真面目なママにこそ知ってほしい!『モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』著者、伊藤美佳さん
近頃よく耳にする“モンテッソーリ教育”。でも実際のところ、子どもにどんないい効果があって、家庭で取り入れるにどうすればいいの? そんなお悩みを解消すべく、シリーズ累計10万部を誇る、『マンガでよくわかる モンテッソーリ教育×ハーバード式 子どもの才能の伸ばし方』(かんき出版)の著者で、モンテッソーリ協会の教員免許をお持ちの伊藤美佳さんにお話を伺いました。
伊藤美佳さん
(株)D・G・P代表取締役。0歳からの乳幼児親子教室「輝きベビーアカデミー」(https://kagayakibaby.org)代表理事。幼稚園教諭1級免許、日本モンテッソーリ協会教員免許、保育士国家資格、小学校英語教員免許取得。日本メンタルヘルス協会認定基礎心理カウンセラーの資格も持つ。幼稚園・保育園・スクールで26年間、およそ2万人の子どもたちと関わり、モンテッソーリ教育を学びつつ、ハーバード大学教授の「多重知能理論」を日本人向けにアレンジしたオリジナルメソッド「9つの知能」を開発。現在は自身のスクールで幼児教育に携わる他、教員向けの指導やセミナー、執筆活動など多方面で活躍中。
目次
モンテッソーリ教育を受けた子どもたちはどう違うのか
__これまで5つの幼稚園・保育園勤務を経験されたという伊藤さん。モンテッソーリ教育を取り入れた幼稚園での子どもたちの様子について教えてください
一番の違いは「自分で選ぶ子かどうか」。モンテッソーリ幼稚園の子どもたちは、常に自分で何をするかを選んでいるので何もしていないことがないですが、管理型の園の子どもたちは、「待たされている子」と言う印象ですね。
たとえば、体操の授業では、指示待ち園の場合は、順番がこない間は受け身で待たされている状態。一方のモンテッソーリ園の場合は、鉄棒がいいかマットがいいかも自分で選んで決めます。待つことも自分で決めるので、それに列が出来ていれば、やりたい欲があるときは待てるし、やり遂げられるんです。“好きなことや取り組みたいこと=その子の発達に今必要なこと”なんです。モンテッソーリの考えで言うと、それが育つことになるんです。
__先生が考案された「9つの知能」について教えてください!
モンテッソーリ教育の根本にあるのは、子どもの自立であり、親は子どもの側に寄り添って見守る存在でいること。決して手を貸したり、世話を焼いたりするのではなく、子どもの能力を引き出す存在であるということ。指示待ちではなく自分で考えて人生を選択できる子です。そうしたモンテッソーリ教育に加えて私が重視したのが、ハーバード大学の教授が提唱している「多重知能理論」。人間には8つの知能があり、人によってその能力が高かったり低かったりするという考えです。それを日本人向けにアレンジしたものが9つの知能です。私はこの9つの知能で、子どもを観察するようにおすすめしています。
©イラスト齊藤 恵
__幼稚園に「モンテッソーリ+9つの知能」を取り入れたところ、先生たちの言動が変わったそうですが、先生や親は簡単に意識や見方が変えられるものでしょうか?
時間はかかるけど、気付けるようになりますよ。たとえば、水や植物などをじっと触っている子。彼らはそういうとき、頭の中で一生懸命考えて研究しているんです(将来研究職につく子も多いです)。でも、そんな子たちを見て大人は「早くしなさい」とか、「何を考えているか分からない」と思いがちです。彼らの思いや考えは行動に表れないから理解してもらえないだけなんですけどね。ですから、関わる大人の責任は大きいです。その違いを理解できるかどうかは、先生の素質や育った環境にも影響すると思います。
物事を深く考えたり、「そうかもしれない!」と思える先生であれば、「積極的で落ち着きがない問題児」も「知的好奇心があってエネルギッシュな子」に見えるんです。
©イラスト齊藤 恵
保護者の方からも、「9つの知能の話を聞いた翌日からわが子の見方が変わった!」と言っていただくことが多いです。たとえばコップに入れたミルクをこぼしたときも、「何やってるの!」ではなくて「手の動きがうまくいかなかったのね」と思えたり、床いっぱいにおもちゃを並べていたら、「数を数えているのね!」と思えたなど。わが子の行動の意味がわかると、それ自体を評価できるようになるんです。
幼児の遊びには、発達上すべてに意味がある!
__「真面目なママほど、モンテッソーリ教育×ハーバードをおすすめしたい」理由を教えてください。
今はインターネットなどで子育ての情報があふれていて、上手く出来ていない自分に焦ってしまうママが多いと感じています。遊びも知育も、「何か特別なものが必要なんじゃないか」と考えている親御さんも多いのではないでしょうか。
でも、モンテッソーリ×ハーバード式子育ての手法が理解できると、ふりかけでも消しゴムでも、家にあるもので楽しめる発想力が身につくので、子育てがぐんと楽しくなります。
私たち大人は意外と遊び方を知りませんから、子どもに適した遊び方を知ると関わりが変われって、一人遊びができる子になりますし、お子さんの発想力の訓練にもなります。
それには、“幼児の遊びには発達上全て意味がある”と理解することも大切です。
たとえば「手遊び」は楽しいだけではなくて、モノを持つ訓練でもあります。そういった遊びの目的や意味が分かるとやる気になりませんか?
抱っこ紐などの便利グッズが発達を止めていることも
__近頃の子どもたちの発達で気になっていることはありますか?
私が懸念しているのが、「便利グッズが発達を止めてしまっている」ということです。たとえば「抱っこ紐」の中に長時間いた子どもの足は、筋力がつかないので、3歳でも立ったり座ったりできないというケースがありました。
便利な「ストローマグ」も、使いすぎると自力で嚥下する力が弱くなり上手く噛めないなど、発達に悪影響を及ぼすことがあります。また、多くの方が使っている「ベビーソファ」も、長く使うと体幹が鍛えられずに、小学生になっても長時間立っていられない、猫背、足を大きく広げないと座っていられないなどの悪影響が出るとも言われています。
モンテッソーリ教育を自宅で行う際の注意点
__家庭で「モンテッソーリ教育+9つの知能」を実践するために、まずすべきことを教えてください!
モンテッソーリ教育は専門の教具を使うのですが、根底には「今何を求めているか向き合って道具を与える」という考え方があります。
たとえば、ティッシュを何枚も出して遊ぶのは、指でつまむ学習をしているということ。ペットボトルを開けたいのは指で回してみたいという時期、階段を上りたいのは足を鍛えたい時期。ポイントは、ティッシュを無駄と思うか、ティッシュは袋に入れて後で使えばいいわと思えるかどうか。適切な発達を促すには、親の方が「こうじゃなきゃダメ」と言うルールを見直すことが大切です。
__家庭でできるおすすめの遊び方があれば教えてください
「感覚」知能を伸ばすなら、ジップ付きの袋にいろんな感触のものを入れて遊ぶ「センサリートイ」づくり、「音楽」の知能を伸ばすなら、目隠しをして日常の音を当てる「これ何の音?」遊びもおすすめ。他にも、決めた目標を達成する「自分」の知能を伸ばすなら、水で薄めたのりと筆で絵を描いて上から砂を振りかける「砂絵遊び」なども、砂の感触や模様を見ながら集中することで、自分1人の世界に没頭できます。
©イラスト齊藤 恵
__モンテッソーリ教育では「すべてを受け入れること」とありますが、兄弟やお友達との喧嘩も見守っていればいいのでしょうか?
喧嘩は時と場合によりますが、頭ごなしに否定せず、そのときしたい欲求を一度満たしてあげると満足して落ち着くことがあります。
兄弟げんかの場合は、大人が成敗してしまうと誰かが不満になるので、わが家の場合は、兄弟3人の責任として「自分たちで解決して、外でやって」と言っていました。あとで一人ずつ「どうすればよかったかな」と話を聞くこともありました。でも、小さいうちに子ども同士でぶつかり合う経験も大事です。力加減も学んでほしいですし、それを知らないと後に大けがにつながることもありますから。相手や場所を選びつつ、知っている同士なら「子ども同士で解決させてみよう」と言い合えるといいですね。
6歳までの「敏感期」の過ごし方
__モンテッソーリ教育で能力が大きく発達するとされる、6歳までの「敏感期」の過ごし方についてアドバイスをお願いします。
モンテッソーリ教育や多重知能理論は、テストの点数では測れない感覚的なものなので、成長を測るのが難しいと思うのですが、それらをバランスよく使った遊びを敏感期である6歳までにしておくと、その後の学びの土台となるので、何か新しいことを始めたときの修得が早いとされています。今その子が何に興味があるのかを観察して、それを満足させてあげること。たとえ赤ちゃんで反応がなくても、たくさん話してあげてください。
また、「脳がもっとも吸収するのは0~3歳」。脳の性質上この時期までに使われなかった分野は、その後衰えて抜け落ちたまま成長してしまうとも言われています。言葉使い、礼儀、約束……日々の経験は全て学習になります。幼児に約束を守らせるのってすごく難しいと思うのですが、たとえば帰る時間や食事を片づける時間など子どもとの約束は、例外を作ったり感情的にならずに「時間が来たら笑顔で実行する」のがポイントです。
©イラスト齊藤 恵
「叱らない育児」はママの我慢とは違います!
__育児に関して「そのやり方、意外と間違っているかも!?」といったことがあれば教えてください。
ここ数年、「叱らない育児」が話題ですが、叱らない=ママが我慢することではありません。ママが我慢して子どもに主導権を握らせすぎた結果、わがままや癇癪で手が付けられなくなってしまった子も増えています。「お腹が空いた」「疲れている」「イライラしている」「ちょっと待ってね」など、ママの都合も伝えていいんです。言葉が話せない赤ちゃんのときからママの都合を伝えていれば、きちんとわかってくれるようになります(守ってくれたらありがとうを忘れずに!)。いつまでも赤ちゃんだと思ってお世話をしてあげすぎないこと。2歳を過ぎてイヤイヤ期が来たら、親自身も意識的に関わり方を変えないといけません。
あとは、叱るときに注意してほしいのが、「子どもは生まれながらにプライドをもっている」ということ。上から目線で訂正すると子どものプライドが傷つくので逆効果。物事を正しいやり方で行うよりも、子どもは失敗して自分で考えることの方が大事なんです。注意したり叱るときは、子どもでも「いろんなことがわかっている」と思ってつきあってあげましょう。たとえ今はうまくできなくても、訓練中なだけ。できない人ではありません。
©イラスト齊藤 恵
子育ては、今何を求めているかを察して実践あるのみ!
__最後に、子育てに奮闘するママ・パパたちへアドバイスをお願いします
6歳までが敏感期とお伝えしましたが、何歳からでも遅くはありません。まずはお子さんが今何を求めているかを察してあげてください。それがその子が今のばしたいことです。6歳以降になったら、「将来の夢やどんな人になりたいか」を話して、そのためにどうしたいか、どんな学校に行きたいか、やりたいことをみつけていくのもいいでしょう。変化の多い今の時代、さまざまな出会いや経験が、その後の人生を豊かにするはずです。
子育てに正解はありません。私は、今何ができるかを試行錯誤するのが子育てだと思っています。そして、ママも自分の人生をどう生きるかを考えて、目標を持って向かっていってください。最後に、これらを読んで終わりにせず、今日から何か1つでも実践してみてくださいね。