一見困りごとに見えることもその子の個性になる! 『ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック』著者、加藤紀子さんインタビュー
17万部ベストセラー『子育てベスト100』の著者、加藤紀子さんの最新刊!今回は学校生活で、コミュニケーションで、勉強で、家庭で、進路での「困った!」に答える一冊です。本の見どころはもちろん、「不登校新聞」編集長石井志昂氏、生きづらさを抱える子どもたちに学びの場を提供してきた東大異才発掘プロジェクト「ROCKET」中邑賢龍氏、児童精神科医黒川駿哉氏との対談エピソードも必見です。
加藤紀子
1973年京都市出まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現 KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は受験、英語教育、海外大学進学など教育分野を中心にさまざまなメディアで取材、執筆を続けている。2020年6月に発売された初の自著『子育てベスト100』(ダイヤモンド社)は 17万部のベストセラーとなり、韓国・台湾・中国・タイ・ベトナムでも翻訳されている。新刊『ちょっと気になる子育ての困りごと解決ブック』(大和書房)も発売中。一男一女の母。
目次
その困りごとは「子どものため?」「親のため?」
__本の中には「目の前の子どもを幸せにするために親が具体的にできること」という考えがちりばめられていますが、その意図とは?
親御さんも仕事を抱えていて毎日多忙を極めていると、どうしても子どもが自分の思い通りに動いてほしいと期待しがちです。でも、そこに無理があるのです。
愛する自分の子への一番の願いは「幸せな人生を生きてほしい」ということ。そのためには健康な体づくりと自立が親の務めのはずです。それなのにいつの間にか、子どものためと思ってやっていることが、親が自分の不安を解消したいだけのこととごちゃ混ぜになっていることが多いんです。
ですから、まずは目の前のわが子に向き合ってあげること。完全に理解できなくても寄り添って共感してあげてほしい。
この本では子育ての様々な困りごとに対して、第一に子どもの気持ちを、そしてそれに寄り添う形で親や周りの大人は何ができるのかという、双方にとって困り感を減らしてラクになれる方法を紹介したかったのです。そうやって子どもは大切な人から信じてもらえると自信を感じ、自己肯定感を高めていけるからです。
第三者の目を持ち、流されないママになろう!
__自分の子育ての指標を作るにはどうすればいいでしょうか?
完全に手取り足取りコントロールする“タイガーマザータイプ”もよくないけど、子どもをしたいようにさせる“放任”もネグレクトと紙一重みたいなところがあってそれはそれで危ないです。何事もバランス、塩梅が大事なのですが、今は生き方もさまざま。子育てにおいて多様な軸の中で自分軸を作るのは本当に難しいと思います。特に子育て中はその時いるコミュニティに流されやすいもの。一つのコミュニティだけにいるのはどうしても視野が狭まってしまうので、学校、仕事、子どもの習い事など3つくらいコミュニティを持つと視野が広がり、さまざまな考え方を見聞きできるのでおすすめです。
さらに、第三者の目を持つことでも、流されずに自分軸を保てやすくなります。今の時代の子育ては、よくも悪くも「親の責任」。特にこの長引くコロナ禍で、親御さんたちは相談できる場所がなく、親子の孤立が加速しているケースも多いです。もちろん共感し合えるパパ友・ママ友も心強い存在ですが、同年代だけだと、いい時と悪い時があります。少し子どもの年齢が上の人や習い事の先生など、子育ての先輩に話を聞いてもらえる場があると、「そのうち落ち着くわよ!大丈夫」などと励まされ、気持ちが楽になるはずです。
良い塩梅の自分軸とは、子どもを尊重しつつやるべきことはきちんと伝えること。その軸を保つために、子どもに何かしてほしいときの声掛けとしては、「Iメッセージ」を使うことです。「やりなさい」という一方的な命令口調は、心理的リアクタンスと言ってかえってやりたくなくなるものです。
「お母さんはこう思うけど、あなたはどう?」と親の意見を伝えた上で子どもに考えさせたり、「漢字と計算どっちから始める?」など子どもに選ばせたりするのも効果的です。
生きる力が弱まっている子どもたち
_「子どもの生きる力が弱まっている」とありましたが、具体的に教えていただけますでしょうか。
教育の専門家を数多く取材してきて皆さん口をそろえておっしゃっていることが主に二つあります。それは、「体力の低下」と「リアルな経験の欠如」です。
一つめの「体力の低下」については、少子高齢化で高齢者に優しい今の日本の社会は便利な反面、たとえば、バリアフリーに慣れたせいで段差があってもつまずいてしまう、歩けるようになってもいつまでもベビーカーに乗っている、車や自転車に乗せられて脚力や筋力が身につかないなど、子どもたちの本来体験すべき機会をうばっていることもあります。
さらにもうひとつの「リアルな経験の欠如」ですが、今の子どもたちは塾や習い事でも忙しく、常に決められた時間内で課題をこなすことを求められます。でも現実世界は、時間内で完結するような予定調和はほとんどありません。この先思うように事が運ばない、リアルな世界を生きていくうえでの実体験が足りず、「考えられない」「決められない」子が増えてしまうのではないかと危惧しています。
インターネットやゲームで遊ぶことが増えているのもリアルな体験不足につながりますが、毎日自由に遊ぶ時間がたっぷりないと、どうしても手軽な娯楽として隙間時間にインターネットやゲームに向かってしまっている面も否めません。ゲームやネット以外のリアルな世界とつないであげることがとても大事になってきていると思います。
__「不登校新聞」編集の長石井志昂氏、東大異才発掘プロジェクト「ROCKET」の中邑賢龍氏、児童精神科医の黒川駿哉氏などに取材をされて、印象に残っているエピソードはありますか?
それぞれのエピソードをお伝えしていきます。
「不登校の子たちは炭鉱のカナリアと一緒」
不登校新聞(https://futoko.publishers.fm)編集長の石井さんは、不登校の子どもたちは炭鉱のカナリアと一緒だというお話が印象的でした。炭鉱のカナリアが炭鉱でガス漏れが起きると鳴いて知らせるように、不登校の子たちは、今の日本の教育システムや社会に警鐘を鳴らしているのだと。さまざまな歪みを「何かおかしいよ」と敏感に感じて、不登校という選択で表現してくれているのだと。
私自身も、小中学生の不登校がこんなにも増えているのは、もっと学び方の選択肢が増えるべき時に来ているからではないかと感じます。
「ネットから解放されて汗を流して五感を使った体験を!」
東京大学で異才発掘プロジェクトROCKET(https://rocket.tokyo)を手掛けた中邑先生は、まさに「今の子どもたちのリアリティの欠如」を訴えておられます。東大生を教えていても、まじめで一生懸命だけれど、彼らの知識にはリアリティが欠けていると感じるそうです。「ネットから解放され、時には失敗や挫折を味わいながら、五感をフルに使ったダイナミックでリアルな体験をしてほしい」というお話が印象的でした。
「無気力な若者にしないためには、幼少期の夢中体験がカギ!」
児童精神科医の黒川先生は、「学習性無力感」のお話が印象的でした。抵抗することも回避することもできないストレスに長時間さらされ続けると、その状況から逃れようとしようさえしなくなる無気力な状態になるそうです。これは経産省のレポートでも指摘されているように、日本全体に蔓延しています。原因はさまざまだと思いますが、たとえば幼少期に本人の「やりたい」気持ちを拾い上げてもらえなかったことが一因かもしれません。ですから、幼少期こそ、問題行動を抑圧するのではなく、何かに夢中になれる気持ちを応援してあげることが重要なのだなと感じました。
子育てに熱心になるほど追い込まれる親子が増えている
__「子育てしにくい日本の今の社会」についてどのようにお考えでしょうか。
今の時代の子育ては、わが子が生まれた瞬間、あるいは妊娠中からさまざまな情報があふれていて、そこに書かれていることにわが子が当てはまらないと不安になるなど、親子がどんどん追い詰められがちです。子育てに一生懸命になるほど毎日細々したことで叱ってしまう、またはやってあげたいことは山ほどあるのに仕事が忙しくてかまってあげられない、そんな親御さんも自分を責めないでほしいです。それよりも社会が子ども一人ひとりの個性を認め、寛大であるべきだと私は思っています。
一見困りごとに見えることも、それは子どものすばらしい個性の現れであることが少なくありません。
だから「なぜ、うちの子だけできないの…」などと追い込まれる必要はないのです。わが子が健康で笑顔でいてくれるなら、たくさん自分を褒めてあげてください。そうやって見守ってあげていたら、個性をその子なりのペースで伸ばしていくはずです。
特に最近は、英語やプログラミング、探究など、学校の授業には親世代の頃には見慣れない科目が並んでおり、子どもには良かれと思ってあれやこれやと背負わせてしまいたくなりますが、子どもにはボーッとしたり、好きなことに熱中できたりする自由な時間を確保してあげてほしいです。同時に大切なのは、親御さん自身もできれば週に1時間でもフリータイムを作ること。親が自分を労らず、不満を募らせて疲労困憊だと、子どもが大人に憧れなくなってしまいます。
推しを作る、ご褒美スイーツを食べる、ネイルをする、ヨガをする、友達とおしゃべりする、夫婦でお酒を飲む……。親が幸せそうな姿を見せることは子どもにもいい影響を与えます。
__最後に、本の見どころをお願いします
冒頭にもお話ししたように、この本の見どころは、子育ての困りごとを子どもの気持ちに共感するところからスタートし、子どもも親や周りの大人もみんながラクになれる方法を紹介しているところです。
忙しい子育て中にも読みやすいよう、わが子の気になるところを目次でピックアップすればどこから読んでもO Kで、誰にでも実践しやすい具体的なティップスを厳選しています。
この本をきっかけに、親子の困り感を軽くして、親子がお互いをもっと愛おしく感じられたらいいなと思っています。私も2人の子がいますが、子育ては山あり谷ありで、特に谷の時は孤独を感じたものでした。そんな子育てのリアルに寄り添いたいとの思いを込めた本なので、1人でも多くの親御さんの子育てに伴走できたらいいなと願っています。