子育て世界共通の悩み!? 「スマホ育児」メリットとデメリット
今や、私たちの生活の必需品となりつつあるスマートフォン(以下、スマホ)。子育てにも、「スマホ育児」が広まりつつあります。しかし、その悪影響を心配する声も聞こえてきます。「寝かしつけにYouTubeを見せたら習慣化してしまった」「ゲームを止められない」のような子どものスマホ依存。「SNSをチェックしないと取り残された気分になる」「心配なことはすぐにスマホでチェックしてしまう」とママのスマホ依存。便利だけど不安もある「スマホ育児」について、何がOKで、何を避けるべきかをまとめてみました。
目次
2歳で半数以上がスマホ経験あり!?
2017年2月6日に「子どもたちのインターネット利用について考える研究会(子どもネット研)」が発表した「スマホ育児」に関する調査で、「効果てきめん、でも心配」という親の複雑な気持ちが明らかになりました(対象:0~6歳の子どもを持つ保護者1,149名)。
その調査によると、子どもがスマホなどのネット機器を利用している割合は、0歳が22%、1歳が42%、2歳で半数を超え56%。以降、3歳が60%、4、5歳がともに63%、6歳が74%と年齢を追うごとに利用率が伸びていくという結果となりました。小学校に上がる前に、4人に3人の子が、スマホなどに触れる生活をしていることになります。
「静かにして」「忙しい」……どんな場面でスマホを子どもに渡す?
主にどのような場面で用いられているかについて、筑波大学が幼稚園、保育所、認定こども園を利用している家庭を対象に行った研究で次のようなことがわかっています。回答の多かったのは次の5つの場面です(回答者数432名。当てはまる項目に対し複数回答が可能)。
・家族でスマホの画像や動画、音楽を共有するとき…40%
・移動時間や待ち時間などの手持無沙汰なとき…34%
・子どもが使いたがるとき…30%
・公共の場などで静かにしてほしいとき…29%
・保護者が家事などで手が離せないとき…26%
1つめは親のどちらかと画面を一緒に見ていますが、それ以外の4つは、子どもだけで画面を見ている様子が伺えます。
さらにこの中の
・移動時間や待ち時間などの手持無沙汰なとき
・公共の場などで静かにしてほしいとき
はどちらも外出先での対応策として用いられています。このような場面で用いられる理由としては、2通りの解釈ができるように思えます。
1つはそういう場面ではスマホを見ることがいつのまにか習慣になっていて、子どもが求めるから。電車に乗ったら、「ママ、スマホちょうだい」という流れです。そして2つめは渋々ながらも、とにかく公共の場では静かにさせなくてはという思いから。両方とも当てはまるという方も多いかもしれません。
またこの研究で日本と台湾、韓国で電車内での1~8歳児のスマホ利用について調査したところ、スマホを1人で見ていた子どもが最も多かったのが日本だったそうです。
私は海外暮らしが長いのでなおさら感じるのかもしれませんが、日本は子連れに対しての目線が厳しいので、「外ではとにかく静かにしないと」という心理が働きやすいと思われます。中には公共の場で子どもが騒いでもそのままにしている家庭もありますが、周囲の目を気にしてしまう方ほど、公共の場ではスマホに頼りたくなるのかもしれません。
ママと子どもの「win-win」状態がスマホ育児を加速させる
スマホが育児に用いられるようになった理由は、期待通りの収穫があるからだと思います。
冒頭でご紹介した調査結果でも、スマホを使う理由として、「子どもの機嫌が良くなる(54%)」「親の手離れの時間ができる(40%)」が挙げられています。ママもハッピー、子どももハッピーと「win-win」の状態がもたらされるため、繰り返されやすいのです。
しかし、心の中では、「これでいいのだろうか?」と不安の声も渦巻いているようで、この調査でも、約9割の親が、何らかの懸念を「スマホ育児」に抱えているということが見出されています。「便利だけど、心配…」これが、スマホ育児の現状であり、ママたちは、どこで線を引くべきかを迷っているようです。
WHOが推奨するガイドラインは3~4歳で1時間以下!
ほとんどの方が気になっているのは、「スマホに頼っていて将来に影響はないのだろうか」と言うことでしょう。スマホを渡せば自分も楽だし子どももハッピー、だけど後々問題になったり、成長への悪影響が出てきたらどうしようと気になるのです。
WHO(世界保健機関)が2019年に出した新たなガイドラインによれば、小さい子どもたちの1日あたりのスクリーンタイムは次のような基準を推奨しています。
0~2歳未満:スクリーンタイムは推奨されない
2歳代:1時間以下、より少ない方が望ましい
3~4歳代:1時間以上にならないように
思っている以上に少ないなと感じた方も多いのではないでしょうか。
このような時間の設定をしている理由として、すぐに思いつくのは依存性についてでしょう。小さい頃からスマホに依存が起きては大変ということですね。もちろんそれもありますが、WHOは運動量の低下も警告しています。画面を見るときというのは、基本的に座っているものなので、それが長くなればなるほど運動不足になり、それが成長に影響を及ぼしたり、肥満につながったりすることをも懸念しているのです。
最新の研究では幼児期のスマホ利用と言語発達の相関関係も!
また、先の筑波大学の研究では、スマホの使用頻度が言語発達に影響するのかについても調査をしています。幼稚園と保育所に通う年中児(4歳)と年長児(5歳)を対象に言語発達検査とスマホ使用の相関を調べたところ、年中さんの子において、「素話による言語理解の課題(視覚的な手がかりがなく、言葉の情報だけで内容を理解するタスク)」とスマホの使用頻度に負の相関が見られたそうです。つまり、スマホを頻繁に見ている子ほど、言葉を聞いただけでその内容を理解することが苦手な傾向があったということです。年長さんになるとその傾向は見られなかったことから、「年齢の小さい子どもがスマホという視覚的な情報に頼る生活をし過ぎていると、目の前にない事象を言葉でやり取りする能力が育たない危険性があると言える」と言っています。
一方、その他の項目では有意な相関は見られなかったそうですが、ならばスマホはいくら見てもいいのかというとそういうことではないと思います。そもそもこの子たちは、日中を園で過ごしており、その間は当然ながら画面から離れていますし、お友だちとの遊び、先生方とのコミュニケーションの中で言語に触れています。たとえば2歳でまだ園に行っておらず、1日の相当な時間をスマホの前で過ごしているというような状況とは全く違うわけです。よって、1日の中の起きている時間をどういうバランスで過ごしているかというのはカギになってくるのでしょう。
知っておきたいスマホ育児3つのデメリット
私はこれまでに、子どもの心理発達をテーマにした執筆をしてきており、その中で、現代ならではのテーマ「ネット機器×子ども」についても数多く取り上げてきました。それらの内容を総合して言えるのは、「後々、親自身の首を絞めることになる使い方はしない方がいい」ということです。
ぜひ気に留めておいていただきたいポイントを3つ挙げたいと思います。
その1 寝る前のスマホ使用
アメリカ・コロラド大学の子どもの睡眠問題に関する研究で、子どもの睡眠リズムと「メラトニン」というホルモン量の関係が指摘されています。このメラトニンは、夕方暗くなると上昇し、朝起きると下がる、いわば「睡眠用ホルモン」です。
子どもが上手に寝つくためには、メラトニンが上昇している必要があるのですが、夜寝る前にスマホなどのスクリーンにさらされると、せっかく夕方以降上昇していたメラトニンの分泌量が減ってしまい、結果として、寝つけないなどのトラブルに発展します。
よく寝る前にはテレビを見ないほうがいいと言われますが、それはテレビの内容で興奮するからだけでなく、光によるホルモンへの作用もあるわけです。
その2 暴力シーンを含む動画視聴
2012年のイギリス心理学会の発表によれば、暴力シーンを含む動画は、子どもを攻撃的にする傾向があるのだそうです。とくに、
・低年齢の子どもたちほど、影響を受けやすい
・見た直後の思考や感情に変化が起こりやすい
・攻撃的な行動や怯えた行動を示しがちになる
というデータが出ています。まねが得意な子どもたちは、どんなことも吸収しやすいと言えます。
その3 ゲームへの依存症
小学生になって、勉強が本格化してくると出てくる悩みが「ゲームばかりして、宿題に取りかからない」というもの。2011年に内閣府が行った「青少年のゲーム機等の利用環境実態調査」によると、小学生の94%がゲーム機を持っているのだそうです。
よく遊びよく学ぶというバランスが取れているのであれば問題にはなりませんが、ゲームをやり過ぎて勉強がおろそかになる、生活リズムが乱れる、朝起きれず学校に行けない、となると明らかに支障が出てきてしまっています。お酒やギャンブルのように、ゲームには強い依存性があることが分かっており、近年WHOが新たな依存性の疾患としてゲーム障害を加えていますので、そのような特性があるものという理解は必要だと思います。
メリットもある「スマホ育児」、2ステップで上手に活用しよう!
上に挙げた3点は、クセになってしまうと、結果的に親が困ってしまうものばかり。「寝てくれない」「すぐに叩く」「宿題をやってくれない」などの悩みを抱えないためにも、スマホ育児のメリットとデメリットを見極めて、賢く利用していきましょう。
ステップ1:デメリットを減らす働きかけをする
・スマホの使用時間を決める
・動画の連続再生モードをオフにする
・視聴コンテンツは親が管理する
とくに時間管理は非常に大事です。30分と決めたら30分(タイマーを使うのも可)、1話と決めたら1話。それを守れなかったら、「翌日の1回はナシ」のようにルールを決めましょう。
子どもにルールを課す分、親も自己管理をする必要があります。寝る時間になったら、スマホはコンセントに接続したり、電源をオフにしたりして、物理的に使えない状態にし、子どもが納得しやすい「スマホなし育児」の環境を整えましょう。子どもにはダメと言って、自分だけ使っていては、いったん習慣化してしまったお子さんのクセを抜くことは困難です。
光を落とした中で、「お目々を閉じた子には、ママがお話を聞かせてあげる」のように、アナログでできる方法へとスイッチしましょう。切り替え時は、お子さんの抵抗にあって親はひと苦労ですが、後々、必ず楽になってきます。
ステップ2:メリットを享受する働きかけをする
・自制心を養う場と考える
・共有体験でアタッチメントを強化する
「ゲームを1回で切り上げる」「ママに言われたらちゃんとスイッチを切る」このような行動は、強い自制心がないとできません。スマホもメリハリをつけて上手く使えば、立派な「自制心育成の場」になってくれます。
また、スマホでの共有体験は、アタッチメントを促すことが期待できます。アタッチメントとは、子どもが親に示す愛着感情や絶対的な信頼感のことを指します。
「それなら使わない手はない!」という気になりますが、実際には、一緒に座って仲良くスマホ動画、というわけにはいかないママが多いでしょう。なぜなら、多くのママが、家事の時間を確保するために、スマホを活用しているケースが多いからです。
そういう場合は、家事をしながら関わるようにすればいいと思います。たとえば、動画のお話の筋に合わせて、「なにが出てくるんだろうね~」「ママ、ドキドキしてきた」「どんな顔のおさるさんなの、こっち来て見せて」など、キッチンから声をかけることもできます。
今の時代、周りに頼れる人もいなくて1人でほぼ100%の家事、育児を担っているママは多いもの。そんなとき、賢くスマホを使えば、気持ち的にも時間的にも楽になります。一方で、頼り過ぎてしまうと、数年後に悩みとして返ってきてしまうこともよくあります。大切なのはメリハリです。今もそこそこ楽になり、数年後もそこそこうまくいくというのが目指す方向性として無理がないバランスだと思いますので、今と数年後の両方を視野に入れながら現状の見直していけると望ましいでしょう。
*参考資料:スマホ使用が幼児の言語発達に及ぼす影響
https://www.taf.or.jp/files/items/1650/File/水野智美.pdf
キッズ携帯やスマホ利用、幼児期からしておくべきリテラシーの備え方!
育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/