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子どものうつ、その特徴と対策

子どものうつ、その特徴と対策

最近、よく耳にする“うつ”のこと。国内の調査によれば、過去12ヶ月間にうつ病を経験した人は約50人に1人、これまでにうつ病を経験したことがある人は約15人に1人、うつ病を患う人が確実に増えてきているのを感じます。しかしこの増加傾向は大人だけではなく、小・中学生でも見られるのをご存知でしょうか。

そこで今回は、「子どものうつ」にフォーカスを当て、うつ状態の子どもに見られる特徴や親が心がけたい点について見ていきたいと思います。

大人だけではない、子どももうつになる

うつは大人の病気、そんな印象がある方も多いと思いますが、子どもでもうつになることがあります。最近の報告では、12歳以降、うつ病を患う頻度が急速に上昇し、成人の発症率とほぼ同程度になるのだそうです。

また、子どものうつ特有の症状もあり、年令が上がるにつれて、大人のうつ病の症状に近づいていくこともわかっています。

大人のうつ病の診断基準は、

1. 抑うつ気分
2. 興味や喜びの喪失

3. 食欲の異常
4. 睡眠の異常
5. 精神運動の焦燥、または制止
6. 気力の減退、疲労感
7. 罪責感、無価値感
8. 思考力、集中力の低下
9. 死にたいという思い

1~2のどちらかに加え、3~9の項目の5つ以上に当てはまり、それらの症状がほとんど1日中、2週間以上続く場合とされています。

しかし、子どもの場合、

・1の抑うつ気分よりも、「イライラ」や「怒り」
・3の食欲の異常は、減退よりも「過食」
・4の睡眠の異常は、不眠よりも「過眠」

と、大人とは違う傾向が見られやすいことから、これらも診断基準に含まれています。

子どものうつ、サインを見逃しやすい理由

一般的に、子どものうつは気づかれにくいと言われています。その理由として、

・子ども自身が、自分の変調に気づき、適切な支援を求めるのがまだ困難なこと
・思春期と重なるため、周囲がこの時期特有の変化なのだと判断しがちなこと

などが挙げられます。

思春期辺りから増えてくるために、「年頃だから」と捉えてしまい、気づくタイミングを逃してしまうことが多いのです。

もし、「怒りっぽくてよく反発する+よく食べる+よく寝る」という状況だったら、「成長期だ」「思春期だ」と片づけてしまい、「うつかも」とは思いが至らないでしょう。

このように気づきにくいのが子どものうつのサイン。よって、親の予備知識として、中学校に入る前後で、子どものうつの頻度が上がるということは、頭の隅に置いておいた方がよいと言えるでしょう。

親として心がけたい2つのこと

そして、「もしかして」と思ったら、まず親が心がけたいことは、家庭の居心地の良さを整えることです。

「うつかもしれない」と気になりだすと、「最近元気ないね」「学校どうだった?」「最近だれと遊んでるの?」とあれこれ尋ねたくなりますが、ただでさえ心が苦しい時期に、親から次々に問い詰められたら、家にいる時間までもが憂うつになってしまいます。

また、気力の減退により、勉強をはじめとする様々な行動に影響が出ることがありますが、強く叱ってしまうと逆効果です。

受験を控えているご家庭では、少しでもブランクを作りたくないという思いもわかりますが、うつ症状を深刻にしてしまうと、受験どころではなくなってしまいます。まずは、家庭内がその子にとって安心できる場所であるよう心がけてください。

そしてもう1つお伝えしたいのが、うつになりにくい考え方の存在です

物の見方や考え方が、私たちの気分や感情に影響を与えることは以前から言われていて、その人の思考スタイルを変えることで、抑うつ感や不安感を和らげることができます。それを体系化したのが認知行動療法で、うつ病の再発プログラムでもよく用いられています。

根底にあるのは、うつになりやすい思考スタイルを、うつになりにくい思考スタイルへと変えていくことで、うつを予防するという発想です。子どもの思考スタイルは、親の影響を受けやすいので、親は、この部分でも子どもをサポートすることができるのです。

最悪のシナリオをポジティブに上書き

うつに陥りやすい子は、自分のことも、周りに対しても、最悪のシナリオを描きがちです。

・悪いことは、ずっと続く
・悪いことは、もっと広がる
・悪いことは、自分のせいだ

何の証拠がなくても、こう決めつけてしまう傾向があります。

それを踏まえ、アメリカの心理学会の会長を務めたマーティン・セリグマン博士は、「うつになりにくい思考スタイルを、そのまま子どもたちに伝えられたら、うつのリスクを下げられるのではないか」と考えました。

そして、セリグマン博士は、アメリカの小中学校を対象に、子ども向けに開発した「心のワクチンプログラム」というものを実施しました。主な内容は、「ネガティブな考え方をポジティブな考え方に変える方法」についてです。

すると、予想通り、12週間のプログラム後に、うつのサインを発していた子どもたちの割合が大きく減っていることがわかりました。その後も2年間の追跡調査したところ、その傾向は保たれており、うつ病に対する直接的な効果があったと結論づけています。

子どもの思考スタイルは、大人のそれよりもずっと柔軟性があるので、その点でも子ども時代にこのような働きかけをすることには大きな意味があります。

私が育児相談やカウンセリングなどで用いているポジティブ育児メソッドでも、まずは親御さんご自身にネガティブな考え方とポジティブな考え方の特徴を習得してもらい、日々の親子のコミュニケーションで実際に使いながら、子どもたちに「ポジティブな物の捉え方」を伝えていってもらっています。

もし本当に、「悪いことは、いつまでもどこまでも続く」のであれば、だれだってやる気もなくなりますし、気持ちだって晴れません。いくらママが、「元気を出して」と言っても、お先真っ暗なままでは、元気など出るはずがないのです。

そこで、子どもが決めつけてしまっている最悪のシナリオに対し、親が上手に働きかけ、子どもに、「自分が思っているほど最悪ではないぞ」という気づきをもたらしていくことが大事になります

また、親がどんな言葉を発するかも気をつけていきたいポイントです。

もしママが、事あるごとに、「絶対無理!」「もう最悪!」のように、物事を悲観視する言葉を発していると、子どもはその言葉だけでなく、その解釈まで吸収していきます。親が世の中をどう見ているかは、子どもに非常に伝わりやすいからです。

悪いことは、ずっと続くわけではないし、延々と広がるわけではありません。ましてやいつもいつも自分だけ100%悪いなんていうことはありません。

置かれた状況を平等に見る目を育てるのが、親ができる関わりです。子どもにとって、家庭を居心地のいい場所にすることはもちろん、親自らポジティブなコミュニケーションを心がけ、子どもに先行きの明るい見方を伝授することも、子どものうつ対策として非常に有効です。

著者プロフィール
佐藤 めぐみ

育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/

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