【年齢別】母子分離不安とは?特徴と子どもへの対応を解説
4月は子どもたちが新しい環境に踏み込む場面が多い時期。保育園や幼稚園、小学校のような新環境での“母子分離不安”について気になっている方も多いようです。そこで今回は、公認心理師の佐藤めぐみさんに「分離不安」について心理学的に掘り下げ、その特徴から、分離不安を感じやすいタイプ、年齢別に母子分離するコツについて教えていただきます。
目次
分離不安とは? マーラーの分離・個体化理論3つのステップ
母子分離不安とは、いわゆる子どもが母親と離れることに対して不安を感じること。
成長過程で起こる自然な反応ですが、この分離における不安を理解する上で欠かせないのが、小児科医であるマーラーによって提唱された分離・個体化理論です。
生まれてすぐの時期の“母子一体”の感覚の状態から、赤ちゃんがどのようにして自己と他者を区別し、母親と離れて過ごせるようになっていくのかを研究した理論になっています。早速そのステップを見ていきましょう。
第1フェーズ:自閉期(0~1ヵ月)
空腹が満たされるような場面でも、そこにいる人(母親)が母乳やミルクをくれているという認識はまだありません。この時期の赤ちゃんは生理的な反応に支配されています。だれも教えていないのに、すぐにおっぱいを飲んだり、哺乳瓶からミルクを飲んだりすることができますが、これは“原始反射”によるものです。他と関わる感覚がなく“おこもり状態”のため、こう名付けられています。
第2フェーズ:共生期(~5ヵ月)
次第に緊張や欲求不満の緩和(空腹が満たされたなど)と、それを満たしてくれる人とのつながりを認識し始めますが、自己と他者との区別はまだついていません。母子が一体となった共生感覚の中で過ごしています。
第3フェーズ:分離―個体化期(6ヵ月~3歳)
①分化期(6~10ヵ月)
体の成長とともにできることが増え、母親を目で見たり、手で触れたりすることで、母親と母親でないものを区別できるようになります。母親を特別な存在と認識することで、人見知りが始まります。
②練習期(~16ヵ月)
体がさらに発達し、ハイハイしたり歩いたりできるようになると、自ら母親から物理的な距離を取ることが可能になります。母親から少し離れては、また元に戻る、もしくは振り返って視覚で母親の姿を確認する、このように離れる練習をしはじめます。自ら外の世界に関わる中で、安全基地としての母親が形成されていきます。
③再接近期(~2歳半前後)
15~18ヵ月くらいは再接近期の入り口とされ、母親や父親と言語でのコミュニケーションが増えてきます。その中で段々と自己主張も増えてきて、俗にいうイヤイヤ期に入ります。自立して行動したい気持ちの一方で、母親にくっつきたいという思いが強まり、この相反する思いが葛藤をもたらします。分離不安が強まりやすい時期です。この時期に子どもに温かで安定した心理的サポートをしつつ、自立行動も程よく促すというバランスある接し方ができると、この相反する気持ちを解消しやすくなると言われています。
④情緒的対象恒常性の芽生え(~3歳前後)
情緒的対象恒常性とは、対象となる相手をイメージとして保持することで、実際にその人が目の前にいなくても守ってもらっている感覚を得ることを意味します。つまり、母親と離れているときにも、自分の中にある母親のイメージで、その不在の代用をさせられるということです。この恒常性が安定していくことで、段々と子どもは母親と離れている間も、情緒的に安定した状態で過ごすことができるようになってきます。
分離不安は自然な成長過程の1つ
このように、赤ちゃんは初めの3年間でめまぐるしく母親との関係性や距離感を変化させていくのが通常のルートなのですが、今この記事を読んでいる方の中には、「分離不安」という現象が“悪いこと“のように映っている方もいるかもしれません。実際に、「分離不安」や「母子分離不安」という言葉はネットでもよく検索されているようですが、その文字列が「これって大丈夫なのだろうか」と親を不安にさせてしまうのだと思います。中には、分離不安自体になにか病的なイメージを持たれる方もいるようです。
たしかに、精神疾患の診断基準や診断分類をまとめたDSMというマニュアルには、「分離不安症」という不安障害が載っており、過度になれば疾患として見なされることもありえますが、それは日常の生活に支障をきたすほどの状態のこと。生じる不安が、年齢的に見て相応でなく、一般の分離不安よりもはるかに強烈です。
分離不安症は疾患ですが、分離不安は自然な成長過程の1つです。子どもならだれもが通り過ぎる道ですので、心配し過ぎずに成長過程の1つとして捉え、温かみと自立の促しのバランスを保って行くのがおすすめです。後半では、おすすめのアプローチもご紹介していますのでぜひご参照ください。
分離不安を感じやすいタイプってある?
私の相談室でも、「うちはもう3歳過ぎているのに分離不安がひどい」「5歳になってもママから離れられない」というようなお悩みを伺うことがあります。その場合、「自分の育て方のせいなのでは」と自分を責めてしまっている方が多いのですが、子育ては年齢通りに進まないことはよくあるものです。きょうだいを育てている方なら感じていると思いますが、同じように育てても同じようになりませんよね。
親の育て方は子どもに大きな影響を与えるのは間違いありませんが、子ども自身の「らしさ」もその子の日々に大きな影響を与えます。
もともと気質的に消極的なタイプの子は、ママから離れられない傾向が強いというのは、これまでの相談事例で感じています。新しい場所や新しい人の前ではエネルギーを多く使うため、それよりは「なじみのあるママと一緒の方がいい」ということになりやすいのです。
また、このような傾向は赤ちゃん期から見られることが多いので、親の方もよりしっかり寄り添わねばという思いが働きやすく、周囲が立ち入り難いほどの母子密着型になっていることも多い印象です。親子のつながりが強いことはいいことなのですが、分離不安が強い子の場合、どうしてもその存在がより大きくなるため、なかなか解消するきっかけがないまま幼稚園時代を迎えることも少なくありません。
年齢別、上手に母子分離できるコツ!
「3歳まで母子だけ」という世界ができあがってしまうと、そこから抜け出すのがしんどくなってしまいます。だからと言って、その子に「行っておいで!」と背中を押したところでうまくいくはずがありません。親子間の絆は大事。でも少々の経験や冒険も大事。そこで私は、場所見知りや人見知りの傾向がある子ほど、早い段階から(マーラーの理論の練習期あたり)、親子一緒でいいので外に出ることをおすすめしています。
分離不安は子ども側から見たら、「怖い」という感情が近いと思います。ママから離れるのが怖いということですね。そんなとき、かくまってあげるやり方だと、逆に「怖い」から抜け出せません。
怖い思いは、ごく薄~く希釈した「ちょっとドキドキ」という経験を数多く積み重ねる中で慣れが生じ、だんだんと緩和されやすいものなので、その子が現段階でなんとかできる“母子分離”に少しだけ上乗せした経験がちょうどいいレベルだと思います。
・とりあえず毎日○○(公園、児童館など)に行く
・親から離れる形ではなく、子どもが作る距離に付き合う
・毎日同じ場所で慣れを起こし、そこでの興味が広がるのを待つ
その中で、
・ママとの距離が広がる
・離れている時間が長くなる
という変化を見守ります。
それがたとえ、0メートルから3メートル、0分から3分になっただけでも「慣れてきた」「そのくらいなら怖くない」ということなので、焦らずに少しずつ進めていくことをおすすめします。もし焦って高い要求を突き付けてしまうと、また怖くなりかねません。
また遊び方の工夫として、かくれんぼはおすすめです。“いなくなったママがまた現れる”という状態を繰り返し経験できるからです。分離不安の子にとって、「ママがいなくなっちゃったらどうしよう。会いたい~」というのが心の叫びなので、「少々離れていたところで、またすぐに会える」という練習台として用いていくのです。
まとめ
母子分離不安の対策は、お子さんの年齢によっても変わってくるかと思いますが、常に言えることは、「温かみはカギになる」ということです。その上で年齢に応じた自立行動を促せると、バランスのいい導きになるはずです。
・0歳:まだ自分で動けない時期は赤ちゃんへの応答を感度よく、訴えを察する心がけを
・1歳前後:ハイハイ、あんよなど移動ができるようになったら、その子が作る距離を大事に
・2歳前後:分離不安が強くなる時期なので突き放さず、でも囲い込み過ぎず
・それ以降:個人差はあるものなので焦らずに。その子のペースで少しずつ冒険を
このような年齢ごとの心理的距離を大事に育みながら、子どもの心の中のお守りを築いていきましょう。
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育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/