子どもの心を強くするには? 「へこたれない心」の育て方
もともとストレス社会と言われていた日々に、新型コロナが加担し、大人も子どもも心の疲れが悪化してきているのをここ最近感じています。ストレスの多い時代を生きていくための強いメンタルとは? 子どものみならず、自分自身も“へこたれない心”になるための心理学をお伝えしていきます。
目次
大事なのは“失敗しないこと”ではなく“失敗しても復活できること”
長引くコロナ禍で、慢性的なストレスが私たちにのしかかってきています。始まった当初は、そこまで長引かないと思っていたのに、気づけば3度目の冬を迎えようとしています。コロナ禍になる前と比べて、心がよどんでいて元気がなくなっているという方は多いのではないでしょうか。
このような時世のため、「心を強くしたい」とだれもが思う昨今ですが、それでイメージするのは、ストレスやプレッシャーをものともせずにはね退ける強さかもしれません。でも、日々を振り返れば、色々なことが起こるもの。まったく動じないなんてそもそも無理ですし、何でもすべてが上手く行くなんていうこともありません。失敗だってたくさんします。そして、だれだって失敗すれば、程度の違いこそあれ、気持ちはへこむものです。
ここからわかるのは、理想は失敗のない人生かもしれませんが、現実は失敗があっても立ち直れる人生と言えるのです。
・失敗しない人生ではなく、失敗しても立ち直れる人生
・決して折れない心ではなく、折れても復活する心
これが現実的に目指す理想形と言えるでしょう。では、それをどう叶えていくのか? まずは知っておきたい心理学の概念からお話ししていきます。
「何をやっても無駄」そんな無気力状態は「学習性無力感」かも
みなさんは、「学習性無力感」という言葉を聞いたことはあるでしょうか? これは、アメリカの心理学者であるセリグマン博士などの研究を通じ、確立された概念です。
その言葉通り、心が“無力”を学んでしまった状態のことを言います。強いストレスにさらされたとき、そこから逃れようとして色々と試みるものの、何をやってもダメだという認識になると、次第にその危機から脱しようという気力がなくなり、無気力状態になる……。
これは、人間でも動物でも起こるとされ、サーカスの象がなぜおとなしいのか、かごの中の鳥がかごを開けてもなぜ逃げようとしないのか、このような例で説明されることがあります。その象や鳥は小さい時に、「抵抗してもムダだ」という学びをしたために、大人になって実際にやろうと思えばできることでさえも、初めからあきらめ、試そうとしなくなるのです。
しかし、セリグマン博士らの実験では、全員が学習性無力感に陥っていったわけではなかったため、そのことを研究発表の場で指摘されます。実験の部屋の中で騒音にさらされ続け、音を止める術を与えられなかった「逃避不可能軍」の人たちの中に、決してあきらめずに、何とか回避しようと試み続けた人たちがいたのです。つまり、同じ環境下に置かれても、学習性無力感に陥る人とそうでない人がいたということです。いくつかの実験を通し、一貫して約3分の1ほどが学習性無力感に陥らなかったのだそうです。
心が折れたまま引きずる人、復活できる人の違い
その違いを説明することに、その後のセリグマン博士の活動は注力されました。そこで見出されたのが、人それぞれの解釈の違いでした。「置かれた状況をどう捉えるか」ということがその違いを生み出していたのです。
逆境に置かれたときに、あきらめて学習性無力感に陥る人の思いは、「もう何をやってもダメだ」というものです。一方のあきらめない人たちは、同じ状況を、「きっと何とかなるだろう」と捉えています。その楽観性の違いが行動の違いをも生み出していたわけです。
すぐにあきらめてしまう人は、自分の身に起こった不幸を、“永続的”かつ“普遍的”に捉える傾向があることがわかっています。
つまり、
「ずっとこのまま悪い状態から抜け出せないだろう」
「自分は何をやってもうまくいかない」
のような感じです。たしかにこのように捉えてしまったら、気力を上げようにも難しいのは想像できますよね。
一方で、あきらめない人は、同じ状況を、
「この状態は長くは続かない」
「今回は運が悪かった」
と一時的、限定的なものとして捉えるため、「どうにかなるだろう」という思いが保ちやすくなるのです。
前者は悪いことを心の中で拡大していますが、後者は縮小して捉えています。その違いが実際にその人が感じている不幸の大きさに影響をおよぼしていくのですね。
親の楽観的な発言が子どもをポジティブにする「親子でメントレのすすめ」
冒頭にお伝えした現実的な目標:
・失敗しても立ち直れる人生
・折れても復活する心
これを強く支えるのが、ここでご紹介した楽観的な物の見方です。心がへこんだときに、置かれた状況を楽観的に保てれば、自ずと復活が早くなります。
親と子の物の見方は似ていることが言われていて、先のセリグマン博士の研究では、母親と子どもたちとの相関が見出されています。ここでいう母親というのは、その子と一番多く接しているという意味です。幼少時、自分と一緒に長く過ごしている人の日々の言動から、その人の持っている“物の捉え方“をもまねていくのだそうです。
よって、今回のテーマである「子どもの心を強くするには?」の回答として、まず私がおすすめしたいのが、親がふだんから楽観的な言葉を心がけ、子どもとコミュニケーションを取るということです。
とくに、自分にとって悪いことが起こったときに、
「今日は運が悪かった」
「こういうことはたまにはあるものよ」
「ママなら何とかなる」
と悪いことを限定的に捉えたり、あきらめない気持ちを口にするのはおすすめです。
逆に、
「ママにはもうムリ」
「何でいつもこうなの!」
「もうどうにもならない、最悪」
のように、悪いことに対し、さじを投げてしまう言動は意識的に手放していきましょう。
「どうせうまくいかない」から「私ならできる」に!
日々の小さな達成経験が子どもの自己効力感をUPする
また、学習性無力感に陥ったときにつぶやきがちな、「どうせうまくいかない」「自分にはムリだ」という言葉は、自己効力感が下がってしまった表れでもあります。自己効力感とは、自分がある状況に置かれたとき、取り組もうとしていることを、「私ならうまく遂行できる」と信じられる気持ちのことで、自分の実力や可能性への自信です。無力感に陥った状態では、かなり自信が下がってしまっていますから、この自己効力感を意識的に上げていく試みも有効でしょう。
自己効力感は、達成経験やほめられることで上がりやすくなります。とは言っても、「ものすごいことを達成してほめられる」というようなビッグなイベントが必要なのではありません。むしろ、日々の生活の中に小さな達成経験を散りばめる方がやりやすいので、結果的には効果的です。
たとえば、計算ドリルに取り組むにも、一気に全50ページを仕上げて、ママにべたぼめされるよりも、1日5ページを10日間コツコツと仕上げ、毎日ママにほめてもらう形です。
もしお子さんが何らかの出来事で落ち込み、「どうせボク(ワタシ)なんてダメだ」と悲観的になっているような場合、ぜひ意識的に取り入れることをおすすめします。
自分の悲観さにがっかりしたら「認知行動療法」もおすすめ
今回は子どものみならず、大人の私たちの心にも同じように作用する心理学についてお伝えしてきましたが、ここまでの内容を読んで、「私は超悲観的かもしれない」とか、「NGの例がそのまま当てはまる」と感じている方もいるかもしれません。その場合は、日頃から不安や落ち込みが多かったり、中には、慢性的に気持ちが上がらないという方もいるのではないでしょうか?
カウンセリングの手法の1つに「認知行動療法」というものがあり、それは今回ご紹介したような「物事をどう捉えるか」に着目した方法になります。○○療法などと言われると尻込みしてしまう人が多いと思いますが、実際には日常生活に役立つ実践的な取り組みなので、心理学を日常使いしているのを感じていただけると思います。
私が運営している相談室で多い認知行動療法の活用例としては、きっかけはお子さんに関するお悩みだったものの、話し合ううちに、自分の悲観的な物の捉え方が事を悪化させていたことに気づき、そこで認知行動療法を入れて、お子さんへの接し方を変えていった、このようなケースです。
「私はネガティブだ」とか、「メンタルが弱いのかも」と感じている方の多くが、自分が心の中でつぶやいている言葉に参ってしまっていることが多いのですが、認知行動療法では、その人独自の“思考のクセ”のようなものを拾い出して、よりストレスのかからない物の捉え方に改善していく試みをします。たとえるなら、それまで心に暗い色のレンズのサングラスをかけて世の中を見ていたのを、より澄んだ曇りのないレンズに磨いていく改革と言えるでしょう。
今は書籍も数多く出ていますから、まずは本で学ぶのもいいかもしれません。物事の捉え方が悲観的なばかりに、悪いことが何倍にも苦痛に感じてしまっている方に、心を強くするおすすめの方法と言えます。
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育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/