「自発性」を伸ばす!フランスの幼稚園で盛んな「ダイアロジック・リーディング」とは?
フランスでは近年、「ダイアロジック・リーディング」という教育方法が注目を浴びています。「対話式読み聞かせ」のことで、フランスの幼稚園では絵本を使い盛んに行われています。実際のダイアロジック・リーディングの様子やカリキュラム内容、家庭でもできる具体的なやり方などを紹介します。
目次
ダイアロジック・リーディングとは
ダイアロジック・リーディングは、1990年代にアメリカの心理学者であるドクター・Grover Whitehurst氏によって初めて発表されました。その後、ハーバード大学をはじめ多くの大学で研究され、新しい読み聞かせの学習方法として現在も注目されているのです。
近年ではアメリカに続き、フランスの一般家庭でもこのダイアロジック・リーディングが広く普及するようになりました。ダイアロジックは、英語の「dialogue(対話・問答、話し合い・意見の交換)」と同じ意味です。この学習方法の目的は、言語能力が身につく幼少期から語彙力を豊かにすること、そして自発性や社交性を身につけること。フランスは日本よりも、幼少期から「相手と対話をすること」に重きを置いている傾向があります。
フランスの幼稚園では定番の学習方法
では、実際にフランスの幼稚園で行われている一般的なダイアロジック・リーディングの様子を紹介しましょう。先生と一緒に一冊の本を読み、または動画を見て、そのなかで子どもたちが情景や登場人物についてディスカッションしながら読み進めていきます。
絵本や動画を見ながら、先生は話の節々でその都度子どもたちに「この場面では何が起こっているのかしら?」「問題になっていることは何?」と訊ねます。そして提起されている問題についてほかの子どもと意見を出し合ったり、討論したりします。こうすることで、言葉の語彙を増やすのと同時に、物語について語り合いながら、探求する心や好奇心が身に付くとされています。
例えば、絵本や動画の内容について先生は子どもたちにこのように質問します。
「ねえ、このイラストを見てみてよ。小さいトラたちは何をしていると思う?彼らは森に走っていくのかな?」。そうすると子どもたちは「ううん、自分のママを探しにいくと思う!」など、それぞれの意見を出し合います。先生はさらに、「そう、彼らは森に走っていくのよね。そして、彼らは何をするのかしら?」と続けていくのです。
ダイアロジック・リーディングでは、「そう、そういうことよね」で終わることはありません。「そして、それからどうなるの?その後彼らは何をするのかしら?」と問い続けることで、さらに子どもたちの好奇心を掻き立てていきます。
そして、実際に絵本のイラストを手で触らせます。「この樹を触ってみて。いくつ樹があるかな?数えてみて」と、手と目を使って子どもたちに数えさせます。このように自分で「行動させる=実践させる」という方法が、フランス流の教育方針なのです。
画像引用元:https://www.youtube.com/watch?v=8Nspvpi5LGY&t=72s
Animation culturelle 2.0 Conseil du Grand Nord
「自発性」を伸ばすため家庭でも実践が可能
フランスでは学校だけではなく、家庭においてもこの対話型ダイアロジック・リーディングが強く推奨されています。その理由として、フランスは幼少期から自分で行動する「自発性」を養うことに大変重きを置いていることが挙げられます。
例えばスーパーで買い物する際でも、日本と違ってレジ係は何もしてくれず、自分でカゴから全部商品を出さなくてはなりません。基本的に自分一人で全てを行わないと誰もやってくれないので、親や周りが一方的に何かをしてもその子のためにはならないという考え方です。その子自らの自発性を高めるためにどのような方法が一番よいのか、ということを最優先して教育方針が決められています。
では実際に家庭でダイアロジック・リーディングを行うには、どのようなことをすればよいのでしょうか。親ができると推奨されているのは、下記のようなことです。
・独立性を養い自発的に本に関わることができるように、家庭にある本の数を増やす
・読み聞かせの際、本にある言葉ではなく類似語など子ども自身の言葉に言い換えさせてみる。
・読書や本について積極的で前向きな姿勢を持つ両親や家族、友だちがいる環境を作る。
・家族で定期的に図書館に通う習慣をつける。
これらを実践することで、子どもの自発性や社交性、語彙力を養うことが期待できます。さらに、読書の楽しさを発見・共有でき、家族が一緒に過ごす時間も増えることになります。
まとめ
子どもの成長にさまざまなメリットがあるダイアロジック・リーディングは、アメリカやフランスだけでなく世界各国で取り入れられています。日本ではまだあまり実践されていないかもしれませんが、まずは家庭で始めてみてはいかがでしょうか。
執筆/Megumi Komai
<参照URL>
https://papyrus.bib.umontreal.ca/xmlui/bitstream/handle/1866/20052/Lepine_Martin_2017_these.pdf?sequence=3&isAllowed=y
出典:モントリオール大学 教育科学部
資料タイトル:小学校における文学作品の読書と鑑賞の指導: ケベック州の教師の実践と概念の調査(該当ページ:54ページ<2.1.1.3 文学作品の読書・鑑賞>)
著者:マルタン・レピーヌ
発行年数:2017年9月
https://irrc.education.uiowa.edu/sites/irrc.education.uiowa.edu/files/2023-05/dialogic_reading_post_french.pdf
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
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