世界へ挑戦するアスリートキッズの親に聞く、「好き」を伸ばす極意とは?
いよいよ東京オリンピックイヤーの幕開け。そこで今回は、世界で活躍する2人のジュニアアスリートのお父さんに、「子どもの好き」を伸ばすコツ、才能を見極める親の目、失敗をどう糧にしたのか…アスリートキッズの親御さんならではの教育法や子育てのお話をお聞きします。お子さんにスポーツを習わせたいとお考えの親御さん必見です!
目次
お話しを伺った方
梅國先生
伸芽会 伸芽’Sクラブの責任者。長女、次女共にテニスのジュニア選手として活躍する2児の父。次女は、全日本ジュニアダブルスチャンピオン。
林 映寿さん
浄光寺副住職。スラックライン推進機構代表理事。スラックライン世界第7位で天才アスリートキッズとしてメディアでも活躍する林映心君(12歳)の父。著書『楽しいだけで世界一』(サンクチュアリ出版)。
きっかけは、子どもが「やってみたい」というまで待つこと!
大学時代にテニスをされていた梅國先生。お子さんが始めたのは長女5歳、次女3歳の時。親のテニスに一緒についていくのは、自然な流れだったそう。「テニスは、ボールを打って、相手コートに入れるという、子どもでもわかりやすいルールなので、自然とやってみたい気持ちにつながったんだと思います。姉妹で遊ぶような感覚で、テニスを楽しんでいきましたね」(梅國先生)。
全日本ジュニアテニス選手権2019で優勝した時の様子。
一方の林さんは、映心君が6歳のころ。ご両親が初心者からスラックラインを始めたのをずっと眺めていた映心君。興味を示さなかった映心君に対して、ご両親も勧めることはしませんでしたが、半年ほど経ったころ、映心君が自ら始めたそうです。「もしかしたら、僕ら夫婦が上手にできていなかったので、映心も興味を示さなかったのかもしれませんね。スポーツのきっかけって“かっこいい”とか“俺もうまくなりたい”だったりするので(笑)。実際に僕ら以外の上手な人を見て、自分もやりたいと思ったのではないでしょうか?」(林さん)
映心君のスラックライン。2019スラックラインワールドカップジャパン・フルコンボ大会での様子。
コーチ兼父であること。子どもとの距離感は?
親子で同じスポーツをする場合、どうしても口出ししたくなってしまうのが親心。お二人はどのような距離感で関わっていたのでしょうか?
林さん:うちは、お寺なので「寺子屋」があるんです。その一部にスラックラインパークがあり、そこで練習しています。下は赤ちゃんから、上は20歳くらいの子が通っています。寺子屋で私が教えることは「返事をすること」「挨拶をすること」「宿題をすること」の3つ。人として大切な事しか教えません。寺子屋では、楽しいの先に自主性が生まれてくる、子どもたち同士の化学変化を大切にしています。学ぶ連鎖が生まれる場所です。ある時は、教える側に。ある時は教わる側に。映心も僕より技ができるので、コーチとして僕が教える事なんて、全くない(笑)。むしろ僕から「教えてよ」と言って教えてもらっています。
梅國先生:コーチとして、父として特に幼少期に一番心がけていたのは「テニスが大好きになるようとにかく褒めたこと」。好きでないと継続するのは、難しいからですからね。テニスの試合では、審判は大きな大会しかつかず、ほとんどの試合はセルフジャッジなんです。だから、ズルをしようと思えば「入っていたボールをアウトと申告すること」もできてしまう。また、試合中は、大きな声で相手にジャッジを伝えることが求められ、試合の前後はきちんと挨拶をして、相手が素晴らしいプレーをしたら、素直にそれを認める。テニスには、人として当たり前のコミュニケーション力や心構えが求められます。
父としては、テニスを通じて、人として当たり前のことを一緒に考えさせてもらっていると感じています。技術的なことは、もう自分が教えられるようなレベルではないので、信頼するコーチにお任せしています。
試合後のお嬢さんと梅國先生。テニスという共通の趣味のおかげで、思春期でもお父さんと娘さんたちとの関係は良好なんだとか。
遠征、海外合宿、コーチ代…ズバリ気になるお金のコト
本格的に大会に出たりするようになると、優秀なコーチをつけたり、遠征や合宿などどうしても出費がかさんできます。そのあたりはどうしているのでしょうか?
梅國先生:テニスは、試合に出るための遠征費用などかなりのお金がかかります。もちろん、普段の所属クラブでの指導料やラケット・テニスウェア・シューズなどの用具にも費用が掛かります(年間数百万になることも)。
資金面で苦労されるご家庭が多く、わが家も夫婦共働きで何とか頑張っている状況です。ジュニアアスリートを持つ親として思うのは、「可能性の段階から親は覚悟を決めてやらないといけない」ということ。わが家の場合は、親が判断して諦めるのがもったいないと感じたので、本人のプロを目指したいという意思を尊重し、今は親としてその可能性を信じて、覚悟を決めてサポートしています。
林さん:スラックラインも練習場の確保や遠征でお金のかかるスポーツですが、賞金の出る大会もあるので、その時に頂いた賞金は、息子の個人の口座に入れるようにしています。僕は、「スポーツとお金」に関してのお金教育についても考えています。例えば、スラックラインはパフォーマーとして、出演料を頂いてパフォーマンスする機会もあります。お金を頂いて、パフォーマンスすることの責任。また、頂いたお金の使い方。そういった部分もしっかりと学んでいってほしいと思います。
ワールドカップでは7位に入賞し賞金50,000円を手にしました。
梅國先生:ジュニアスポーツとその活動資金の問題は、これから議論が必要ですね。テニスもそうですが、ジュニアスポーツはまだまだ賞金が出るような体制ではないので、スポンサー企業についていただいたり、クラウドファンディングで資金を集めたりしている方もいます。金銭面で子どもの可能性をあきらめなければならないのは、とても残念な事だと思います。
林さん:スポーツとお金が循環して、きちんと続けられる体制ができてくるといいですね。
家庭でのフォロー、学校との両立など親としてどう支えてる?
続いては、気になるスポーツと勉強の両立。実際のところはどうなのでしょうか?
林さん:私たちが住む長野県の小布施では、スラックラインが盛んなので、学校や地域の理解があり、学校との両立は、うまくいっています。と言っても、本人は学校で話していないようで、先日のワールドカップで取材が入り、初めて映心がスラックラインの選手だったと知った同級生もいたほどです(笑)。
うちは、常に練習できる環境が整っているものの、毎日トレーニングしているわけじゃないんです。スポンサーもついているので、妻はとても気にしているのですが、やらされた練習って意味がないと思うんですね。
今年のワールドカップ前に、今までできていた技が突然できなくなって。スラックラインでは、よくあることなのですが、結局ワールドカップでも、その技ができないままでした。先日行われた大会前も、風邪で体調を崩し、ほとんど練習ができなかったのですが、その試合ではできなかった技が決まり、3位になったんです。もしかしたら、プレッシャーがあったのかもしれないですね。
親としては、「練習をやりたくない事」を尊重しています。そうすれば、「今日は、スラックラインをやりたい」という日がきますから。
スポーツをするには、やっぱり環境が必要。親は、この環境を整えるだけです。
僕は無理にスラックラインをやらなくても全然いいと思っていて。最近の息子は、スラックラインよりも敷地内に小型の重機を使って穴を掘ってカートのコースを作るのに夢中です(笑)。リアルプログラミングですね。体の動きをイメージできるようになるので、僕的にはトレーニングにもなるかなと思っているのですが…。息子には好きなことを通して、生きる力を学んでほしいんです。
自宅の敷地内で重機を上手に操作する映心君。
梅國先生:学校との両立は、学校にも理解を頂いて遠征などに参加しています。勉強も大切ですが、わが家はテニスを通じて学んでいるという考え方で、ある意味割り切っていますね。お友達との関係にも関わってくるので、遊びとテニスのバランスに気を使いますが、テニスも学校以外のコミュニティ、仲間づくりの場として考えています。
今の世の中は、「体験力」が少ないと思うんですね。大人の視点で便利になっているだけで、子どもが生きる力を身につけにくい。そういう意味で、スポーツで生きる力を身につけてほしいと思っています。大会に出始めると、周りの期待を親が感じて、それに振り回されそうになることもあります。親も、試合の勝ち負けに一喜一憂していたら正直、気がもちません。怪我をした時、モチベーションが上がらない時こそ、焦りを出さずに「大したことないよ」と待ち続ける。
テニスは、ものすごい確率で負けるスポーツなんです。負けを受け入れ、自分で原因を考える力が必要になります。人生って負けることも多いじゃないですか?1回の勝ちのために努力をしていることが多いですよね。子どもには、それを学んでいってほしいと思います。本人が納得いくまで、応援する。それだけです。
テニスの海外遠征先で。同じ夢を持つ各国選手たちとの出会いも。
インタビューを通じて感じたのは、「父親の心の広さ」です。練習をしない事、試合の結果など母親だとすぐに解決策を求めたくなる場面でも、将来を考えてじっと見守る姿勢。改めて家族で支えていくことの大切さを再確認する機会になりました。
子どもの可能性を信じて、応援すること。これは、スポーツだけでなく子育て全般にとって大切な事です。今一度、初心に戻って、子育ての心構えを考えてみてはいかがでしょうか?
クリエイティブディレクター。GUCCI、CHANELの日本法人勤務を経て独立。現在は、ファッション、ビューティー、子育てなどライフスタイルのコラム執筆、国内外ブランドPRコンサルタントを始め、メディアや企業スタイリスト、企業セミナー講師、PRモデルなどを行う。プライベートでは、ブラジル人の夫とインターナショナルスクールに通う娘の3人暮らし。主な取得資格として、学芸員資格、中学2種美術教育免許状などがある。https://www.karenstyle.jp