勉強のこと、生活習慣、小1の壁…… 国立小現役教師、ぬまっちこと沼田晶弘先生が「小学生になる親御さんに伝えたいこと」
東京学芸大学附属世田谷小学校の現役教師でありながら、これまでの教育概念に縛られない自由な発想で子どものやる気と自主性を伸ばす教育で注目を集める「ぬまっち」こと沼田晶弘先生。
今回は、ぬまっち先生が監修された新刊『小学校が100倍楽しくなる「小学生のおやくそく」』(KADOKAWA)にまつわる、小1の壁や家庭学習など、小学生になる親御さんに伝えたいことについてお話を伺いました。
沼田晶弘先生
東京学芸大学附属世田谷小学校の現役教師。同大学の教育学部を卒業後、アメリカでスポーツ経営学の修士課程を修了。同大学職員などを経て2006年から現職。子どもの自主性や自立性を引き出す斬新でユニークな授業がメディアで話題に。主な著書に『「変」なクラスが世界を変える』(中央公論新社),『One and Only ~自分史上最高になる』(東洋館出版社)『家でできる「自身が持てる子」の育て方』(あさ出版)、『もう「反抗期」で悩まない! 親も子どももラクになる“ぬまっち流”思考法』(集英社)などがある。Twitter(@88834)I、nstagram(@numatch16),note(https://note.com/numatch16)
目次
「失敗させたくない親」が増えている!
__今回の本の中にも、「学校は挑戦したり、成功したり失敗したりすることを学ぶところ」とありましたが、今の小学生は失敗する経験が減っているように思いますか?
失敗する経験が減っているのではなくて、失敗させたくない親が増えているんだと思います。理由のひとつに「自己肯定感」という言葉(否定する気はないです)が、悪い解釈の方向に広まってしまったこともあると思います。
たとえば、徒競走で3位だったわが子に「ママの中では金メダルよ!」などと言って失敗をすり替えてしまっているんです。失敗させないために親が先回りしたり簡単なことしかやらせないのは本来の自己肯定感をとは違いますよね。
それよりも、「今から走れば学校に間に合う!」「きっとできる!」と思えるような「自己効力感」を育てる方にシフトした方がいいと考えています。
ボクはわが子が歩き始めたとき、どうしても転んでしまうわけだから、それを100%親が守れない。
なので、その時位は安全な転び方をしてもらうように最初に“転び方”を教えました。親は「転ばせないように」じゃなくて、「上手な転び方」「転んだときに大けがしないこと」「立ち上がる勇気」を教えることが大切なのではないでしょうか。
受験に落ちたり、何かに失敗したって悪ではないですよね。残念な結果だけど、それを一緒に受け止めて立ち上がればいいんです。
低学年で「頑張ったらできた!」経験をした子は心も強い
学校では、子どもたちに「失敗しても全然OKで、チャレンジしたことがいいこと」だと伝えています。
ただし、必ずしも「チャレンジ=成功」ではなくて、「成功した人がチャレンジした人」であるとも。
今ボクは2年生を担任しているんですが、九九を習い始めて1ヵ月で全員が間違えずに2分以内で言えるようになりました。これは学芸大世田谷の子だからできたのではありません。全員がたくさん努力したからできたんです。
縄跳びでもマラソンでも、そのタイム(結果)はどうでもよくて、ボクは「頑張ったらできた」という経験を低学年のうちに積ませることがその後の人生においてとても大事だと考えています。
日本人は、Wカップでゴールを外した選手をバッシングしたりしますが、それは違います。誰よりもサッカーがうまくて日本代表になって試合メンバーに選ばれて、その場で走り込めたすごい努力とチャレンジをした人ですよね。うまくいかないときは悔しいけれど、なんでダメだったかを自分なりに分析してそれがわかったら成功体験になるんです。
僕のクラスの子どもたちは1年のときから繰り返しその経験をしているから、できなかった子に対しても励ましたりしません。「また明日頑張ろう!前の日より頑張って練習してこよう!」でおしまいです。
幼稚園や保育園と小学校の違い「みんな仲良く」しなくていい
__幼稚園や保育園と小学校とでは、子どもにとってどんな違いがあるのでしょうか?
まず一番の違いは、小学生になったら「自分のことは全部自分でやる」ということでしょう。1年生では「筆箱入っていなかったー」などという子がいますが、ボクは「自分が入れてなかったでしょう」と注意します。
親が忘れ物のチェックをしたくなる気持ちもわかりますが、残念な思いをしてこそ自分の責任を知るのです。空港でパスポートを忘れたら外国に行けませんよね。ぜひそれを今から体験させてあげてください。親御さんは先回り禁物です!!
友達との関わりにおいても、保育園や幼稚園では「みんな仲良く」という教えで育った子も多いと思います。でも、小学生になったら「仲よくする必要もないけど喧嘩する必要もない」つまり、「仲良くできない人とはいったん離れよう」でいいとボクは教えています。
大人だと合わない人とは上手に距離が取れますが、子どもはうまくできなくてむしろ近づこうとしたりします。子どもたちも最初は戸惑いますが、「小学生になったらバスや電車に乗るのにもお金がかかるという点でひとつ成長して大人に近づいているということ。その時点で保育園や幼稚園児と違うし、みんなそれぞれ違って当たり前なんだから、全員仲良しじゃなくて当然でしょう」と話すと納得します。
さらに、保育園や幼稚園では「ごめんね」「いいよ」で済んでいたかもしれないけれど、小学生になったら「ごめんね」の答えは、「いいよ(許す)」「わかった(認める)」「嫌だ(ゆるさない)」の3つあることも知ってほしいですね。
ボクのこれまでのクラスだって、全員が仲良しだったわけじゃないけれど、クラスで仲が悪い同士がうまく距離をとれれば、喧嘩もなくて「いいクラス」だと言われるんです。
授業に集中できないときは体を動かせばいい
__小学生から始まる授業において、何かアドバイスはありますか?
親御さんが心配される「集中力」についてですが、これはある子とない子とではかなり個人差もありますし、クラスの雰囲気も影響します。
個人差の中でも、集中力には「高さと長さ」があって、「高いけど短い子」「低いけど持続できる子」「低くて短い子」などいろいろあります。
とはいえ、授業中静かにしていられないと他の子に迷惑をかけてしまいますから、そんなときは「時計を見る」「体を動かす」「他の子を見る」「質問で手をあげる」など、体を動かして気持ちの切り換え方を教えるのもいいかもしれませんね。
授業に集中できなくても、ポケモンの映画は2時間見られるなら、集中力がないわけではありませんよ!
家でも真似できる!「ダンシング掃除」は究極の時間管理術
__ぬまっち先生と言えば、「ダンシング掃除」「サンマパーフェクト骨抜きフェス」などアクティブラーニング型授業(MC型授業)が有名ですが、それらの根底にはどんな意味があるのでしょうか?
先述した通り、子どもは何をやっても飽きますから、「掃除の時間もダンスを取り入れて姿勢や態勢を変えてみたらいいんじゃないか」というのがきっかけです。
あとは、「あれをやれ」「これをやれ」と言っても逆のことをしたがりますよね。「時計を見なさい」じゃ見ない。それならばと時間管理術のために、掃除はこの曲、片付けはこの曲、着替えはこの曲、5分休憩はこの曲と決めて、音楽を流したんです。今では、ボクはアレクサにそれらのテーマ曲をかけてと言うだけで、子どもたちはきっちり15秒前に終えて席につくようになりました。
星野源の「ドラえもん」が前のクラスの着換えのテーマ曲なんですが、保護者の方に「家でもその曲を流したら、条件反射でさっさと支度をしてくれるようになりました」と感謝されたことも。この方法は家でも使える時間管理術だと思いますよ。
ぬまっち先生から小学生になるママ&パパへのお願い
__最後に、ぬまっち先生から小学生になる保護者の方へメッセージをお願いします。
まず、「小1プロブレム」などと言われるように、入学すると保育園や幼稚園との違いを保護者の方も感じると思うんです。園では担任の先生と毎日顔を合わせて、「今日はこんなことがありました」と話を聞いたりできますが、一人で通う小学校ではそうもいきません。
それがなくなると不安になるし、わが子に聞いてもよくわからないから、よくしゃべる子の親に聞くか、連絡帳に「昨日からお腹の調子がよくないので……」などと細かく書いてくる。それがダメではないですが、小学生になったら「昨日から少し体調がよくないです」と自分で言えなくてはいけません。小1の壁なんか実はなくて、親の方がマインドセットを変える必要があります。「何かうまくいかないことがあったら、そこは子どもと一緒に考えよう」でいいんです。
あとは、学校の先生とぜひ仲良くしてください。子どもは事実と違うことも平気で言いますし、本当にまずいことは言いたがりません。「転んでケガをして帰ってきた」=「誰かに押されてケガさせられた!」と決めつけずに、まずは先生に事実関係を確認しましょう。
男の子にぶたれたと泣く女の子も(ぶつのは悪いです!)、実際は先にひどいことを言って傷つけているケースもあります。もちろんわが子は可愛いですから目が曇ることもあっていいですが、冷静に客観的に。担任の先生と信頼関係を築いていくと小学校生活がずいぶん楽になると思いますよ。
いかがでしたか。詳しくはぬまっち先生の著書『小学校が100倍楽しくなる「小学生のおやくそく」』(KADOKAWA)をご覧ください。他にも入学前後に役立つお約束が満載です!
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