給食のスペシャリスト直伝!子どもの好き嫌いが克服できる、“出汁”の使い方
都内小学校の給食室で料理長をつとめるYoshiさん。12年に及ぶ経験で培ったメソッドの中から、子どもの好き嫌いを克服するテクを伝授していただきました。カギとなるのは“出汁の旨味”だそう…。
昼間は都内小学校の給食室で料理長として働き、週末には出張作りおきサービスの「シェアダイン」で“夜の給食”を手がけている料理家。シェアダインでは“イケメン給食料理長”としてユーザーから大人気。調理講師、食育セミナー活動、書籍、テレビドラマの撮影協力などにも参加。プライベートでは4歳になる女の子のパパ。
目次
好き嫌いの主な原因は苦みと酸味、食べた記憶
まずは好き嫌いが生まれる理由からお話します。ひとつめは、基本5味が関係しています。基本5味とは、甘味、塩味、苦味、酸味、旨味の5つのことで、これはお腹の中にいるころから養われているものなのです。
甘味、塩味、旨味は、生きていくうえで必要な食べ物だというシグナルを脳に送るもので、一般的にこの3つの味が嫌いな子どもはいないと思います。
では苦味と酸味が脳に送るシグナルって、何だと思いますか? 実は、苦味は毒のシグナル、酸味は腐敗のシグナルを脳に送るものです。主にこのふたつの味を舌で感知したときに、苦手だと感じてしまい、好き嫌いが生まれてしまうのです。
ふたつめの理由は、経験です。どんな食事をするかによって、後天的に好き嫌いが起こるのです。新しい食べ物に対して良い経験or 嫌な経験をする事により脳は学習していきます(その時の色、食感、香り、雰囲気など刻まれる)。
例えば、お父さんお母さんと一緒に笑いながら美味しいって食べたものは、良い思い出として残りますが、怒られながら食べたものは美味しくない記憶として脳に刻まれてしまいます。
そういった記憶や雰囲気、味、香りなどがどんどん脳に蓄積されていきながら、好き嫌いも生まれていきます。
このふたつが基本的に好き嫌いを生む理由となるわけなので、そのことを頭に入れておくと、普段の料理にも活かせると思います。
出汁(旨味)を使えば苦味と酸味も克服できる!
給食は、子どもの好き嫌いを減らせるように、苦味と酸味を抑える調理法をとっています。苦味と酸味を消せるもの、それが出汁です。
出汁はつまり旨味です。作る際によく使われるのが昆布と鰹節。昆布に含まれるグルタミン酸と、鰹節に含まれるイノシン酸、このふたつの旨味成分だけでも十分美味しいのですが、そこにさらに椎茸などのキノコ類に含まれるグアニル酸を重ねると、より旨味がアップします。
例えば、以下のような出汁があったとします。
1. 鰹節+昆布の出汁150mlに対して0.5%の塩分を加えたもの
2. 鰹節+昆布+椎茸の出汁150mlに対して0.4%の塩分を加えたもの
このふたつの出汁を飲み比べたときに、塩味を強く感じるのはどちらだと思いますか? 答えは②です。数字の上では②の出汁のほうが減塩ですが、実際に飲んでみると②のほうが塩味を強く感じられるのです。
理由は②のほうが、旨味が強いから。旨味が強くなると、それに合わせて甘味も塩味も強く感じられるようになります。そして、苦味や酸味も抑えてしまえるのです。これが給食の特殊調理法のひとつです。
給食は基本的に、出汁に出汁を重ね、相乗効果でさらに濃く美味しい出汁を作っています。安価で使いやすい日高昆布や花がつおを基本に、最近では、羅臼や利尻といった他の昆布や、厚削りの鰹節や鯖節なども使うようになってきました。
子どもたちの舌はすごく敏感なので、苦味と酸味をちょっと感じるだけで、“なんか美味しくない…”となってしまうのですが、それを和らげるのに旨味が一役買ってくれます。
その出汁を使った特製の出汁醤油は本当に美味しいですよ。特製と言っても、出汁に醤油を入れるだけなんですけど(笑)。小松菜ともやしと白菜をボイルして水でしめ、そこに出汁醤油をあえるだけです。出汁の旨味で、野菜が苦手な子どもでも食べられちゃうのです。
僕が給食室で働き始めて1年目でこの出汁醤油に出会って衝撃を受け、それ以来ずっと出汁醤油のおひたしはベストセラーです。
抗酸化作用が期待できる!ファイトケミカルスープ
もうひとつ、給食のベースになっている鶏がらスープも、野菜の出汁をたっぷりとったものです。いま抗酸化作用が期待できるといってファイトケミカルスープが話題になっていますが、実は給食では20~30年前からずっと取り入れられている調理法なんです。
給食は一日で何百人分も大量調理するので、野菜のくずもたくさん出てしまいます。キャベツの外葉、にんじんのヘタ、玉ねぎの皮、セロリの葉っぱ、そういった部分を調合して濃い野菜出汁を取っています。
そこに少し鶏がらを加えるだけで、旨味の濃い美味しいスープが完成します。それを毎朝作って、中華丼にアレンジしたり、クリームシチューを作ったりします。
オイルでピーマンの苦みが和らげる!
他にも、苦味と酸味を抑えるためにオイルを使った調理法もあります。チンジャオロースを作るときなど、ただ炒めて出すだけだとピーマンの臭さが残ってしまいますが、先にオイルで包み込んでおくといいんです。
ボコボコとお湯を沸かした鍋に油をたらし、そこにピーマンを入れます。そうするとピーマンがオイルに包まれて、臭みのないシャキシャキしたピーマンになります。
また、トマトが苦手なお子さんには、酸味を抑える方法として、甘味を添加します。おすすめは胡麻和え。小松菜やホウレン草が有名ですが、意外とトマトとも合うんです。
甘味を加えることで、トマトが嫌いな子もフルーツみたいに食べられてしまうという秘密のメニューです(笑)。
昔に比べて、今の子どもたちは洗練された給食を食べていると思いますね。
給食で人気の献立は、渋めなものでいくと鯖の塩焼きや鯖の味噌煮。昔は鯖ってあまり人気がなかったんですけど、いまの給食で使う魚は、その日の朝に豊洲に届いたものを仕入れているので、新鮮で脂もノッてて美味しいんですよね。
もちろん、カレー大好きは当たり前だし、フルーツポンチを出したら全部食べますよ。でも魚とか和食も人気があるというのは、僕も作っていて嬉しいですね。
取材日に筆者もYoshiさんの作った出汁①②を試飲させていただいたのですが、塩分が少ないはずなのに②の方が塩味を強く感じられ、出汁の相乗効果を実感しました。わが家の息子たちも苦手な食材があるので、さっそく出汁を活用してみようと思います。