インド人がすごいのはなぜ?インドにおける最新の早期教育事情【前編】
日本で「インド式」という言葉を聞くようになって久しく、インド人は数字に強く、英語を流暢に話すうえに優秀である、というイメージがすっかり定着しつつあります。そして現在でも、世界で活躍するのはインド人だけではないはずですが、インド人が特別に注目を集めています。
そんな秀才たちを輩出するインドでは実際どのような教育が行われているのでしょうか。
その様子を、前半はインド人の武器となる英語と算数の取得方法について、後半は背景となる教育制度や過熱するプレスクールにおける早期教育の現状について、2回に分けてレポートします。
目次
「インドにおける教育の現状」
インドの教育事情は時代とともに変化を遂げてきました。国民生活はより豊かになり、親自身が教育を受けた世代に代わり、教育への関心は高まる一方です。とくに都市部では、少子化が加速し子どもに費やす教育費が増加しました。
また、過去10年ほど前から、未就学児からの早期教育がより注目を集め、プレスクールビジネスという新たな市場をも生み出しています。
そして、家庭における教育も変わってきました。英語を話すことは成功への必須条件となり、親たちは文法にはこだわらず家庭において英語の導入を開始しています。
さらに英語だけではなく、親が(とくに母親が)家庭で勉強を教えるようにもなりました。出産を理由に自分のキャリアを諦めた女性も多く、教育を受けた女性が、主体的に子どもの学習に関わりを持っています。
またインドでは書籍が安く手に入るうえに、子どもの教材も数が多く種類が豊富です。1冊に、ぬりえ・アルファベット・数字のカウントなどが収められたテキストなど、幼児でも飽きずに学習を進められるものまでありますます。
このようにさまざまな状況も重なって、幼いうちから、家庭において英語や算数の勉強が積極的に開始されるようになりました。
「インドにおける英語とは?アルファベットは音に注目」
インドが英国支配下にあった当時、国民に英語の使用が強要されました。独立後はヒンディー語が正式な公用語となり、英語は準公用語となりました。
このほかにもインドには22の指定言語があり、子どもたちは、地域によって最低3種類の言葉を覚える必要があります。しかし、現在は、英語があらゆる場面においてアドバンテージになる「英語至上主義」の社会になりつつあります。
実際に英語はどのように学習するのでしょうか。会話は、各家庭や学校で既に始まっていますが、学習としての導入は、一般的には3~4歳から始まります。まず、フォニックスサウンドという音からアルファベットを導入します。
例えば、「h」は、エイチではなく、吐き出すような「フ」と「ハ」の間の音で覚えていきます。これを徹底的にやると、「a,e,i,o,u」の母音を覚えることで、知らない単語でも音から読み方を想像することができるようになります。
ついで、同じ母音を持つ簡単な言葉、たとえば、cat,cap,mapといった単語を一度にたくさん導入し、読み、書き取りを徹底的にやります。
このとき、「キャット」と発音しながら書き取りをするのではなく、「カ、ァ、ト」のようにフォニックサウンドで一文字ずつ発音しながら書いていきます。この習慣は、のちに文字数の多い長い単語に遭遇しても、書き間違えることなく確実に単語を書く助けになるのです。
この年齢で覚える必要のある基礎単語は相当な数がありますが、子どもたちはあっという間に吸収してしまうのです。
「インド人は理系?学校ではどんな風に算数を勉強するのか」
インドは、「0(ゼロ)」の概念を生み出した国で、昔から算数数学に長けていました。「インド式計算」、ITなど、インドは理系に強いイメージがありますが、学校でインド式計算を行っているわけではありません。
インド人に聞いても、計算を簡単にするための方法としては理解できるが、そういったやり方を学校で教わった覚えはないと言います。
算数を家庭以外で学習するのは、1年生になる前からで、「アバカス(簡易式そろばん)」と「カウンティングボード(マス目に1から100までの数字が書かれたもの)」といったものを使います。
アバカスは、足し算や引き算の導入に取り入れますが、子どもたちはすぐにアバカスの助けなしで計算をこなすようになります。ボードについては、数字の配列の持つ数学的な概念の基礎作りを助けます。
「カウンティングパターン」は、たとえば、15、17、19、21という数字の配列から、数字が2ずつ増えるパターンであることを認識させますが、その学習にボードを使います。また、5、10、□□、20といった「スキップナンバー」の虫食い問題などにも使用されます。
これらの勉強に相当時間を費やすことで、かけ算への移行をスムーズにし、習得を早めます。かけ算を「九九の丸暗記から」という発想とは違います。
また、算数と同時にコンピューターの勉強も始まります。キンダーガーデン(幼稚園)でもコンピューターの授業があります。コンピュータールームにて、教科書に沿って用語の紹介から、起動や終了といった基本的な操作を学んでいきます。
図形を用いたお絵かきなどを通じ、のちにプログラミングなどを学ぶ基礎作りはここで完成するのです。日本と比べると、どちらも随分と早い段階での導入にも思えますが、実はインドの教育制度に基づいているのです。
「後編」では背景となる教育制度や、プレスクールでの早期教育事情などの点から、優秀なインド人が輩出される背景を総合的に探ってみたいと思います。
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