自閉症スペクトラムの理解とサポートをオープンに!

自閉症スペクトラムの理解とサポートをオープンに!

写真提供:We Rock The Spectrum

子どもたちの感性に合わせたジムと環境づくり

オーストラリアでも、ここ10年程「自閉症スペクトラム」が身近な言葉としてよく聞かれるようになりました。オーストラリアの統計局によると、2012〜2015年の間に自閉症スペクトラムと診断される人の数が42.1%も増えているとのことです。

ただし、これは症状を持つ人が増えたのではなく診断方法の進歩により、以前は見逃がされていた軽度の人も診断されるようになったことが影響しています。

症状が最も顕著に見え始めるのが幼年期から小学校低学年にかけての時期と言われます。そして、この時期にいかにサポートをしてあげるかが重要とも考えられています。

自閉症スペクトラムの子どもを持つ親が開設したジム

2018年8月、オーストラリアでは初の自閉症スペクトラムの子どもに向けたジムが開設されました。

このジムはアメリカで始まった「ウィ・ロック・ザ・スペクトラム(We Rock The Spectrum)」という自閉症スペクトラムを持つ子どものジムをフランチャイズしたもので、1〜12歳までの子どもたちが利用できます。

今回、オーストラリアに開設されたジムのオーナー、サリー・ジョンソンさんにも、実は自閉症スペクトラムの子どもを持つ親の一人です。

ジョンソンさんの子どもは2歳のときに診断されましたが、それ以来、子どもに適した環境で遊ばせたいと考えいろいろな施設を探しました。そのときに見つけたのがアメリカにあったこのジムだったのです。

早速コンタクトしたところ、フランチャイズとして話が進み、オーストラリアでも開設することになりました。

オープンスペースの明るいジムで遊びながら運動機能を高める


写真提供:We Rock The Spectrum

このジムは週に1回だけということもあり、特別にアレンジされた遊具で遊ぶ機会を得るとともに、親のサポートにも重点が置かれています。スタッフは、スピーチセラピストやプレイセラピストなど、専門の資格を持つスタッフもいて子どもや親たちの助けとなっています。

自閉症スペクトラムを持つ子どもの多くには、協調運動(筋肉などにおいて複数の要素が共同しながら、効率的に課題を行う能力)に問題を抱える場合があり、広い屋内にはそんな子どもたちに適した遊具がいろいろ置かれています。ジャンプしたり、天井から吊るしたロープにつかまりスィングしたり、ウォールクライミングなどもあります。

例えば、「トンネル」もカラフルな色のソフト生地で作られていますが、通り抜ける際にさまざまな感覚に働きかけるようにデザインされています。トンネルが持つ暗い怖いイメージはなく、ほっとできる場所ともなっています。

ほかにも、騒音を抑えたカーミングルームやアート&クラフトルーム、トイ&ドレスアップエリアなどもあります。今後、さらにミュージッククラスやヨガ、ストーリータイムなどをプログラムに織り込むことを計画しているそうです。

利用者目線に立った高い評価

ウィ・ロック・ザ・スペクトラムは、年中無休で毎日10:00~18:00までオープン。2時間をワンセッションとし、AU$14で利用できます。

開設からまだ4カ月足らずですが、Facebookを見るとフォロアーは約2,800人。親たちのコメントも「遊具が素晴らしく、子どもは家に帰ろうとしなかった」、「スタッフがフレンドリーで良く助けてくれる」などの高評価がされています。

政府援助で創設されたプレイグループ「プレイコネクト」

上述でご紹介したジムは開設されたばかりの民間施設ですが、オーストラリアには2008年に連邦政府の援助で創設された、自閉症スペクトラムで就学前の子どもを対象にしたプレイグループ「プレイコネクト(Play Connect)」もあります。

こちらのプレイコネクトは参加費無料。今では各州に施設が作られており毎週1回2時間のセッションを設けて、子どもたちが一緒に遊べる場を提供しています。

子どもたちの特性に配慮し、計算して作られた環境

自閉症スペクトラムの特性として一般的に多いのが、人の気持ちを推し量ることが難しく対人関係が苦手だったり、興味範囲の極限性(特有なもの・ことに強いこだわりを持つ)やパターン的な行動、感覚過敏(鈍麻)などがあります。

これらは子どもそれぞれによって、特性の出方や強さが異なり、他の発達障害などと並存していることもあります。

これらのことが原因で、人と目を合わせられない子どもがいたり、通常の人が反応する状況とは比較にならないレベルで音や光に敏感な子もいます。そのため、プレイコネクトではこれらを考慮し、細かい点に注意を払っています

例えば感覚過敏の子のためにゆっくりとした静かなBGMを流したり、ブラインドを降ろして窓からの光を調節したり、物に触れるときに手袋をはめさせたりなど、静かでリラックスでき子どもたちが心地良く遊べるような環境つくりに力を入れています。

ロールプレイなどを通し社会的な適応を向上させる

対人関係などについては、少しでもスムーズで円滑にできるよう、社会性や協調性を学習し、発達を促していくために、SST(ソーシャルスキルトレーニング)の一つとして、ロールプレイを頻繁に行っています。

通常のロールプレイでは教える側がリードする場合が多いですが、プレイコネクトでは子どもたちが自発的にできるような環境を作り、プレイが始まりタイミングを見計らってから教育者が後に入ります。

さらに、子どもと教育者のロールプレイが順調に進んだことを確認してから、新しいものを導入するというやり方をしています。

親の孤立を防ぐための念入りなサポート

このように子どもの教育環境やプログラムを充実させていますが、それと同時にその親をサポートする体制も組んでいます。自閉症スペクトラムの子どもたちは、定型発達の子どもの輪に入りづらいこともありますが、これは親も同様に言えることも多いのです。

ここに子どもを連れてくる多くの親たちは自分が直面する問題や悩み事など、定型発達の親から理解されない、しにくいという問題を抱えています。プレイコネクトでは、そうした親たちに相談し経験をわかち合える場を提供し、親自身が社会で孤立しないようサポートしているのです。

まとめ

今回、自閉症スペクトラムを持つ子どものジムとプレイグループについて、オーストラリアの事例をご紹介しました。

「ウィ・ロック・ザ・スペクトラム」のサイトでは、ジムの紹介として子どもたちの写真もたくさん載せてあります。そこから大きく感じたのは、自閉症スペクトラムを子どもの特性の一つとして捉え、オープンな立場から公開し、一般の人からの理解やサポートを求める姿でした。

日本でも、最近はどんどん認知が進み同様の施設などが作られたりしていると思いますが、この姿勢や感覚は日本では感じ得ない部分も大きいです。文化的な違いはあれど、日本でも、もっとオープンに理解とサポートの手を結び合うことができるようになればと思います。

参照
自閉症スペクトラムに関するデータ:http://www.abs.gov.au/ausstats/abs@.nsf/Lookup/4430.0Main%20Features752015
プレイコネクト公式サイト:https://www.playconnect.com.au/
ウィ・ロック・ザ・スペクトラム公式サイト:http://www.werockthespectrumprestonvic.com/
テレビのニュースでの報道:https://www.9news.com.au/2018/08/11/02/21/autism-melbourne-victoria-sensory-gym-sally-johnson-disability-children
自閉症スペクトラムの子供の教育サイト:http://www.autismineducation.org.au/autismontherise/
遊具についての説明:https://www.wrtsfranchise.com/our-story/rock/

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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