アメリカの「ギフテッド教育」と日本の「先取り教育」、その違いは?
アメリカのギフテッド教育は、地域や学校によってさまざまな形態があります。飛び級や優れている科目を上の学年で受けるなど、できる子がどんどん先に進めるギフテッド教育は、一見日本の先取り教育と同じように見えるかもしれません。
しかし、先取り教育が親主導のもと、ときには詰め込みありきで子どもの努力により進むのに対し、ギフテッド教育は学校側から提案され、子どものニーズに合わせて進んでいきます。アメリカの小学校におけるギフテッド教育を紹介します。
目次
熟考させて問題解決力を伸ばすギフテッド教育
アメリカの小学生がギフテッドと認められると、週1日など決められた日数をギフテッドクラスの教室で過ごし、さまざまな学年のギフテッドの子どもたちと一緒に授業を受けます。
ギフテッドクラスの授業では、子どもたちはじっくり考える機会を与えられ、問題を解決する力を伸ばしていきます。また、子どもたちの探求心を刺激するような研究プロジェクトに取り組ませ、研究結果のポスターや模型を作り、保護者の前でパワーポイントを使ったプレゼンテーションを行います。
ギフテッドクラスでの授業と並行し、その子のニーズによって普段の教室ではほかの子どもたちより難しい内容を学習したり、優秀な科目の授業を上の学年で受けたり、飛び級したりします。たとえば、小学校2年生から4年生に飛び級するときには、学年の前半で2年生を終え、後半で3年生を終了して、翌年は4年生から始めるというように子どもの負担を減らす配慮もみられます。
担任の推薦が教育プロセスの第一歩
一般的に、ギフテッドクラスに選ばれるプロセスは、まず担任が子どものギフテッドの可能性に気づき、その子をギフテッド専任教師に推薦するところからスタートします。次に、ギフテッド専任教師が推薦された子どもと面談し、カジュアルな会話の延長線上でその子の知能を評価します。
たとえば、キンダーガーテン(5~6歳)の子どもの場合は、文字と音を結び付けて単語を発音するリーディングのレベルや、三角形やひし形などの図形の名称を言えるかなどがチェックされます。保護者はこの段階の面談については知らされないので、事前に質問内容を調べて子どもに教えておくなどの準備をすることはできません。
面談の結果、専任教師からギフテッドの可能性を認められた子どもは、学区の教育委員会の面談を受けます。この面談では、心理学者とギフテッド教育の専門家によるIQテストと口頭での学力テストが行われます。そして、この面談でギフテッドと認定されると、ギフテッドクラスに入ることを許可されるのです。
子どものニーズに合わせたギフテッド教育と効率重視の先取り教育の違い
ギフテッドの子どもは概してIQが高く、語彙が豊富で、視覚または聴覚記憶力が抜きん出ていることが多いとされています。ただ、同学年の子どもたちと同じ授業を受けると、簡単すぎて退屈したり、その高度な発言にほかの子どもたちがついてこられなくて孤立してしまったりということもあります。その結果、学習に対する興味を失ってしまいかねません。
その対策として、ギフテッドの子どもに適したレベルで、より広く深く学ぶ場を与えるのがギフテッド教育です。つまり、ギフテッドの子どものニーズに合わせた教育といえるでしょう。
一方、日本の先取り教育は、子どもが先々学習する内容を平均的な進度より速いスピードで習得していきます。子どもがその教科が好きなので自ら先に進んでいくこともあれば、保護者がお膳立てして進ませるケースもみられます。
先取り教育ではいかに効率よく的確な学習をするかが重要視されるので、優秀な成績を収めて自信を持てるなどのメリットがあります。しかし、スピードを重視するため、暗記した公式を問題に当てはめて答えるといった能力に優れる一方で、物事の根本を深く理解するなどの能力が育ちにくいという面もあります。
このように、ギフテッド教育がギフテッドの子どものニーズに合わせたカスタムメイドの教育なのに対し、先取り教育は固定された既存の枠の中を早送りで進んでいく教育といえます。
大人が能力に気づいてあげることがまずは重要
アメリカのギフテッド教育から私たちが学べることは2つあります。
1つは、私たち大人が子どもの能力に気づいてあげる必要性です。もう1つは、その子のレベルに合った教育を、専門的な知識を持つ教師が最適なタイミングで与える重要性です。
ギフテッドクラスに選ばれるプロセスは、まず担任が子どもの才能に気づき推薦するところから始まります。ところが、もし担任のギフテッド教育についての認識が低かったり、問題がある子どもの対応に追われて、出来の良い子は放っておいたりというような対応だったらどうでしょう。おそらく担任は子どもの才能に気づかず、その子がギフテッド教育を受けられる可能性は低くなると思います。
このように、大人が子どもの能力に気づいてあげることは、ギフテッド教育でとても大切な最初のステップなのです。気づいた後は、専門的な教師がその子のレベルに合った教育をより良いタイミングで提供できる環境が必要となります。こういった気づきやその後のプロセスは、日本で子どもを育てていくうえでも同じなのではと考えられます。
おわりに
大人が子どもの優れた能力に気づくことは、アメリカのギフテッド教育の始まりであると同時に、日本でも子どもの能力を伸ばしてあげるために必要な最初のステップです。ただ大人なら誰でも気づけるかといえば、残念ながらそうともいえません。子どもたちの才能の芽は、たくさんの子どもを見てきた教師でないと見逃してしまうこともあり得ます。
アメリカでギフテッドに認定されるレベルの子どもには優秀な特有の特徴があるため、日本でも多くの才能ある子どもと接してきた専門的な教師に相談できる機会があればと思います。その子の能力が発揮できる最適な教育方法を選んで実行してもらうことで、より能力を伸ばしてあげられるのではないでしょうか。
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