子育ては親のコピー作りではない! AmazonのAI関連書籍部門第1位、藤野貴教さんが 考える「AI時代の子育て」とは
人工知能(AI)に代替されない人間の価値とは何か。AIが台頭するこれからの時代、子どもたちには何が必要なのか、そのために親はどうすべきか。著書『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』がAmazonのAI部門第1位を獲得し、多方面で話題を集めている㈱働きごこち研究所 代表取締役の藤野貴教さんに、AI時代の子育てについてお話を伺いました。
藤野貴教
株式会社働きごこち研究所 代表取締役。ワークスタイルクリエイター。
アクセンチュア、人事コンサルティング会社、IT企業を経て2007年、株式会社働きごこち研究所を設立。働きごこちのよい組織づくりの支援を実践しながら「今までにないクリエイティブなやり方」を提案する採用コンサルタントとしても活躍。グロービス経営大学院MBA。著書『2020年人工知能時代、僕たちの幸せな働き方』(かんき出版)はAmazonのAI部門第1位を獲得し、多方面で話題を集めている。愛知県で子育て中の3児の父。
自身のブログhttp://fujinotakanori.jp/
HP http://www.hatarakigokochi.jp/
目次
AIを自分ゴトに置き換えて、怖いものではないと知ること!
__AIが台頭していく時代を、親はどうとらえていくべきでしょうか?
最初に、お母さんお父さんたちに言いたいのは、AIは決して怖いものではないということ。
働くことを楽にしてくれるだけでなく、人生を豊かにしてくれるものであり、とても身近で便利なものなんです。インターネットが出てきたときだってそうだったでしょう。
次に、「20年後、わが子が大きくなったときに世の中はどうなっちゃうんだ」ではなく、「自分は今どう変わるべきか」「どんなことから始めたらいいか」と、親が自分ゴトに置き換えて考えてみてください。
AIが進化する中、人間一人一人は「自分自身はどう生きるか」を考えることが求められる時代になります。AIがしてくれることが増えるので、時間的な余裕が生れるので、その分、ものごとの選択肢が増え、決める力(意思決定力)がとても重要になってきます。その意思決定力を磨くためには、直感力なんです。
決める力を磨くためには、子どもの直感力を育てよう
__では、子どもの直感力を育てるためには、どうすればいいですか?
直感力というのは、簡単に言うと「感性や身体感覚」です。大人になるにつれてこれらを封じ込めていき、僕たち大人は、対極にある「思考」で物事を判断しがちです。
たとえば、「このおそば氷が入ってる!」と子どもが冷やし中華に氷が入っているのを気づいたときに、あなたならどうしますか?こういうふとした日常の中に気づきに、感性や身体感覚が育つ大きなヒントがあるのだと思います。「冷たい方がおいしいからだよ」とすぐに答えを教えてしまえば、知識は身につくかもしれませんが、思考が勝り、身体感覚からの気づきは生かされません。そうではなく、「そうだねー、おいしそうだねーいただきまーす!」と食べてみて、「冷たくておいしい!」「そうだねーこれなら暑い中でもおいしいねー!」と同じ身体経験を共有するほうが大事なのだと思います。わが子を自分なりの「思考」で枠にはめてしまうことを僕たちは教育だと勘違いしているかもしれない。これは私が子育てを通じて学んでいる最大の気づきであり、現在進行形でみなさんと同じように悩んでいるテーマでもあります。「こうしておけばいい」という指示を与えるだけの育て方は、例えは悪いですが、AIのようなロボットを育てることと同じ。子どもはロボットではなく人間です。人工知能は「なんでやらなきゃいけないの?」とは言いません。それと同じ感覚で子どもを育てていれば楽だけど、それは子どもの直感や意思を封じ込めていることになってしまいます。
僕自身、8歳の二男と、些細な事で言い合いになったり、「なんでこれくらいのことができないんだ」という焦りや、「どうしてそんなことをするんだ」という怒りが出るときがあります。でも妻に「あの子はあの子よ」と言われてハッとしました。知らないうちに、“僕のコピーロボット”を作ろうとしていたんですね。それからは、彼は別人格であり、リスペクトをもって接するよう意識しています。
日常生活の中では、味覚や聴覚、嗅覚などの五感にシンプルに意識が向いている状態を心がけてください。それは大人も同じ。TVを見ながらご飯を食べていたら、美味しいかどうかも分かりません。「お父さんはこの味すごく好きけど、君はどう?」「僕はあまり好きじゃない」。こうした、「自分が好き、好きじゃない」という目の前の小さな感覚を誰かと共感して自分で気づくことが「直感力」を養っていくんです。
子どもは目の前の一つのことに熱中できることで感覚が育ちます。大人も、「美味しいか?」とすぐに聞くのではなく、目の前のことに感動したり反応することが大事なんです。
頭の良さの定義は、「思考」と「感性」のバランス!
__AI時代になると、勉強やいい学校に入ることは意味がないと思いますか?
計算が早い、暗記力がある、などの読み書き能力はAIに代替され、頭のよさの定義も変わってくるでしょう。今後は、より「考える力」が重要になりますから、ビジョンや目的を設定し、ストーリーを作り、人を巻き込んでいくことが人間に残された領域で、AIにはできないこと。今まで大事だったことが一気に価値を失うこともあると思います。ただ、だからといって学習する「思考」が不要なのではありません。「思考」と「感性」(直観)のバランスが大事になってきます。
「思考」を幼いうち追い求めた子を、たとえば、私立中学受験をして多言語教育もプログラミングも学んで、プレゼン能力もあり、15歳でシンガポールのディベート大会で優勝してしまう15歳としましょう。別にそれが悪いと言っているのではありませんが、僕には最短経路でスーパービジネスマンを育てているように見えます。その子が育つ過程で、「感性」に耳を傾けないで育ってしまった場合、18歳で彼はディベートロボットのようになってしまうんじゃないかと。一方で「思考」をおろそかにし「感性」ばかりを幼いうちから追い求めると、小さなクリエイターが育つでしょう。それもいかがなものです。
つまりは、「思考」と「感性」のいい塩梅がポイントだということ。子育ての塩梅は一生モノで、やり直しがききませんので、小さなうちにこのバランスを欠いてしまうと、後からではどうしようもない場合があります。
ここで注意したいのが、「思考」と「感性」のバランスは=(同時期に、同量に)でなくていい、ということ。結局は親のさじ加減ですよね。
「思考」の世界は正しさを追い求めるもので、ひとつのゴールのようにも見えます。一方の「感性」(やがて発想力やオリジナリティになるもの)は、5,6歳の子にすぐにできるわけがないんです。ですから、今すぐに「感性」を追い求めるべきではなく、もっと小さな変化に気づけることが幼児期には大事なのではと考えています。
「人間らしさとは何か」が問われる時代になる
__子どもの「感性」を磨くために親ができること。結局は環境次第なのでしょうか?
これからは、AIにはできない「人間らしさ」が問われる時代になってきます。子どもたちにはやりたいこと、好きな事を見つけ、探究していく力が必要です。では、そのために親ができることとはなんでしょう。都会で刺激的な暮らし、田舎でロハスな暮らし、海外で最先端な教育の暮らし…。これらは親が自分の中にある渇望ですよね。では果たしてお金があれば、経験値が高く、発想力が豊かな子になるでしょうか。
僕は、生きる力とは今おかれた環境の中でできることをすることだと思っています。わが家は、田舎で子育てをしているのですが、家からコンビニまで自転車で10分かかるので、8歳の息子は一人でコンビニに行き買い物をしたことがありません。都会の子だったらそんなことはないでしょう。これは能力がないのではなく、やがてできること。でも、息子は野草で食べられるものはどれか、が見分けることができたりします。
都会と田舎、それぞれ便利な面と不便な面がありますが、どちらがいい悪いと今の環境の悩むのではなく、親は日常で足りない非日常の体験をときどきさせてあげることは大事だと思います。このとき、決して無理強いしないこと。親が「せっかく連れてきてあげたんだから」とおせっかい目線になったり、喜ばないからといって怒ってはダメ。(これは言うのは簡単なのですが、私が妻から一番お叱りを受けることでもあります笑)一番は、大人の自分が行きたい場所、子どもとしたい体験は何かを考えることだと思います。結局、AI時代の子育ては親がどう生きたいかにつながってくるということなんだろうと思います。
著書のAI本が私立中学の受験問題になった!
__著書の『2020年人工知能時代、僕たちの幸せな働き方』が、私立中学の国語の受験問題に出題されたそうですね!
そうなんです。「次の仕事のうち、AIに代替されるものはどれか」というものでした。私立中学の先生たちが、未来を生きる子どもたちに知ってほしいと、このテーマを選んでくれたことにうれしくなりました。
文系の僕が、できるだけ専門用語を使わずに、分かりやすい言葉で書いたつもりなので、お母さんお父さんはもちろん、小学6年生でも理解できる部分はあると思います。親子でぜひ読んで、家族でAI時代について話してもらえたら嬉しいですね。
いかがでしたか? 「僕たち親世代が育ってきた20世紀は何かと論理的なことを求められ、“思考”に偏って育てられた時代。それが昨今、急に“感性”だと言われて、誰もが試行錯誤しているんです」と藤野さん。結局は、私たち大人自身が、AI時代をどう生きたいかが問われているんだなと痛感しました。