キャサリン妃とウィリアム王子が迎えた”ナニー”を育てたイギリスの養成校の秘密
イギリス南西部、世界遺産の街・バースにはイギリスの富裕層に支持される『ナニー(乳母、子どものお世話係)』を養成する『ノーランド・カレッジ』があります。
セレブリティや王室からの信頼も厚く、キャサリン妃とウィリアム王子がジョージ王子誕生後に雇った『スペイン人ナニー』がノーランド出身ということでも話題になりました。
階級社会が残るイギリスならではの、ナニーという職業の実態とノーランド・カレッジの教育内容、卒業生たちの活躍に焦点を当てます。
目次
ナニーの仕事内容は?ベビーシッターとの違いは?
イギリスでは19世紀頃から、貴族階級では自ら育児をせず、子どもの世話としつけを一切任せる『住み込みナニー』を屋敷に置くことが、社会的地位を誇示する意味合いを持つようになりました。
当時のナニーは中流家庭の未婚女性が就く職業で、屋敷の子息と1日の大半を過ごすことから使用人のなかでもランクが高く、雇用主からも大切に扱われていたのだとか。
わかりやすい例としては、イギリスの歴史時代ドラマ『ダウントン・アビー 華麗なる英国貴族の館』の世界です。アメリカでも大ヒットし、海外ドラマでは異例のエミー賞とゴールデングローブ賞を受賞。日本でもNHKで2014〜2017年まで放送されました。
現代でも、上流階級ではきちんと教育を受けたナニーを雇う習慣があり、さらに女性の社会進出に伴って、富裕層にあたる上位の中流階級の共働き家庭でもナニーが活躍するようになりました。
家庭の状況により、住み込みか通いのナニーかが選択されます。現在のナニーは仕事の幅が広く、幼稚園・学校の送迎、食事といった身の回りの世話だけでなく、子どもの勉強を見たり、しつけをしたり、情操教育などを含む教育係で、いわば母親代わりの役割まで果たします。
通常ナニーは長期的に同じ家庭で働くため、子どもと非常に密接な関係にあるという点は、「単発バイト感覚」のベビーシッターや単なる家事手伝いとの大きな違いです。
ノーランド・カレッジの独特な教育内容とその特徴とは?
1892年バースで、イギリスでは初めての幼児教育コースを設立したノーランド・カレッジ。この伝統的なノーランドで3年間、幼児教育・子守・料理・掃除・裁縫・家事・安全管理・応急手当・実際の家庭における実習など、多岐に渡る授業と訓練が行われています。
このカレッジのナニーは『ノーランダー』と呼ばれ、他のナニーとは一線を画しています。まず、メアリー・ポピンズを彷彿とさせるベージュのワンピースと独特の茶色のフェルト帽に白い手袋という、古めかしい制服が異彩を放っています。
さらに興味深いのは、王室や社会的地位の高い家庭からの需要を受け、万が一に備え、韓国の武道「テコンドー」の授業やハイスピードで横滑りする車の運転術、パパラッチをかわす方法、テロ対策などの実習が取り組まれていることです。
その特殊なカレッジ生活は、2014年にイギリスの主要テレビ局「ITV」でゴールデンタイムに放送された『Britain’s Poshest Nannie(イギリスで最もハイソなナニーたち)』というドキュメンタリーで明らかにされ、注目を集めました。
ノーランドの授業料は、年間£14,487(約213万円)と高額で、このカレッジに3年間通うことができるのはある程度、経済的余裕がある家庭で育った学生たちだということがわかります。
上流階級や富裕層は、自分の子どもと長い時間を過ごすナニーにも教育水準の高さやマナーの良さを求める傾向が強いため、幼児教育において『世界最高峰』とも言われるノーランドに絶大な信頼を寄せているのです。
ノーランド卒業生の給料と活躍ぶり
ノーランド卒業生は、晴れて『ノーランダーだけ』が登録可能なノーランドの派遣会社に登録できます。こちらの派遣会社は、会員のみが閲覧可能でプライバシーも保護されているので、その点でも社会的地位が高い層から支持されています。
気になる卒業生の給料は、ロンドンで自宅から通い勤務の場合『年収約516万円から892万円(£35,000から£60,500)』以上、イギリス国外勤務になれば、なんと『年収1106万円(£75,000)以上』…!
大きな投資と厳しい訓練の末には、安定した未来と『ノーランダー』という社会的ステータスが手に入れられるのです。
そんなノーランダーの名を一躍世界に知らしめたのは、ウィリアム王子とキャサリン妃です。ジョージ王子ご誕生で、初めての外国人雇用者となったスペイン人ナニー、『マリア テレーサ・トゥリオン・ボラーリョ』さんを王室に迎えたのでした。
最近では、王室のごく内部の親族だけが招かれた「シャーロット王女の洗礼式」にもマリアさんが同行しました。また、ジョージ王子がベビーカーのシャーロット王女を覗き込む姿を、エリザベス女王とともに微笑みながら見守るようすが大きく取り上げられました。
公になっている情報によると、過去には、同様のイギリス王室アン王女やミック・ジャガーもノーランドのナニーを雇っていたのだとか。ノーランド出身の元雇用者たちからゴシップが流出することがないという実績も、ノーランダーが称賛される理由に違いありません。
日本でも最近「ナニー」という言葉を少しずつ耳にするようになりました。専門性の高い訓練を通し、王室やセレブリティに迎えられるほどの上級マナーとステータスを身につけ、華やかな上流社会を影で支えるイギリス式ナニーから、日本でも独自の教育法や育児サービス形態など、何か新しいアイデアが見つかるかもしれませんね。
参照/Norland
Mother&Baby「Secrets Of The Royal Supernannies To Be Revealed In New TV Documentary」
Observer「Who Was the Mary Poppins Nanny at Princess Charlotte’s Christening?」
Daily Mail Online「Kate Middleton’s guard and Prince George’s nanny on duty at royal christening」
Good Housekeeping「11 THINGS YOU NEED TO KNOW ABOUT NORLAND NANNIES」
ITV News「Record-breaking year for Norland nannies」
VICTORIAN CHILDREN「Victorian Children in Victorian Times and How They Lived」
東洋経済オンライン「英『ダウントン・アビー』世界中で人気の謎」
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
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