移民が3割を占めるオーストラリア。幼稚園から始める多様性を受け入れる教育とは?
移民が多く住む「多民族国家」であるオーストラリア。学校には目や髪、肌の色が一人ひとり違うさまざまなルーツを持った子どもたちが在籍しています。そういったオーストラリアの学校に我が子を通わせて感じたのは、「違いを受け入れ、認め合う文化」が浸透しているということでした。今回は、多様性を理解し尊重するオーストラリアの教育について、現地学校での取り組みなどを中心にご紹介します。
目次
まずは互いの違いを確認・理解し認め合うことからスタート
移民とは、「海外で生まれオーストラリアに移り住んだ人」のことを言います。2020年時点でオーストラリアに住む移民の人口は750万人にものぼり、総人口の29.8%と約3割になりました。出身国の内訳としてはイギリス、インド、中国が多く占めています。
オーストラリアの学校では、「互いを認めあうこと」を幼いころから自然と教えらます。世界で進めているSDGs(持続可能な開発目標)の「目標10」にあたる「人や国の不平等をなくす」を達成するためにまず必要なのは、人種・ルーツ・宗教の垣根を超えて多様性を認め合うことだという考え方が浸透しているのです
たとえば、幼稚園が始まり最初に行われたアクティビティは「自画像を描くこと」でした。ただ、単に自分の顔の絵を描くだけではありません。まず、授業の初めに絵本「The skin you live in」が読まれます。自分や友達の肌を始めとする、ありのままの姿を認めあうことを説いた内容です。
その後、友達の顔と鏡を使って自分の顔を見比べながら、「何が同じで何が違うか」を話し合います。肌の色はどうか、目の色は、髪の色は?そして、自分と他人の違いを受容し認めたうえで、自画像を描きます。
筆者の子どもは「Black hair is cool!」とお友達に言ってもらい、誇らしげに自画像を描いていたと後日先生から教えてもらいました。
日本の幼稚園の初日でも、クラスのお友達と仲良くできるアクティビティが用意されていることでしょう。ただ、オーストラリアの幼稚園では、クラスのお友達と仲良くなる前にまず「人との違いを認めあうこと」を最優先で伝えました。そこには、多様性を認めあう文化の土台を重要視していることが感じられます。
また、子どもの通う幼稚園でのスローガンは「Respect yourself、Respect your friends」。事あるごとにありのままの自分、ありのままの友達をリスペクトすることの大切さを先生は教えてくれると、子どもは話します。
そのほかにも、教室には各国の国旗や挨拶のことばが飾られており、授業のなかでも自分のルーツがある国について皆の前で話す機会があります。人種やルーツを始めとする「違い」にあえて触れることで、オープンな形で理解していくのです。
このように、幼い頃から「互いの違いを認め、尊重しあうこと」を自然な形で教えることにより、多様性理解の素地が養われているのだと感じます。
多文化をリスペクトし祝う「ハーモニーデー」
オーストラリアでは、毎年3月21日が「Harmony Day(ハーモニーデー)」という多文化をお祝いする日になっています。オーストラリアがさまざまな文化と人種で構成されていることを祝福し、互いの文化をリスペクトし合おうという主旨のものです。
ハーモニーデーには、街や学校でいろいろなお祝いのイベントが行われます。
筆者の子どもの学校では、自らのルーツがある国の衣装、たとえばチャイナドレス、サリー、トーブなどを着ていきます。授業では、保護者の有志がルーツのある国の郷土料理をふるまうというイベントがありました。
また、英語以外の言語を話す生徒も多くいるため、母国語をクラスメイトに紹介する時間や、ルーツのある国の特徴や文化について説明する時間もあったようです。
マイノリティである移民の子どもたちが民族衣装を誇らしげに身にまとう。そして、自らの国の文化を発信し、ほかの子どもたちも異文化を不思議がることなく、まっすぐ受け止める―。その光景は、多様性に寛容でマイノリティも堂々と生きられるオーストラリアの社会そのものを表していると感じました。
小学生から第二外国語を学び、異文化理解を深める
オーストラリアの多くの州では、小学校(州によっては小学校入学前)から第二言語を学び始めます。第二言語を学ぶ目的は、多文化理解はもちろんのこと、ビジネスの場での活用や、その言語を母国語として話す子どもの母国語維持のためという理由もあります。
各州および学校の指針により学ぶ言語や学習方法は異なりますが、第二言語として人気なのは中国語、イタリア語、日本語、インドネシア語、フランス語などです。日本と比べると、語学学習用のゲームなどを活用したり、課外活動も含むアクティビティを盛り込んだりという学び方をしていることが特徴です。
2019年には教育大臣が言語学習にさらに力を入れることを発表しており、今後も他言語を学ぶことでより多様性の理解を深めていくとしています。
オーストラリアには、英語が非母国語の生徒(小1~中3)に対して、英語を集中的に教える学校(IEC)があります。IECの目的は「現地校に問題なく通えるレベルの英語を習得する」ことで、移民が多いオーストラリアならではの制度と言えそうです。
言語の遅れは学業の成績だけでなく、大学進学率や職業選択にも関係し、将来的に経済格差を生む恐れもあります。IECはSDGsが叫ばれる前から存在していますが、まさに多民族国家として「誰ひとり取り残さない」ことを目的に取り組んでいる教育施策の1つと言えるでしょう。
まとめ
ほぼ単一民族国家である日本においても、今後外国人比率は上がっていくと考えられます。日本でSDGsを進めるにあたっても、肌や文化などの違いについてあえてオープンに認め合うことが、より求められていくかもしれません。
幼い頃から自然な形で多様性や異文化への理解を進めるというオーストラリアの教育は、サステナブルな社会を作っていくためのヒントになると思います。
<参照URL>
https://www.abs.gov.au/statistics/people/population/migration-australia/latest-release
https://ministers.dese.gov.au/tehan/investing-languages-studies-australia
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
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