【眼科医インタビュー】コロナ禍で加速する子どもの視力低下。原因や対策は?
ここ数年で子どもの近視は増加傾向にあり、小中学生のクラスあたり、3.7人に1人はメガネを使用しているという調査結果もあります(2009年ロート製薬調べ)。
また、コロナ禍で外遊びが減りデジタルデバイスの頻度が増えた子どもたちの視力低下は世界的に見ても加速傾向にあるそうです。そこで、小児眼科のスペシャリスト、豊洲やまもと眼科の院長山本祐介先生に、未就学児の視力低下や目の異常を見抜く方法や視力低下の予防&最新の治療法についてお話を伺いました。
豊洲やまもと眼科 院長山本祐介先生
眼科診療歴18年。オルソケラトロジー認定医、ICL認定医。「眼科医療を通じて、地域のみなさんの生活を守り、豊かにする」を掲げ、ワンランク上の眼科診療を提供している。ドライアイ・アレルギーから緑内障・白内障・網膜疾患、小児の斜視弱視・近視予防の相談も。https://www.toyosu-eye.com/orthokeratology
目次
近視の低年齢化が進む理由とは?
まず、近視が低年齢化している理由をお聞きしました。
「私が眼科医を始めた2000年頃は幼児の近視はそれほど多くありませんでしたが、最近では3~4歳でも近視のお子さんが少なくありません。やはり原因としてはスマホやゲームといったデジタルデバイスの利用増が考えられると思います」(山本先生)
さらに、コロナ禍の自宅生活で学習のデジタル化が進んだこともあり、全世界的に見ても子どもたちの近視は増えているという調査もあるようです。
わが子の目の異常を見抜く方法
小学生以降になると、学校の視力検査で視力低下を指摘されて眼科を受診するケースが多いですが、幼児の場合、わが子の視力低下や目の異常を見抜くにはどうすればいいのでしょうか?
「幼児の視力低下を見抜くのはかなり難しいです。大人でも視力が0.7あれば運転免許は取れますし、生活にはさほど困りませんよね。幼児の場合は自分で見えにくいという自覚がないので、0.5でも見抜くのは難しいと思います。実際、ほとんどのお子さんが就学時検診で気づきますし、ものもらいや花粉症でたまたま受診し見えていないと知るケースもあります。早めに対処すれば近視の進行を遅くできることもありますので、何か気になったらぜひ受診をしてみてください」(山本先生)
お家で目の異常に気づくサインとしては、
・何かを見るときに対象に近づき目を細める(近視・弱視のサイン)
・やぶにらみをする(斜視のサイン)
などもあるようですが、様子を見ていい視力低下と治療が必要な視力低下の見極めは家庭では困難です。視力検査は3歳からできますので、3歳を過ぎたら一度小児眼科の受診がおすすめです。
また、3歳児検診では、通常の視力検査に加えて遠視か乱視かをチェックできる検査を導入している地域も増えているそう。それにより弱視の始まりや早期の近視が発見できるケースもあるようです。
成長期の子どもの視力低下の推移
成長期の子どもたちの視力低下の推移について、私たち保護者が意外と知らないことは多いもの。そこで、山本先生に保護者から多く聞かれる5つの質問にお答えいただきました!
Q1__子どもの視力は何歳で決まりますか?
意外と知られていないのですが、近視は小学校低学年までがもっとも進行スピードが速く、高学年以降は進行スピードが遅くなります。よって16歳前後で視力の低下も収まることが多いです。
Q2__近視は治せるものですか?
近視は角膜のカーブと目の長さで決まるので、根本的に治すにはレーシックやICL手術が効果的です。ただし、水晶体の緊張は目薬でも治せるので、メガネと併用しながら近視の進行のスピードを抑えることはできます。
Q3__メガネをかけるタイミングはいつがいい?
目はピントが合わない状態が続くと近視が進むため、ピントを合わせるためにメガネをかけます。強い効果があるわけではありませんが、「メガネをかけると悪くなる」というのは誤解です。お子さんがいつメガネをかけるかの目安としては以下の通りです。
0.3⇒本人が不自由なければかけなくても大丈夫。黒板も一番前なら見える状態
0.1~0.2⇒30cm範囲しか見えておらずどこにもピントが合わない状態なのでメガネは必要
Q4__将来レーシックをすれば大丈夫なのでは?
重い近視の場合はレーシックの効き目も弱くなり、緑内障や網膜剥離など別の病気のリスクが高まります。よって子どものうちから重い近視にさせないことは健康面から見てもメリットがあるのです。
Q5__両親の目が悪いと子どもも目が悪くなりますか?
両親が近視の子どもは6割が近視になると言われています。外遊びしていると2割に減ります。一方家にいる時間が長いと、両親が近視でなくても3割は近視に。つまり、「両親の視力がいいから大丈夫」ではなく、今の時代かなりの確率で近視になる可能性が高いとお考えいただいた方が良いと思います。
視力低下の予防について
そもそも視力低下は予防できるのでしょうか? 予防のポイントは“日光とデジタルデバイス”にあるようです。山本先生に詳しく解説していただきました。
ポイント1 太陽の光を浴びると近視が防げる
人間の目で感じられる光の中で「バイオレットライト」と呼ばれる紫色の光(可視光線)が近視を抑える効果があるとされています。ですから、外の光を1日2時間浴びるのが最も視力低下の予防には効果的です(夕方は赤い波長の光なので午後3時くらいまでが理想)。また、この光はほとんどの窓ガラスで遮られてしまうため、どうしても外に出られない場合は窓を開けるだけでも違います。最近の子の視力低下は外遊びの少なさも大きく関係していると思います。極端に言えば、家の中よりも外でゲームをする方がまだ目にはいいのです。ちなみに、中国では子どもたちの視力維持のために、学校の教室内に可視光線を取り込むシステムにしたところ、近視の増加のピークが下がったという研究結果も出ています。
ポイント2 デジタルデバイスはなるべく大きな画面で
ゲームやスマホなどのデジタルデバイスは本よりも近視が進むと言われています。デジタルデバイスの何が目に悪いのか。それは画面や文字が小さく対象物に近づいて見るためです。今どきの子たちにゲームやタブレットを禁止するのは難しいと思いますので、やるなら「近くで見ないこと」。もっと言えば、昼間は外で遊んで、ゲームをするなら夜テレビなどの大きな画面で時間を決めてやるのが理想的です。
近視の進行を遅くする治療法「オルソケラトロジーレンズ」とは?
オルソケラトロジーレンズとは、夜寝ている間だけ角膜矯正用のコンタクトレンズを装用することで、角膜の形にピントが合うクセをつける近視矯正治療法のこと。手術も不要で、日中はメガネやコンタクトレンズがなくても生活ができます。子どもでも使用はできるのでしょうか?
「元は大人向けでしたが、子どもでも6歳くらいからなら使用できますし、近視の抑制にも効果があることが分わかってきました。まだはっきりとした理由は証明されていませんが、メガネの場合はピントが合う場所は目の中心だけなのに対し、このレンズだと周辺もピントが合うようになっているためではないかと言われています。当院でもこれまで400~500人の子どもたち(主に小学生)が使用しています。
目薬やサプリにも近視を抑制する効果はありますが、このレンズの方が、有効性が高いと感じています。最も近視が進む低学年の2~3年装着すると、近視が進行しないことが多いです。ただし、このレンズをやめると近視が出てくるので、あくまで進行スピードを遅くするのが目的です。また、コンタクトレンズ同様、合う合わないの個人差があります。使用に関しては眼科医とよく相談した上で、3ヵ月に1度は眼科でレンズと目の状態を確認してください」(山本先生)
目の健康のために日頃から気を付けたいこと
最後に、日頃から子どもの視力のために気を付けるべきことを山本先生にアドバイスいただきました。
我々が子どもの頃は「外の緑を見なさい」「遠くを見なさい」くらいしか、近視に対する対処法がなく、眼科医から提案できる予防法も昔はありませんでした(※遠くを見ることは目の緊張を解く意味では多少効果もあるかもしれません)。
しかし、ここ数年で近視の抑制ができるようになってきました。「近視の進行は抑えられるという選択肢があること」をぜひ親御さんには知ってほしいと思います。
「目が悪くなったらメガネをかければいい」「レーシックをすればいい」と思うかもしれませんが、近視が強くなるとレーシックのクオリティが下がりますし、緑内障などの病気のリスクが高まります。お子さんはもちろん、大人の方もスマホの長時間利用により近視が進行しているケースもあります。ぜひご家族で目の健康について話し合ってみてはいかがでしょうか。