「子どもの正義感が強くて心配…」なとき親にできることとは

「子どもの正義感が強くて心配…」なとき親にできることとは

“正義”がいいか悪いかと言ったら、基本的に「いいもの」として捉えられる一方で、子育てをしていると子どもの正義感の強さで悩むことも少なくありません。今回は、「このままではトラブルになりそう」と心配な方向けに、親ができる工夫や対応策を見ていきたいと思います。

実は悩んでいる人も多い子どもの正義感

子どもに「正義って何?」と聞いたら、言葉としての解釈はできなくても、アニメのキャラクターの“正義の味方”を思い浮かべる子が多いのではと思います。悪者と戦い、弱い者を助ける、というイメージです。

では親の私たちはどうでしょうか?

辞書には、「正しい道理、人間行為の正しさ」と載っていますが、一般的には、「正しいことを正しいと言える強さ」というようなニュアンスかと思います。この言葉だけを見ると、素晴らしい資質に映るのですが、実生活の中ではそれでヒヤッとする人も多いようで、実際私の相談室でも、「正義感が強すぎて…」というお悩みを受けることがときどきあります。

具体的な例を挙げると、
・ 順番を守らない子に対し、「せんせい、○○ちゃんが横入りした」と度々先生に言いに行く
・ 「そこ通っちゃダメなんだよ」「自分でやらなくちゃいけないんだよ」などと、ルールについて、男子対女子などのグループで対立する
・ 校則ほどはいかない校内の決まりごとに対し、周りがゆるく考える中、自分だけは同調せずに1人でも闘ってしまう

などがそうです。1つめの例は幼稚園生くらいの小さい子に多く、小学校低学年、高学年と成長とともに、2つめ、3つめのように変化していく印象があります。とくに3つめのような形だと、ルールを守っている側なのに少数派ということで、仲間とケンカになったり、無視されたりとトラブルになってしまうこともあります。

私が相談室で聞く親としての悩みはこの部分で、「正しいことを正しいと言えることはいいことだけれど、主張が強すぎてトラブルになってしまう」とその対処法で迷われています。正義感の強さに関するお悩みは、とくに女の子に多いような気がしています。

親がどう対応していくのがいい? 3つの対応策

このような場面で、親はどうしたらいいのでしょうか。ここからは、できる対応策を考えていきたいと思います。

対応策その1 言っても納得しないことを心得る
大人は長年生きている分、「世の中、正論だけじゃ通用しないこともある」と知っているので、自分の正義感を臨機応変に変化させているところがあります。そのため、子どもの正義感ある行動がトラブルになりそうなときや、実際になってしまったときに、「こういうときは○○した方がいいよ」「○○しない方がいいよ」と大人的な視点でひとこと言っておきたくなります。でもそれを言ったところで、子どもが納得できるかというとそうではありません。

なぜなら、本人は間違った行為はしていないと確信しているからです。

正義感の強いお子さんは基本的に決まりごとやルールをしっかり守るタイプなので、やっていること自体は道理に適っていることが多いはずです。それなのに周囲からあれこれ言われて、「何で自分がイヤな思いをしなくてはいけないんだ」と。親が大人の目線からアドバイスすることで、むしろ、「自分は絶対に絶対に悪くない!!!」とその信念をさらに強めてしまうことさえあるでしょう。もし、「ママ・パパもわかってくれない」と感じてしまったら、その後は口を開きたがらなくなってしまいます。私たちもさまざまな経験を経て少しずつ変わってきているので、その場で言葉で言って納得するほど、事は簡単ではないことを心得ましょう。

対応策その2 先走りしない
お子さんから「こんなことがあった」と話してきたときには、たとえトラブルになりそうな予感がしたとしても、まずは子どもの話をしっかりと聞いてあげてください。子どもは解決策を親に求めているわけではなく、ただ自分の言い分を聞いてもらいたいので、そこは、「そんなことがあったんだね」と受け止めていきましょう。理由としては、上で触れたように、言ったところで納得しないということもありますが、案外ケロッと仲直りすることも多いからです。

変に大人が最悪のシナリオを頭によぎらせて先走りしてしまい(他の大人を巻き込むなど)、事が大きくなってしまってはもったいないので、数日様子を見守っていくのが望ましいと思います。大人よりも子どもの方が“今”の時制で生きているので、次に会ったときには、その時の出来事に目線がシフトしていることもよくありますから、子ども達の解決力をまずは信じましょう。もしも数日経っても解決しない、さらに悪化しているとなったら、先生に相談するなど、大人が動き出すのがいいと思われます。

対応策その3 その子のタイプに合わせる
正義感の強さは、もともとの性分(頑なさのような)もありますが、親に教えられたことをそのまま再現しているという学習の要素も強いものです。たとえば、「お友だちを叩いてはいけない」という相手の尊厳についての教えや、「ここの芝生は入ってはいけない」という社会的ルールなど、どれも親から教えられるものです。

基本的にはそのような教えを子どもに伝えていくことはとても大事なことです。ですが、中には強く響きすぎてしまう子がいることも、これまでの相談事例で感じています。

きょうだいを同じように育てても同じようには育たないのと一緒で、「先生の言うことを聞く」「学校のルールは守る」というようなことを教えても、響き方はその子それぞれ違うということですね。

よって、もし「うちの子はもともとが真面目だから」という場合は、しつけや礼儀作法というような場面では、少しゆったりと構えていくのもいいように思います。私の子どもも非常にまじめで正義感があるのですが、幼稚園あたりでその傾向に気づいたので、その段階で子育ての指針を少しシフトしました。当時はフランスに住んでいたのですが、ある日先生に怒られ、しかも立たされたと泣いて帰ってきたときに、「よくやった!」「そのくらいでちょうどいいのよ」と言ったのを覚えています。
「正しいことを正しくやりたい」という真面目さは基本的にはいいことですが、“遊び心”とか“たまには羽を伸ばしちゃう”ということもこの子の人生において必要だと感じたからです。その後十数年経ち、もともとの真面目な性分は健在ですが、「ま、こういうこともある」という枠も広がったように見えます。生まれ持ったタイプに合わせ、満ち足りている部分には引き算的な接し方をするのも大切なアプローチの1つだと思います。  

多様性の時代だからこそ気をつけたい大人の正義感

ここまで、正義感が強い子についての話しをしてきましたが、大人になれば悩みなしかというとそんなことはありません。

・ 正しいことをしているつもりが、「おせっかい」「めんどくさい人」と思われてしまう
・ 正義をふりかざして、相手を強く傷つけるほどまで攻め込んでしまう

と正義感についての悩みやトラブルは大人にもつきまといます。

とくに今は、面と向かってだけでなく、SNS上など、見ず知らずに人に意見することができる時代です。SNSは覆面性が高いため、直接だったら言えないことも書けてしまう強さがあるのでエスカレートしがちです。

今は多様性の時代と言われていますが、それとともに、「正しい」と感じることも多様化してきているように思います。最近刊行された森村進氏の『正義とは何か』(講談社)という本でも、サブタイトルが「何が『正しい』のか、わからなくなった時代に」となっているように、何が正しいと言えないことも多かったり、“正しい”が複数あったり、という経験をされている方も多いのではないでしょうか。

「物を盗む」というような違法行為に関しては、「何が正しいか」は迷いませんが、「自分の信念」とか「マイルール」といったものは、自分には100%正しくても、相手には当てはまらない可能性もあるという余白を作っておくことが大事な気がしています。とくにSNSなどでの発言は相手を強く傷つけることがあるため、自分の正義が武器にならないよう気をつけていく必要があると思います。

著者プロフィール
佐藤 めぐみ

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/

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