アメリカの教育格差は年長から!米国の州立大学教授に聞く「リーダーを育てる教育法」

アメリカの教育格差は年長から!米国の州立大学教授に聞く「リーダーを育てる教育法」

誰しもが我が子には成功してほしいと願うものですが、親として何をすればよいのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、アメリカで生物学を教えているサバンナ州立大学の新田孝幸准教授に、アメリカのリーダー教育についてうかがいしました。将来の成功者としての道を進む子どもたちは、どのような教育を受けて育つのでしょうか。成功する子どもが持つ特徴をはじめ、義務教育が始まる年長から大学までの教育の流れを紹介します。

将来成功する子どもに見られる、ほかの子との「決定的な違い」とは?

アメリカはよくも悪くも実力主義であり、資質のある子にはどんどんチャンスが与えられる国です。そういったチャンスを自分のものにできる子は、大学でも企業でも成功し、国を引っ張っていくリーダーに成長していきます。一方、同じ環境でスタートを切ったのになかなか才能を伸ばせず、大勢のなかに埋もれてしまう子もいます。

一体何が違うのかと考えてみると、成功する子というのは共通して自分はどうなりたいのか、何に興味があるかなど、将来に対する明確なビジョンを持っているのです。たとえば、ただ頭がよいから医学部に行くというような考え方では主体性がないため、途中で飽きれば辞めてしまったりする場合もあります。しかし、本人に将来のビジョンがあれば、そのためには何を学ぶべきか何をしたいかがより明確になり、自ら動くようになります。そして大学に入る頃には、彼らの差は埋められない程決定的になってきます。

ビジョンをしっかり持っている子というのは、自ら興味を持ち、積極的に学ぼうという姿勢を幼い頃から持っています。そのためには、やはり幼少の頃から親のサポートが大切です。親子のさまざまな会話を通して、社会に興味を持たせてあげられるといいですね。

年長から大学まで、どのようなリーダー教育を受けている?

将来リーダーになるような子どもは、実際どのような教育を受けているのでしょうか。年長から大学までの流れを見てみましょう。

年長~小学生
州により違いはありますが、一般的にアメリカの義務教育は満5歳になった子どもを対象とした小学校0年生に相当する年長(キンダーガーテン)から始まります。日本の学校では全員が同じ内容の授業を受けるスタイルが基本ですが、アメリカでは「平等な教育=各個人の能力に合った教育」と考えられているため、子どもの学習能力に合わせて課題も変わります。1~10までの数字の数え方を学ぶ子の隣で、2桁の計算問題に取り組む子がいる、といった様子です。

年2回全米で実施されるMAPテストも、年長から行われます。その結果を参考に教師は指導方法を決定し、とびぬけて高い達成能力が確認された子どもはギフテッドに認定され、特別教育プログラムを受けることができます。

このように、アメリカでは子どもが幼い頃から充実した教育環境が与えられています。親も積極的に学校のボランティアに参加したり、教師と密に連絡を取ったりして、子どもの教育をサポートします。親が教育に熱心であるかどうか、子どもの学習意欲がどれくらい高いかで、義務教育をスタートしたばかりの頃からすでに差が出でくるのです。

中学~高校
将来国のリーダーになるような子どもたちは、中学の頃には自分の将来を見据え、自ら動く姿勢が身につくようになります。アメリカの中学は、日本の大学のように生徒が必要な授業を選択しながら単位を取得していくのですが、学習意欲が高い子は早々に必要単位を取り終え、高校の単位を先取りしていきます。高校生であれば、大学の単位を先取りすることになります。なかには特定の分野を掘り下げ、研究し、サイエンスフェアでプレゼンテーションをしたり、コンテストに出場したりする子もいます。

また興味がある分野の企業や団体に問い合わせ、ボランティアやシャドーイング(仕事している人についてまわり、仕事内容を観察すること)にも積極的に取り組みます。中学生や高校生にとってボランティアやシャドーイングをすることは、決して簡単ではありません。断られることも少なくありませんし、何よりも大人の社会へ飛び込んでいくには勇気が要ります。しかも学校外の時間を充てることになりますから、本人が将来を強く意識していないと継続していくのは困難でしょう。

しかし、それだけに得るものも大きく、学校では知り得ないような社会の仕組みや流れを体感的に学ぶことができます。社会経験を積むことは、大きな自信にもなります。

加えて、そういった子どもたちはポートフォリオを活用してのアピール力も抜群です。ポートフォリオとは、大学入学や企業の入社において重視される個人評価ツールのことです。ポートフォリオが充実していると総合的な個人能力が高いと評価されるため、進学や就職において大きなアドバンテージになるのです。

大学~社会へ
高校までに単位を先取りした子どもは、空いた時間をさらに自分磨きに費やします。早い時期から興味のある研究室に所属し論文を書く子もいれば、インターンシップに参加する子もいます。成績優秀者が取得できる奨学金制度(スカラシップ)を数多く取得することも、ポートフォリオでのアピールに大いに役立ちます。

またアメリカの大学には、選ばれたエリートのみが所属できるHoner Society(オナーソサエティ)という団体があります。学業成績が秀でているのはもちろんのこと、人間性が優れていること、リーダーシップがあること、ボランティア活動に熱心であることなどの厳しい条件があり、入会できることは非常に名誉なこととされています。入会者は会員のみが対象の奨学金がもらえたり、会員同士のネットワークから就職が有利になったりします。

まとめ

アメリカは、国の未来をリードできる優秀な人材を育てることに力を入れています。ただ、単に勉強ができるだけでは成功者への道は開きません。自分の未来を見据え、しっかりとしたビジョンを持ち、経験や行動力が伴っている子どもだけが、次々とステップを上がってリーダーへと育っていきます。

そして、子どもが幼い時期から将来のビジョンが持てるようサポートするのは、親の役目です。親子の会話を通じて自分の明るい未来を見つめるところから、アメリカのリーダーは生まれてくるのです。

<教えてくれた人>
新田孝幸
筑波大学大学院総合科学研究科医学系専攻博士課程修了。日本学術振興会海外特別研究員、ポストドクトラルフェロー(カリフォルニア大学アーバイン校)を経て、サバンナ州立大学生物学部准教授として微生物学、免疫学の講義を務める。分子ウイルス学および生物教育学の研究に従事し、学生の研究指導には定評がある。

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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