選択肢が増えたアメリカの「ホームスクーリング制度」、コロナ禍がきっかけで人気に?
価値観の変化やデジタル化に伴い、世界の教育現場では多様化が進んでいます。アメリカには学校に通わず自宅で勉強する「ホームスクーリング制度」がありますが、近年ではさまざまな選択肢が増え、これまで以上に取り入れやすくなりました。今回はホームスクーリングについて、制度内容や学習スタイルの変化、人気の背景などについて解説します。
目次
学校と同等の義務教育として認められている
ホームスクーリングとは学校に通うことなく、自宅を拠点に教育を受ける学習スタイルのこと。アメリカでは学校教育と同等の義務教育制度として、全ての州で認められています。
一般的には、自宅の1室を教室に使って保護者が教師として教えます。ホームスクーリング向けの教材を購入しそれに沿って進めていく家庭もあれば、子ども本人が興味を持つものをとことん追求するスタイルの家庭もあります。
自由度の高いホームスクーリングですが、途中で保護者が教育を放棄したり、教育レベルが低下したりすることを防ぐために、アメリカにはホームスクーリング法があります。定期的な学力テストの実施や、指導内容・必修科目・出席記録などを各州の教育局へ提出することが義務付けられているのです。
なかには、「子どもが他人と交流する機会が少なく、コミュニケーションの機会喪失が心配」など、ためらう声もあります。しかし、実際のホームスクーリングでは屋外活動も多く、ボランティアやボーイスカウトに参加したり、ホームスクーリング用の学校に定期的に通ったりできます。そのため、他人との交流機会は意外と多いといえるでしょう。
コロナをきっかけに急増、学習スタイルも豊富に
もともと増加傾向にあったホームスクーリングですが、新型コロナによる長いロックダウンをきっかけに、通学から切り替える家庭がぐっと増えました。アメリカ国内でホームスクーリングを受けている子どもは2019年には約250万人でしたが、2022年には約310万人と拡大。なかでも、ロックダウンが厳しかった2021年は、約375万人と急増しました。
ホームスクーリングにおける選択肢も増え、各家庭が自分たちに合う学習スタイルを選びやすくなりました。
近年一番伸びているスタイルが、オンラインスクールを利用する方法。インターネットの普及や支援団体の積極的なサポートのおかげで、自宅にいながら多種多様なリソースにアクセスできるようになったのです。
保護者がすべての教育を担当しなくても済むので、負担を減らせるのが大きな魅力です。公立のオンライン小学校や中学校も多数開校しましたが、授業料が無料のうえ州の手厚いサポートも付いています。
また、基本的には自宅学習で学び、体育や美術といった特定の授業のみ地元の公立学校へ通うという選択肢も。数ヶ月だけの短期間ホームスクーリングに参加することや、私立校がホームスクーリングの生徒のみを集めて月に数回開催する授業を受けることも可能です。
ホームスクーリングを選ぶ5つの理由
そもそも、アメリカではどのような理由でホームスクーリングを選んでいるのでしょうか?
① 子どもの才能に見合わない
「従来の学校教育ではわが子の才能を十分に伸ばせない」と考えて選ぶケースです。発明家のエジソンも、学校になじめずホームスクーリングで才能を開花させた1人でした。ギフテッドや特定の分野に強い探求心を持つ子が多く、実際の学年よりも数学年上の学習に取り組んでいるケースも少なくありません。
② 学校への不安感・不信感
いじめ、治安、ドラッグ、教師への不信感、教育の質の低下など、学校への不安感や不信感からホームスクーリングを選ぶ家庭も多いです。安全・安心な環境で教育を受けさせるために、目の届く自宅で学習させたいという思いがあります。
③ 学校が遠方で通学が大変
過疎化が進んでいるような人口が少ない地域では、学校が遠方で通学するのが困難な場合もあります。学校に通いたくても難しいので、自宅で学習せざるを得ないというケースです。
④ 宗教的な問題
キリスト教徒の多いアメリカでは、学校で教える内容をよしとせず、自分の信仰にあった教育を子どもに与えたいと考える人もいます。聖書をベースにしたホームスクーリング用の教材は多数あり、それに沿って家庭学習を行います。
⑤ 多忙な子どものスケジュールと合わない
幼い頃から、タレント、俳優、ミュージシャン、スポーツ選手として活躍する子どももいます。巡業やトレーニングの関係で学校に通えないため、フレキシブルなスケジュールを組めるホームスクーリングを選ぶケースもあります。
まとめ
かつてのホームスクーリングは、一か十まで保護者が教える形でした。しかし現在は、州や教育団体のサポートを受けたり、オンライン授業で学んだりと、多種多様な学習スタイルのなかから柔軟に選べるようになりました。
ホームスクーリングで学ぶ子どもの数も年々増えており、今後もこの制度はアメリカの重要な教育スタイルのひとつとして支持されていくと思われます。
執筆 / 長谷川サツキ
<参考サイト>
https://www.nheri.org/research-facts-on-homeschooling/#:~:text=General%20Facts%2C%20Statistics%2C%20and%20Trends,of%20school%2Dage%20children).
https://www.k12.com/online-public-schools/
https://www.time4learning.com/homeschooling-styles/
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