新生児期から歯並びは変えられる!?予約3ヵ月待ちの歯科衛生士、上野清香先生にインタビュー!
日本中から赤ちゃんが訪れ、予約は3ヵ月待ちという上野歯科医院の上野清香先生は、新生児の口腔を見られる唯一の歯科衛生士。歯科×モンテッソーリ教育を組み合わせた「デンタルモンテッソーリ」の第一人者です。
今回は、著書『だだっこ かんしゃく 人見知り 子どもの困ったをなおす、ママの言葉かけ』発売を記念して、お話を伺ってきました。まだまだ知られていない口腔×子どもの発達の関係や、気を付けたい声がけのコツなど、小さなお子さんを持つママさんにぜひ知ってほしいエピソードが満載です!
上野清香先生
上野歯科医院副医院長、非営利一般社会法人Da‘at Hug代表。あいうべ体操指導士、メディカルデンタルケア講師、発達のトレーナー、脳育知育トレーナーなど多数資格保有。
新生児の口腔を見られる唯一の歯科衛生士として独自のデンタルモンテッソーリメソッドを確立し、口から始まる脳育、子育てのアドバイスを母親たちに伝授している。さらに、年間100本以上の講演も。現在初の著書『だだっこ かんしゃく 人見知り 子どもの困ったをなおす、ママの言葉かけ』(Clover出版)が発売中!
目次
予約3ヵ月待ちの歯科医院の診察内容とは?
世田谷区では、産前産後の妊婦検診が無料なので、産前の検診で妊婦さんの虫歯や歯周病などのチェックをする際に、「新生児のときから歯並びが変えられること」「おんぶやだっこでも歯並びが変わってしまうこと」などをお伝えしたところ、産後の検診に乳児を連れて多くのママたちが来てくれるようになりました。
歯科衛生士の私がしているのは、歯に関わらず子育て全般のママたちのお悩みを聞いて出来る範囲でアドバイスすることです。
例えば、
助産師さんは栄養としての授乳の指導をしますが、口腔を育てる授乳の仕方とは異なるんですね。赤ちゃんは正しくおっぱいを飲むと(こめかみ、あご、耳の3点が動く状態)しっかりと乳首に吸着できるので、口から垂れることもげっぷも出ないんです。ベロを動かすだけの口吸い(浅飲み)だからおっぱいが口から垂れてしまうんですね。
そういった話をした上で、助産師さんや看護師さんに口腔を育てる飲ませ方を教わってきてごらん、という橋渡し役をしています。
「生まれ持った能力を100%開花させて、その子の夢や可能性を最大限にもっていきたい!」という思いで、その月齢にしてほしいこと、やってはいけないことのアドバイスを定期的に行っています。
全ての発達の土台は「口」である!
子どもの発達にはすべて理由があるのですが、口が全ての発達の土台となります。生後2ヵ月頃に見られるハンドリガードという自分の手をなめる反射がありますが、「汚いからなめちゃだめ」などと止めさせたりミトンをはめたりすると、その時期に必要な口の反射ができないまま育つので、幼児期以降にものを噛んだり、歯ぎしりをしたり、口が開くようになったりするんです。
こうした乳児期の反射による全身の感覚統合がうまくいかないと、五感を上手に使えず、小学校以降で板書がうまくできない、集中して話を聞けないという弊害も出てしまうんですね。
__反射を逃してしまった場合、もう取返しはつかないのでしょうか?
反射は無意識のものなのであそびを用いたトレーニングで回復させることはできます。幼児期以降のおすすめはアスレチックで体全体を使った運動で鍛え直すことです。
先生が考案された「デンタルモンテッソーリ」のこと
世田谷区内の小学校の学校医を長年させていただいているのですが、子どもたちが45分間座っていられず、またよく転んで、その際に手が出ずに顔や歯を打つ光景をたびたび目にしました。「今の子の手や足の発育はどうなっちゃったの?」というのがはじまりです。
子どもは全身を動かさないと手の巧緻性も育ちません。そして、手が上手く動かせないと歯磨きもできないし、歯磨きができなければ色々な病気を引き起こしてしまいます。
そこから子どもの発達や運動について勉強するようになりました。
親としては「早く立ち、早く歩く方がいい」と思うかもしれませんが、そんなことは決してありません。むしろ、早く歩く子ほど転ぶ傾向があります。転ばないためには、乳児期にはいはいや高ばいを十分にして、上半身を支える手の力をつけ、足育(指の変形やアキレスや股関節の腱のずれがないか)もしなければいけません。早く歩かせようではなく、月齢に必要な運動こそが重要なんです。
今の親御さんたちは、何事も「失敗しないように」と先回りして伝えてしまいがちですが、そうすると小学生になって苦労することになります。
当院では、将来自分で選択して自立できるために、どんなに小さな治療でも自分の言葉で親に説明して上手にできたら自分で「オモチャをください」、もらったら「ありがとう」と言ってもらいます。こうした一連のやりとりが、まるでモンテッソーリ教育みたいですね、と言われたのがデジタルモンテッソーリの由来ですね。
歯磨きを嫌がる子の理由と対処法
私はよく「鼻から下が口」というのですが、乳児期の感覚統合がうまくいかなくて、口を触られるのがイヤな子がいます。そんなときは、口や歯茎のマッサージをしながら歯磨きをしたり、パパとママで楽しく歯ブラシをする様子を見せると徐々にできることがあります。あとは、歯磨きをする際に膝の上に寝ころぶ子はママの顔を逆さに見るので、怒っているように見える場合があるので、逆向きに慣れるのも一つの手です。
とはいえ、イヤイヤ期もありますし、歯磨きを嫌がる時期は必ず出てきます。まずは数秒でいいので回数を増やすこと。「もう終わりだよ」「できたね」の繰り返しで我慢と達成をペアにして頑張ってみてください。口腔から脳の育成ヒューマンスキル(HQ)やIQにアプローチできるのは3歳までです。
ただし、その子によって痛がる粘膜もあるので、月齢ではなくパーソナルにカスタムしていくことが重要。歯ブラシひとつにしても正解はないんです。
病院に行く際に有効な「置き換えワード」と「NGワード」
たとえば、「言うこと聞かないと注射してもらうよ!」「歯磨きしないと歯医者さんで削ってもらうしかないよ」などと、病院が怖い所とういイメージを植え付けていませんか? そうではなくて、「病院は元気になって悪いところをやっつけてくれるからママ大好き!」とプラスのイメージで使ってください。マイナスの言葉を抑止力で使わず、叱る際に否定語は使わないようにしましょう。
それと、何でもお父さんお母さんに聞けばわかるとしないこと。「どんな治療をするかは先生が決めること」と決定権が他者にある場合や、パパやママにも予測がつかないこともあると小さいうちから教えておくことは大切です。
__かかりつけ医はどのように見つければいいですか?
小児科や歯科で「少し様子をみましょう」「大丈夫」と言われて逆に不安になったことはありませんか? 何をもって大丈夫とするかはとても難しいものなので、私はできるだけ具体的に「様子を見ていい合図や期間と注意すべきサイン」を明確に伝えて、少しでもママの不安がなくなるようにしています。
さらに私の経験上、ママの年齢が34歳未満と以上では、義務教育の内容が違うので伝え方や例えで使う言語を合わせないといけないんですね。医師も今のママたちにわかる伝え方を工夫する必要があると思っています。何でも相談できるかかりつけ医を見つけることは子育てをする上では欠かせません。不安や困ったことがあったら何でも聞いてみること。それでも解決しなかったら私のところに来てください!
ママたちに知っておいてほしいこと
発達具合を他の子と比べて落ち込まずに、お子さんをパーソナルな存在で見てあげてください。世の中には育児に関する様々な専門家の意見がありますが、わが子に合っているかは別の問題です。どんな方法がいいかは、育て方、夫婦の教育方針、保育園に入る月齢、祖父母が近くにいるか、親の出身地などでも違ってきます。
かつて子育てには両親と祖父母8本の手が必要だと言われていましたが、今はほとんどが夫婦4本やママ2本の手。だからこそ頼れるかかりつけ医や院のスタッフ、地域で子どもを見ることが大切なんです。
それと、これは歯科からのお願いなのですが、「口呼吸はよくない」という言葉を「口呼吸=悪」と勘違いして、独断で口をテープで覆うのは絶対にやめてください!
口は消化器官で鼻は呼吸器官。頭を冷やすファンのような役割をしているので、どちらかを塞いでしまうと、窒息死やくしゃみで鼓膜が破れる可能性もあります。口呼吸には必ず理由がありますから、まずは専門家にみてもらってくださね。
__最後に新刊の見どころをお願いします。
子育てはテクニックじゃなくてハグでいい。やり直しがきかないけれど、何でも始めたときからがスタートです。何より、お母さん自身がそのままでいいということ。それに合わせたやり方や言葉かけをこの本ではご紹介しています。
私には子どもがいませんが、「出会う子全てを自分の子にすればいい」と考え方を変えて今があります。何ごとも自分で決断して切り開いていくことを両親から教わったからです。少し入り込みすぎと思われるかもしれないけれど、苦しんでいる人を見ると素通りできない性格なので、電車でも困っている子連れのママさんを見ると声をかけることもしょっちゅう。でも私自身、全国のママたちに日々助けられ、子どもたちからパワーと癒しをもらっています。