「学校は無理に行かなくていい」の落とし穴とは?
メディアで発信される「学校は無理に行かなくていい」などのメッセージに対し、「不登校を促してしまうのでは」という声も聞きます。ときに誤解を招く「学校は無理に行かなくていい」というメッセージ。親はどう捉えたらいいのでしょうか?
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深刻化する子どもの不登校や自殺
文部科学省が2018年初めに公表した「児童生徒の問題行動・不登校等調査」によると、不登校の子ども(年間30日以上欠席)は、全国の小中学生を合わせると、13万3683人に上ったそうです。
また、小学1年から中学3年へと進むにつれ、その人数は増える傾向が見られました。また、警察庁の統計によると、2016年度には、全国で320人もの小中高校生が自殺で亡くなっています。
このようなデータを見ると、多くの子どもたちが心底悩み、解決できずにいる実態が伝わってきます。最悪の場合、自ら命を絶つ子もいることから、夏休み明けなどに、芸能人や著名人の方々が、「学校は無理に行かなくていい」というメッセージを発信することがあります。ニュースなどで見聞きしたこともあるのではないでしょうか。
その一方で、毎朝、子どもを学校に行かせようと奮闘している親御さんからは、「いや、学校は行くものだ」「そう言われると逆に困る」「外野から安易なことを言わないでほしい」という声も聞かれます。
「学校に行かなくていい」が好都合に響くことも
なぜせっかくのメッセージが、人によって違って感じられるのか、それは、不登校にまつわる悩みや、子どもが学校に行きたくないという理由が多岐に渡っているからではないでしょうか。
深刻なケースももちろんありますが、十分修正可能なケースもたくさんあります。著名人の方が発する「学校は無理に行かなくていい」という言葉は、本当に行き詰っている子向けに発信しているものですが、たとえば、学校がつまらない、家でゲームをやっている方が楽しい、夜更かししたから朝起きるのが面倒くさい…、「だから学校に行きたくない」という子には、「無理に行かなくていい」が好都合に響くことがあります。
「だってテレビで学校行かなくていいって言ってたよ」と子どもに言われ、困っている親御さんもいらっしゃいます。テレビやネットニュースの見出しだけでは、そのメッセージの本意は伝わりにくく、間違った形で伝わってしまっていることも多いのです。
また、現場にいる親からしたら、いったん不登校を認めてしまったら、もう戻れないのではないか、将来はどうなるのかと心配でたまりません。行くべきだと思っているところに舞い込む「無理していく必要はない」という声が、余計にしんどく感じられるのです。
行きたくない理由によって対応は変わってくる
「不登校」とひとくくりにせず、その背後にある理由をしっかりと見定めることがやはり大事なのだと思います。
もし、その子が学校をいやがる理由が、
・いじめを受けている
・仲間外れ、無視されている
・クラスで孤立している
のような場合、自分で頑張りさえすれば何とかなる問題ではありません。このような不可抗力的な理由があるときには、「何言ってるの、学校は絶対行くものよ」と聞く耳を持たないことは危険です。
とくに、相手に一方的にいじめられているような場合、その子1人で対処することはできません。周りの大人がしっかり寄り添って対応していかないと、どんどんと追い込まれてしまいます。
一方、
・基本的な生活習慣が十分身についていない
・自分の好きなことだけをして過ごしたい(インターネットやゲームなど)
・学校がつまらない、家に居たい
このような理由で、「学校には無理に行かなくていい」というメッセージをまともに受けてしまうのは間違っています。不登校に対し、その子が自分ではどうしようもないことで悩んでいる場合を除き、まずは、何とか学校に行けるよう取り組んでいく必要があります。
後者のケースに共通しているのは、まだ自分をコントロールすることが苦手だということです。人間誰でも、好きなことをするときの方がモチベーションが高まりますし、勉強よりも遊びの方が楽しいものです。でも、小中高と進み、大人になるにつれ、それでは済まされなくなってきます。
まずその一歩として、小学校に上がれば、がまんしなくてはいけないことも増えますし、努力をしなくてはいけない場面もたくさん出てきます。“年齢相応のがまん”を身につけることは、不登校対策としてとても大事な部分になります。
不登校対策となる2つの力を育てよう
では、その“年齢相応のがまん”とは、心理学的に見るとどういうことなのかを見ていきたいと思います。
不登校対策に役立つのは、
・満足遅延耐性を鍛えておくこと
・レジリエンスを高めておくこと
でしょう。
「満足遅延耐性」とは、将来の価値ある結果を手に入れるために、今、目の前にある欲求をがまんする力のこと
「レジリエンス」とは、ストレス下や逆境に置かれたときに、それを跳ね返す精神的な力のこと
を指します。
これらを伸ばす方法は色々とありますが、両方に共通し、しかも不登校対策に直結するものとして挙げられるのは、生活習慣を整えることです。
「え、それだけで不登校対策になるの?」と思うかもしれませんが、アメリカ心理学会が、子どものレジリエンスを高めるためのポイントとして挙げている10項目の1つにも、「基礎的な生活習慣」は入っています。シンプルながら、非常に重要なポイントです。
実際、基礎的な生活習慣の乱れが、不登校につながるケースはよくあります。ゲームを止められない、テレビを消せない、宿題をやらない…、このような毎日の生活で繰り返される行動の1つ1つが乱れてしまうことで、朝決まった時間に始まる学校というものが、煩わしくなってきてしまいます。
これらを自分で何とかコントロールできてこそ、生活リズムは整います。つまり、生活習慣は、単なるリズムではなく、セルフコントロールの繰り返しによって整うものでもあるのです。
規則正しい生活習慣を取り戻す中で、子どもたちは、“ちょっとがまん”を数多く学んでいきます。それが、満足遅延耐性やレジリエンス向上につながり、学校生活へのなじみがよくなっていきます。
なお、この2つの力は、小学校に上がる前に意識できると理想的です。小学校に入ってから現場で学ぶことも多いですが、あらかじめ蓄えておくと、学校への抵抗感を大きく減らすことができます。6歳までの満足遅延耐性とレジリエンス、ぜひ意識して取り組んでみてください。
満足遅延耐性については、こちらの記事に詳しく書いています。ぜひご参照ください。
育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/