹んでいる苦手なことにも向き合えるのです。
発達凸凹っ子の凸の特性が、興味のあること(得意)とリンクすると、自分にとって最強の武器になります。その強みを活かせば、今までになかったものを生み出し、世界で活躍する可能性を存分に秘めているのです。
ドーユーラボではそんな子たちをたくさん見てきました。ですから、発達に凸凹がある子は、いいところを伸ばしながら、困っている部分だけを補正すればよいと実感しています。
__発達凸凹っ子たちは、自分の特性をどのように理解しているのでしょうか?
僕は大人になってから診断が出たのですが、子どもでも発達凸凹っ子であれば、10歳くらい(小学校高学年)でも診断結果を理解できます。
むしろ、僕たちはふんわりとした言葉で「ADHDの傾向があります」などと言われてもピンとこないので、検査結果のグラフ(下記イメージ参照)の凸凹を一緒に見て、自分は何が得意で何が苦手なのかを把握することは、将来を考える上でもとても有効です。
結果はIQの数字よりも言語性や動作性などの構成要素のパラメーターが大事で、高い部分が平均の10より高いと得意、低いと苦手な部分となります。
発達凸凹っ子はその差がとても大きいので一目瞭然なはずです。ちなみに僕はその差が10ありました。
発達凸凹っ子の親として知っておきたい3つのこと
__わが子が発達凸凹っ子だとわかったとき、親や家族ができることや知っておくとよい対処法はありますか?
経験上、僕が考えるポイントは以下の3つです。
① 診断は思春期前がよい
② ADHDとアスペルガーの子で対処法が全く逆になる
③ わが子が発達凸凹っ子だと診断されたら、できれば親御さんも診断を受けてみる
まず、本の中でも「ADHDの子には旅を」「アスペルガーの子には愛を」と書いている通り、発達凸凹でも特性が全く異なります。
ADHDは情緒や感情に左右されにくく合理的な思考のため、親子であっても一定の距離を保つドライな関係を求めたがります。
一方のアスペルガーは人懐っこく、正義感が強く、誰かの役に立つことが大好きで、一つのことに没頭して取り組み、ルーティーンを崩すのを嫌う傾向があります。
さらに、最近は子どもの8.8%が発達障害だと言われていますが、お子さんの発達凸凹を機に調べてみると、親御さんにも発達凸凹があるとわかった方が大勢います。
しかも、お子さんがADHDで親御さんがアスペルガー(その逆も然り)では、お互いを理解するのは難しいですから、「今まで真逆の対応をしていた」ということがよくあるのです。
また、精神科医の後藤先生曰く、人は発達障害であっても周囲に合わせようとするので、大人になるにつれて見当違いの合わせ方や表面的なふるまいをしてしまうことがあります。
深い人づき合いをするたびにトラブルになったり、僕もそうでしたが、初見では社会や周囲に合わせすぎてアスペルガーだと診察されたものの、専門医が深く診察をするとADHDだったということになるのです。
ですから、悩まれている場合は、ぜひ思春期までに診断を受けて、お子さんが自己流で合わせて生きづらさを感じる前に、正しい対処法を知っておくのをおすすめします。
発達凸凹っ子の活かし方。向いている職業や学校選び
__ADHD、アスペルガーそれぞれの発達凸凹っ子が向いている職業についてアドバイスいただけますか?
まず前提として、発達凸凹っ子の場合も、個人差はありますし、IQやインテリジェンス(知性・理解力)が高ければ高いほど、職業を選べる選択肢は広がるということは事実だと思います。その上でお伝えしますと、
【アスペルガー傾向の子が向いている職業】
プログラマー、研究者、税理士など何かを専門に扱う仕事(士業)
論理的に知識を活用することが得意で、集中してひとつのことを深く追及できる。事実に基づいて継続的に取り組めるルーティンタイプ。一方、イメージの映像を頭の中に再現できず、関連づけることや相手の気持ちを汲み取ることが苦手なので、接客業やクリエイターは不向きと言えます。
【ADHD傾向の子が向いている職業】
ゲーム会社や広告代理店などで働くクリエイター
発想力や創造力に富み、ワクワクすることや人が大好き。家で見聞きしたことと旅行先で感じたことなどをうまく連結でき、知識の飛躍が得意。一方、ひとつのことを継続して努力する事務や管理などルーティーン作業の仕事は不向きと言えます。
実際、ゲーム業界にはアスペルガー傾向の人が多い印象なのですが、続編やシリーズを開発する受託会社には、プログラマーやイラストレーターなどの職人タイプの仕事、発注側(企業)では、ゼロからゲームを生み出す企画やデザイン、サウンドクリエイターなどの仕事があります。
大枠は同じ職業でも分野によって活かせる才能が異なる点もポイントです。
__発達凸凹っ子の進路について。学校選びのコツはありますか?
お子さんの発達の特性に合う校風や入試をきちんと調べることはとても大切です。高校入試では、合理的配慮申請というのがあって、事前に申請することで、試験時間を長くしたりノイズキャンセルヘッドフォンを使えたりという配慮が可能です(自治体や学校によっても対応が異なるためお早目にご相談ください)。
僕も中学受験塾に通っていましたが、興味のある分野はよくできるものの、注意欠陥からよく問題を読まずに誤った解答欄に書いてしまったり、漢字などの興味のない知識を覚えることが苦手だったりしたため、第一志望は不合格でした。今は、論述やプレゼンを取り入れた入試もありますから、ADHDの子にはそういった入試が向いていると思います。
ドーユーラボのお子さんの例をご紹介しましょう。
ADHDのKさんの場合
小学3年生の時に不登校になり、5年生からラボに通っていたKさんは、文章を書くことが好きで、ビジュアル化することも得意な生粋のクリエイタータイプ。中学生の頃から小説で賞をとったりしていたので、大好きな美術が専門に学べる高校に進学。現在は、「文学部の芸術学科合格」を目指しながら、充実した高校生活を送っています。
アスペルガーのY君の場合
Y君は小中と普通クラスと支援クラスを行き来し、不登校の時期もありました。そんな彼は幼少期からピアノを習っていたこともあり、ドーユーラボで知った音楽制作にハマり、才能が開花。結果的に合理的配慮※も使いながら国公立の作曲理論コースに合格し、現在は大好きな音楽漬けの日々を送っています。
アスペルガーの子はクリエイターに不向きとお伝えしましたが、彼の作る曲は一般的な感情をゆさぶるよう音楽ではなくて、構造的に数字の音楽(ロジカルで芸術的な現代音楽)だったので、その特性を活かした作曲の道が開けたのだと思います。
※令和6年4月1日から事業者による合理的配慮の提供が義務化されました。「障害のある人から申し出があった場合に、負担が重すぎない範囲で求めに応じ合理的配慮をするもの」としています。出典:政府広報オンライン
__最後に、発達凸凹っ子をお持ちの親御さんに本の見どころと、応援メッセージをお願いします。
僕もドーユーラボを作る際に苦労したのですが、日本では残念ながら、知的障害がない発達凸凹っ子を受け入れる小中高生向けの放課後施設があまり多くありません。
ドーユーラボは沖縄県内に3つありますが、県外の方は代替案として進学塾やプログラミング教室など、興味がある分野のコミュニティをおすすめしています。
オンラインなどバーチャルのコミュニティもいいのですが、子どもたちはオンラインの空間と現実の世界を分けて考えてしまうので、現実の世界への信頼性を高めるためにも、体で感じるリアルの体験も大事にしてあげてほしいですね。
最後に、発達凸凹っ子の親御さんにお伝えしたいのは、「こんな僕でも家族をもって好きなことを仕事にして生活できているから、大丈夫ですよ」ということ。
発達凸凹は今も昔もありますが、社会で活躍している人はたくさんいます。障害ではあるけれど、不治の病のように扱ったり特別扱いしたりしないであげてほしいです。この本が少しでも、発達凸凹っ子の親御さんの気づきになれれば幸いです。
SHINGA FARM(シンガファーム)編集部が執筆、株式会社 伸芽会による完全監修記事です。 SHINGA FARMを運営する伸芽会は、創立半世紀を超える幼児教育のパイオニア。詰め込みやマニュアルが通用しない幼児教育の世界で、毎年名門小学校へ多数の合格者を送り出しています。このSHINGA FARMでは育児や教育にお悩みのご家庭を応援するべく、子育てから受験まで様々なお役立ち情報を発信しています。
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