「寝る子は賢く育つ」は本当だった!早寝早起きと学力の関係性【医師監修】
子どもの睡眠に困っているママの声をよく聞きます。寝る子は賢く育つって本当? 子どもが夜遅くまで寝ない原因は? 睡眠不足が引き起こす問題は? 子どもの睡眠に関する疑問を瀬川記念小児神経学クリニックの星野恭子理事長に伺ってみました。
プロフィール
星野恭子 理事長
小児科専門医、小児神経専門医。2001年、睡眠リズム啓発のため「子どもの早起きをすすめる会」を発足、2013年に文部科学大臣表彰を受賞。小児神経学クリニック院長を経て、2017年10月、医療法人社団 昌仁醫修会 瀬川記念小児神経学クリニック理事長就任。臨床研究を中心とした睡眠の啓発活動の拠点を目指し、診療の傍ら全国各地で講演を行う。Twitter: @KKyokohoshino
目次
早寝早起き朝ごはんの医学的理由
「うちの子寝ないんです」という声、とても多いですよね。当院では前院長が1970年代から「睡眠リズムの重要性」を訴えていたのですが、世の中はどんどん遅寝の流れになってしまい、2000年ごろのデータでは夜10時以降に寝る3歳児の割合が5割になっていました。2001年に私たちが「子どもの早起きをすすめる会」を発足させ、2006年から文部科学省が“早寝早起き朝ごはん”を働きかけたりして少し良くなってきましたが、まだ遅寝の傾向はあります。
医学的な理由を補足しますと、睡眠のリズムを整えることで「セロトニン神経」を増やすことができることがわかってきました。セロトニンとは、神経形成や発達に直接関連するもので、子どもの時期に最も発達します。このセロトニンが多いと元気ハツラツ・気分すっきりしますが、少ないと、落ち込んだりやる気がなくなったり、午前中に集中できなくなったり、睡眠障害や鬱状態になってしまうこともあるのです。
セロトニンは、リズムある生活(規則正しい早寝早起き)、リズムある運動(ハイハイ含む)、20分以上の座禅や瞑想で増やすことができます。
睡眠と脳の発達・学力の関係
睡眠のリズムは、子どもの成長に大きく関わるものです。多くの保護者の方は、わが子が元気でいて欲しい、良い子に育てたいと思いますよね。事実、早寝早起きの子どもの方が成績も良く、東大生に早寝早起きの人が多いとも言われています。これは、早寝早起きしたら全員が天才になると言っているのではないですよ。勉強に限らず、音楽でも、スポーツでも、その子がもともと持っている力を100%に引き出すことができるのが早寝早起きのリズムですよ、ということです。早寝早起きのリズムが整っていると、子ども本来の才能が豊かに発揮され、楽しく、生き生きとした毎日が送れるのです。
ある研究では、赤ちゃんが朝早く起きて昼間しっかり遊び夜早く寝る、という脳の発達に欠かせないリズムが出来ていない子は「夜行性ベビー」と呼ばれていて、
・昼寝からなかなか起きられない保育園児
・夜の睡眠時間が短い(夜行性)
・指さしができない
・なん語(赤ちゃん語)が少ない
などの発達に問題があると言われています。
さらに、睡眠が不規則な夜行性の5歳児だと、5歳児で書けるはずの三角形が上手に書けないという報告もあります。よって、睡眠は脳の発達や学力に影響を与えると言うことが分かります。
幼児と学童、理想の睡眠時間と現状
“早起き”とは何時ぐらいに起きることを言うと思いますか? 太陽と共に起きるのが理想的ではありますが、それはちょっと現実的ではないので(笑)、実際は朝6~7時ぐらいに起こせるといいですね。
【幼児】
10~13時間の睡眠が必要なので、夜8時までに寝かせて朝6時に起こす
【学童】
9~11時間の睡眠が必要なので、夜9時までに寝かせて朝6時に起こす
のが良い睡眠のリズムと言えます。
とはいえ、実際は3歳児の場合、7%が推奨される睡眠時間(10~13時間)以下であり、22時以降に寝かせているという答えが約3割ありました。
「乳児の睡眠リズム」より
早起きさせたら、昼間はなるべく身体を動かす運動をさせましょう。疲れないと子どもは寝ませんからね。また、スマホやゲーム、テレビなど、メディアコントロールも必要です。小さいときからずっとゲームをやっている生活だと、夜も寝られませんし、ゲーム中毒になって思春期にやめられず困っている保護者のお話もよく聞きます。保護者の方がゲームの時間をコントロールして、早く寝かせるようにしましょう。
「赤ちゃんが寝ない」の対処法
遅寝になってしまう原因は、保護者が睡眠に関しての知識がないことと言えます。実は、生後3~4ヶ月ごろの赤ちゃんから昼と夜の区別がつき始めるので、生まれてすぐから早寝早起きをさせなければならないのですが、御存じない保護者の方が多いです。赤ちゃんのときから、朝起こさず、夜も寝かせないという状態だと、睡眠のリズムが崩れたまま成長することになります。以下の対処法を参考にしながら、生活のリズムを作ってみてください。
【0~2歳の赤ちゃんが寝ない場合の対処法】
・早寝早起き朝ごはんを心がける
・昼間はしっかり起きて活動する
・運動量を増やす(ベビーカーは使いすぎ注意)
・早寝早起きのリズムを作るために、睡眠表を付けてみるといいと思います。
「乳児の睡眠リズム」より
子どもの睡眠不足が引き起こす4つの問題
子どもの睡眠不足が引き起こす問題点として主に以下の4つがあります。
① 脳や体の発育への悪影響
② 幼児期の短時間睡眠はその後の肥満リスク因子に
③ 認知能力の遅れ
④ 抑うつやイライラなど気分の悪さ
さて、このようなデータがあります。3歳~6歳の幼児の寝ている時間と情緒を調べたところ、夜型の子ども達には、心の発達の問題があることがわかりました。赤のグラフに示す夜型の子どもは、不安抑うつが強い、注意力の障害、非行的、攻撃性が高い、ということが分かったのです。
医学的な根拠としては、朝、太陽の光が目の中にある視交叉上核(しこうさじょうかく)へ入ると、いわゆる体内時計のようなものが駆動されます。このしくみの発見は、2017年ノーベル医学賞を取りました。体内時計が整うと、体温や成長ホルモンも正常に働きます。そして昼間にしっかり動いておくと、夜にメラトニンというホルモンが分泌され、穏やかで自然な眠りを誘います。しかしこのリズムが上手くいかないと、体温調節ができず、免疫が下がって風邪をひきやすくなったり、排便のタイミングも悪くなったりします。また脳の働きにも影響が出て、イライラして攻撃性が強くなったり、情緒が不安定になったりします。つまり、早寝早起きのリズムがきちんとしていないと、心身ともに支障が出てくるのです。
早寝早起きは両親の影響が大きい
日本は、世界的に見ても、大人も子どもも睡眠時間がかなり短いです。保護者が早寝早起きじゃないと、子どもも早寝早起きにはならないというデータもあります。保護者の影響を受けるのが子どもですから、それは当たり前ですよね。保護者自身が、遅寝遅起きで生活ができているから、遅寝の何が悪いの?と思うかもしれません。でも遅寝で子どもを育てると、身体の問題もあり、さらに落ち着きがない、我慢が出来ない、攻撃的、情緒不安等の可能性があるのです。それを忘れないでいただきたいです。
寝る子にするには、体温とホルモンの「命のリズム」を作ること
成長の鍵となる「成長ホルモン」は寝ている間に分泌されます。それが、寝る子は育つと言われる理由です。人間の体内時計は25時間ありますが、朝日を浴びることで24時間に調節されるので、夜更かしをして朝日を浴びない子は、体温リズムが崩れてしまっていることが多いです。
睡眠は、ただ長い時間眠ればいいということではありません。量だけでなく、早く寝る「リズム」、そして「質」も重要です。質の良い睡眠とは、朝までぐっすり眠れていれば大丈夫です。睡眠は、深い眠りのノンレム睡眠と、浅い眠りのレム睡眠をきちんと繰り返しており、夜中に何度も起きてしまうのはあまり質の良い睡眠とは言えません。ただ個人差がありますね。たとえ寝相が悪くてもぐっすり眠るお子さんもいますし、動かない子もいますね。早く寝れば、明け方にレム睡眠が十分にとれて起きる準備ができ、お腹も動き始めます。そうすると、朝ごはんも美味しく食べられ、朝からうんちも出るようになりますよ。
子どもの睡眠不足は、薬を飲んで治すものではありません。保護者の方が子どもを早く寝かせて、早起きさせればいいだけのことです。早く寝るコツとして大事なのは、早く寝かせようと思うことです。今は、保護者の方も子ども達もやることが多いので、まずは大人も子どもも寝る時間と一日のスケジュールを決める必要がありますね。そして早く寝る準備をして、電気を消して布団に入れましょう。以上のことを努力して早く寝れば、朝も楽に早く起きることができます。
人間が正常に発達するために睡眠は必須のものです。“寝る子は育つ”、その言葉の通りです。意識を変えればすぐに正しい睡眠のリズムになります。ぜひ早寝早起きを習慣にしてください。
筆者自身、子どもができる前は遅寝遅起きでしたが、いまではすっかり早寝早起きの生活です。子どもに合わせた睡眠リズムになったので、朝もすっきり目が覚め、朝ごはんもしっかり食べられるようになっています。星野理事長のお話を聞き、子どもの将来のためにもこの睡眠リズムをきちんと守っていこうと思いました。星野理事長が発起人となっている「子どもの早起きをすすめる会」のホームページ内の「学問の扉」(http://old.hayaoki.jp/gakumon/gakumon.cfm)に、早寝早起きに関する情報がたくさん載っていますので、そちらも参考にしてみてください。