カギを握るのはティーンエイジャー講師!ドイツで注目される子どものスマホ依存対策とは?
日本では子どものスマートフォン制限についてさまざまな議論が交されていますが、ドイツでも2019年に政府顧問が「14歳以下の子どもはスマホを使用しない方がよい」と助言しており、政府は今後の方針について検討中です。スマホ依存者が激増するドイツでは子どもたちにスマホとの付き合い方を教えるために、「メディエンスカウツ(Medienscouts)」という団体が立ち上がりました。大人ではなくティーンエイジャーたちが小中学生にアドバイスするもので、その内容や全国展開に至った社会的背景などを紹介します。
目次
大人も子どももスマホ依存が国中に蔓延
ドイツに在住する筆者の子どもの公立小学校から昨年、「スマホの校内使用禁止」という通知が届きました。学校で子どもたちがスマホで遊んでしまい、授業に集中できなくなっているようなのです。ドイツメディア「Euronews」によれば、ドイツでは3分の2の子どもが11歳までにスマホを使い始めるとされています。
実はドイツでは、2年ほど前に子どもたちが大人たちに対してスマホ使用禁止の警告デモを行ったほど、大人のスマホ依存が蔓延しています。デジタル紙の「Quartz」によると、ある7歳の子どもが「スマホじゃなくてボク(わたし)と遊んで!」という親へのメッセージを提案し、ハンブルグに在住する子どもたちと親たちがデモ行進をしました。
デモ行進はニュースで取り上げられ、大人たちも少しはスマホの使い過ぎに気を遣うようになったように思われました。けれどもそういった自粛も一時のことで、今では過去のこととしてすっかり忘れられているように思えます。
ティーンエイジャーが小中学生にスマホとの付き合い方を伝授
実際にドイツでは「スモンビ(Smombie)」という流行語が生まれるほど、スマホ依存者が増えました。スモンビとは英語の「スマートフォン・ゾンビ(Smartphone Zombie)」の略で、常に携帯電話とにらめっこをしている人たちのことを指します。
そこで、ドイツの子どもたちを将来のスモンビにしないために、メディエンスカウツが立ち上がったのです。この団体の大きな特徴は、年長のティーンエイジャーのメンバーが小中学校の子どもたちにスマホとの付き合い方を教えるという点です。
子どもたちを参加させてスマホによる問題を話し合えるティーンエイジャー主導のユニークなプログラムとして、現在は全国展開されつつあります。この団体で訓練を受けたティーンエイジャーたちが講師として小学校や中学校に出向き、スマホによる精神的なストレスを話し合ったり、ちょっとした工夫でストレスを軽減できる手法などを伝授する内容です。
このプログラムが多くの学校で受け入れられている理由としては、3つのポイントが挙げられます。1つ目は、スマホ使用を禁止するわけではなく、「スマホとの付き合い方」について話し合うという趣旨だということです。完全にスマホを禁止するよりも現実的であり、これなら子どもたちも反発せずに話を聞いてくれるでしょう。
2つ目は、大人ではなく、自分たちよりも少し大きいお姉さんやお兄さんがプログラムを展開してくれることです。子ども目線でのディスカッションになるので聞き手の子どもたちも心を開きやすく、自分の意見を共有してもらいやすい環境になっていることです。講師のティーンエイジャーによる事例紹介は自分たちの経験談も含まれているため、より身近で現実味が感じられます。
3つ目は、スマホにまつわる「さまざまな精神的ストレス」などについて話し合うだけでなく、自分たちが具体的にどのようにストレスを軽減できるのかを体験から教えてくれることです。
団体実施のテストに合格するとスマホ使用許可証が入手できる
たとえばプログラムの具体的な対策例として、SNS(ソーシャルネットワーク)の設定変更が挙げられます。
ドイツでは「ワッツアップ(WhatsApp)」というSNSアプリが日本のLINEのように主流になっていますが、設定を変えない限り、自分が前回メッセージを読んだ時刻を相手に見られてしまいます。
この設定を変えて読んだ時刻を見えないようにするだけでも、すぐ相手に返信しなくてはならないという切迫感によるストレスが軽減されます。ですが、このような簡単な設定変更ができることを知らない子どもたちが多いのです。
そのほか、セックスティング(sexting:SNSを使った性的要求のメッセージ)やメディア著作権、ネット上のいじめなどについての対策も学べます。また、メディエンスカウツ が実施するテストに合格するとモバイルライセンス(携帯電話使用許可書)を取得でき、適切な時間帯のみ学校校舎内でのスマホ使用を許可してもらえるという仕組みになっているそうです。
まとめ
ドイツに住んでいて素晴らしいと思うのは、年齢にかかわらず子どもも自分の意見を言える環境が用意されていることです。子どもが主張した意見に正当性があれば大人も真剣に受け止め、一緒に改善策を考えたりできるという環境は、国として社会的な余裕があるように感じられます。
だからこそ、子どもの提案による「スマホじゃなくてボク(わたし)と遊んで!」というデモ行進が実現したり、ティーンエイジャーをプロの講師として啓蒙活動に活用したりすることができるのだ思います。
日本でも子どもたちを巻き込んでスマホ使用について積極的に話し合い、スマホ依存の改善につなげることができればと願っています。
<参照URL>
https://www.medienscouts-nrw.de/expertenteam/
https://apnews.com/c666782b92c2417ea1529853b5bb75d1
https://www.euronews.com/2019/06/20/germany-turns-to-teenagers-to-teach-kids-about-digital-stress
https://www.washingtonpost.com/technology/2019/02/15/german-government-adviser-recommends-ban-smartphones-children-younger-than/
https://qz.com/1384908/are-parents-suffering-from-smartphone-addiction/
https://www.yomiuri.co.jp/national/20200120-OYT1T50317/
https://www.thelocal.de/20151114/are-you-a-smombie-german-youth-word-2016
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
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