「専業主婦は子育てを誰かに頼っちゃいけないの?」 ~全国の無園児145万人!コロナ禍で加速するママの孤独化を救うには~
現在、多くの都市では待機児童は減少傾向にある一方で、全国には145万人という無園児(幼稚園や保育園に通っていない子)がいると言います。さらに、コロナ禍以降、「ママ友が作れない」「地域の子育て施設も不安で行きにくい」と子育ての孤独化は加速しています。こうした現状と解決策を模索するべく、認定NPO法人フローレンス(https://florence.or.jp)でこれらの課題解決に取り組まれている代表室の岡野さんと、保育事業ディレクターの赤坂さんにお話を伺いました。
目次
全国で145万人いる無園児とは?
__無園児と待機児童はどのように違うのでしょうか?
岡野さん:私たちは0歳から小学校入学までの未就学児のうち、保育園や幼稚園に通園していない園児のことを「無園児」と呼んでいます。一方、待機児童とは、保育園に入園申請をしているが、入園を待っている児童のことです。無園児の中には、この待機児童と、そもそも園に申し込んでいない層も含まれます。その数を独自に試算したところ、「約145万人」という結果が得られました。
__園に申し込んでいない層というのは、どういった方たちがいるのでしょう。
赤坂さん:保育園に通う必要があると行政に認められるためには、保護者が「月64時間以上働いている」などといった要件を満たさなければなりません。そのためお母さんが「預けたくても仕事が見つからない」、「要件を満たさないため預けられない」というケースもありますし、「3歳までは家庭で育てるのが当たり前」と思っているケース、「いずれ幼稚園に預けよう」と思っている人、幼稚園や保育園の制度がよく分からない外国籍や障害がある人、ネグレクトなどで無関心な人などさまざまです。
コロナ禍で無園児ママたちの孤独感は加速している
__フローレンスさんでは、未就学児の保護者2000人に子育ての孤独感などについてアンケート調査をされたそうですね。
岡野さん:第一子が定期的に保育園などに通っている保護者800人と、そうでない無園児の保護者1200人に調査したところ「子育ての中で孤独を感じる」と回答した方は、保育園などを利用している保護者の33.2%だったのに対し、無園児の保護者はそれよりも10ポイント以上高い43.8%という結果でした。
赤坂さん:無園児家庭の方がより孤独感を強く感じる理由としては、無園児の保護者の方は、周囲にご家族など家事育児のサポートを頼れない“物理的なサポート不足”が挙げられます。
フローレンスの一時保育をご利用いただいた無園児の親御さんからは、「1日中子どもと一緒で、誰とも話さないことがある」「朝から晩までどうやって一日やりすごそうかばかり考えている」「周囲に頼れる祖父母もなく、またコロナで頼みにくい」「シッターも使ったことがない」といった声も聞きます。
もちろん保育園に通う親御さんたちの中にも、ワンオペ育児などで孤独感を感じる方もいらっしゃいますが、預けている間に職場の大人と話ができたり、一定時間子どもと距離を置くことで気分転換できるといった声もありました。
(フローレンスより)
__乳幼児をもつ母親の孤独感はコロナ禍でさらに増えたと感じますか?
岡野さん:コロナ禍で子育て支援センターなどが閉鎖していたりと物理的に第三者と関わる機会が減り、「感染が怖くて子どもを外に出したくない」という心理的ハードルも孤独感を加速させたと思います。ある調査によると、コロナ以降、出産育児を経験した産婦のうち約30%がうつ状態にあり、コロナ以前に比べ倍増しているということです。本来産後数ヵ月でピークが過ぎると言われる産後鬱が、コロナ禍以降長期化しているという記事も目にしました。
男性の育児休業(育業)についての課題
__2022年の4月から育休に関する法改正や、東京都でも「育業」と名付けるなどの施策も始まりつつありますが、これらは母親の負担軽減につながりそうでしょうか?
岡野さん:フローレンスのスタッフは、ずいぶん前から男性の育休取得率が100%です。「男性も育休をとって当たり前」という雰囲気ですが、一般的には、組織の年配の男性らの意識改革も必要ですし、まだまだ取りやすいとは言えないと思います。
弊会保育園の男性園長が、育休を取得したのですが、保育士という保育のプロでも「上の子のお世話や産後のパートナーの体調回復までのサポートは想像以上に大変だった」と話していました。そして、「誰がやっても大変なんだから、夫婦でこの時期を乗り越えることが大切」とも。
赤坂さん:パートナーが家事育児を担える状況であっても、「自分がやらねばならない」と思い自分を追いつめてしまうというお母さんの声もよく聞きます。
岡野さん:私自身、専業主婦時代はワンオペ育児でしたし、夫や第三者に「頼るべきではない」と思い込んで疑問も抱いていない状態でした。きっと、気づかないうちに自分を追い込んでいるケースが少なくないのではないかと思います。
専業ママが外部サポートを利用するハードルの高さをどう払しょくするか
__「専業ママは誰かに子育てを頼ってはいけない」という風潮はまだまだ強いのでしょうか?
岡野さん:とても強いと思います。無園児家庭に「一時預かりサービスを利用したことがありますか?」というアンケートで、「使ったことがある・使ってみたい」と答えた人はわずか1割でした。「小さいうちに預けるのが可哀そう」といった声の他、「小さいうちは親が子育てを行うという世間の風潮を感じる」という回答も一定数あり、まだまだ“3歳児神話”にとらわれてしまっていることに驚きましたね。0歳から質の高い保育を受けることが子どもの発達に寄与することは明らかになっています。
赤坂さん:一時保育を初めて使うハードルはまだまだ高いです。連絡をして登録しに行く。どんな先生かも不安だし料金もかかる(1時間数百円~)ことに加えて、「自分が休むためにお金を使うのは贅沢なんじゃないか」との声も多いですね。
岡野さん:私も経験がありますが、お金を払ってまで預ける抵抗感や知らない保育者に預ける不安はあると思います。さらに、一時預かりを利用しても、初回でずっと泣いていて楽しめず、夜泣きされてかえって辛くなったりすると、次に利用するハードルはさらに高くなると思います。週に数日でも定期的に利用していけば、大抵のお子さんは慣れて楽しんでくれるようになりますし、預ける親御さんも慣れ、安心して預けることができるようになっていくと思います。
かつての日本は、親御さんが一人で子どもを育てていたのではなく、近所で子育てをシェアしていました。今は、自分の親が遠方だったり現役で働いていて頼れなかったりと、関わる大人の数が減っています。ですから、「地域一帯、みんなで子どもを育てよう」という考え方にシフトしていくべきだと思っています。
保育園の空きで無園児の受け入れを。変わりつつある保育の今
__フローレンスでは、保育園の空きで無園児の受け入れるサービスを一部開始しているそうですね。
赤坂さん:東京では準備段階ですが、仙台では既に空き枠で定期の一時保育を開始しています。募集してみると、「転勤族で近くに知り合いや親がいなく孤独だった」「保育園に通わせられるほどの仕事はしておらず預け先がなかった」といった反響があり、無園児受け入れのニーズがあると確信しています。
岡野さん:保育園に空きがあるの?と疑問に思われるかもしれませんが、少子化が進み、エリアによってばらつきがあるものの、待機児童は全国的に減少傾向にあり、都内でも待機児童がゼロの区が出てきています。フローレンスの試算によると、2022年度時点で全国の保育園などの空き定員数はすでに46万人分あり、地域や学年区分を考慮しない前提であれば、全ての無園児が週1日、保育園などに通える「空き」があることがわかりました。保育園の空きを活用した無園児の定期保育が全国で可能になるとといいなと思っています。
岡野:海外の例を見ても、フランスは3歳から義務教育は無償化していますし、スウェーデンは40年前から収入に関わらず、「子どもの権利」として保育が義務化されています。
日本同様、少子化が課題である韓国では、0歳から誰でも保育園に通える制度があり、家庭で保育するよりも保育園に通う方が補助金が多く出る仕組みによって保育園の利用促進を進めています。
赤坂さん:無園児には、外国籍や親御さんが発達障害などで制度にアクセスできない、保育に関心が低い家庭も含まれます。親の就労状況によって子どもの保育や教育を受けられる権利が保障されない格差は見直されるべきだと思っています。
岡野さん:フローレンスでは、「みんなの保育園構想」を数年前から掲げ、全国小規模保育協議会として保育園の多機能化を提言しています。有識者の方たちの意見や世の中の風潮もあり、国が保育園の空きを積極的に活用していこうという方針になりつつあります。
子どもは同年代の中で刺激を受けるもの。専業ママこそ頼ってほしい!
__一時保育を利用された方の感想はいかがでしたか?
赤坂さん:「一時保育を利用し始めて、子どもの言葉がでてくるようになった。何より自分のリフレッシュになった」「産後2年間、自分で見なければと自分を苦しめていた。一時保育で楽しそうにしている様子を見ると、子どもも息苦しかったんじゃないかと思う」
といった声をいただいています。
発達面からも、「子どもは子どもの中で育つ」と言われるように、同年代のお友達からいろんな刺激や影響を受けて育っていきます。「週に1~2回でも大丈夫?」と思われるかもしれませんが、在園児も「今日は〇〇ちゃんが来る日だね」と一時保育利用のお友達をとても楽しみにしています。
__無園児のママさんたちにメッセージをお願いします
岡野さん:東京都には働いていなくても利用できる認証保育園があります。令和4年から、週2程度の利用でも保育園に補助金が出るようになり、専業主婦(主夫)家庭にも利用しやすくなりました。他にも、シッター利用時に補助が出る制度など、知らない方が意外に多い子育て支援制度が自治体によって様々ありますので、ぜひ問い合わせてみてください。
赤坂さん:育児を自分がやらねばと縛られずに、「もっと人の手を借りていいんだよ」と伝えたいですね。フローレンスでは訪問型の病児保育サービスもありますが、一度使うと「人に頼るのは悪いことじゃない」と思ってくださる方が多いです。ぜひ一人で頑張りすぎずに、いろんなサービスを利用してほしいと思います。