能力に応じた区別化は差別じゃない!豊富な選択肢を持つオーストラリアの小学校事情
移民の受け入れを積極的に行っているオーストラリア。シドニーやメルボルンなどの大都市になるとバスや電車内でも多言語が飛び交い、場所によってはアジアのどこかの街に迷い込んだかのような錯覚に陥ることさえあります。
このように多民族が暮らすこの国には異なる文化を受け入れる大きな土壌があり、教育の場においても個性を重要視します。今回は、個々の秀でた能力を特別扱いしながらも平等であり続けるオーストラリアの教育制度をご紹介していきます。
目次
能力別クラスが学習意欲を左右する
オーストラリアの小学校は、キンディークラス(幼稚園部)を含む7年間から成ります。英語が第一言語の子どもとそうでない子どもとでは、入学の時点で英語力に大きな開きがあることから、リーディングの授業ではキンディーから能力ごとのグループにわけられます。
少人数の各グループにはアシスタント教師やボランティアのアシスタントが一人つき、発音や読みかたの規則などを徹底的に教えていくことで、すべての授業において必須であるリーディング力を高めていきます。
英語と並び主要科目である算数も例外ではなく、多くの学校では1年生からアセスメントテスト(査定試験)のレベルに応じたクラスにわかれ授業が始まります。学力の伸び幅は子どもによって異なることから、適切なクラスへの見直しも定期的に行われています。
約30人の子どもがいれば、英語や算数の主要科目では大きな学力差があるのは当然のこと。中間レベルで授業を進めると、学力の低い生徒は授業を理解できず学習意欲が下がりがちになってしまいます。長期的に続くとその科目を嫌いになってしまう可能性さえあります。
一方で、学力が高い生徒にとっても、レベルを下げた授業はつまらないもので、学力の向上を狙った塾通いが一層加速することでしょう。
子どもの学習意欲を高めるうえで、それぞれの能力に応じた授業を受けることは非常に効果的であり、学校側にとっても効率良く授業を進めることができるのです。
どの教科においても秀でた児童にはとことんチャンスを与える「出る杭をさらに引き上げる」オーストラリアの教育
能力わけの査定テストに留まらず、さまざまな分野において強い関心を示したり、高い能力を発揮したりする子どもには、特別な授業を開催することで選択肢の幅や可能性を広げる機会を与えています。
各クラスで英語のスペリング能力が高い子どもだけを集めた「スーパースペリングクラス」を開催するほか、ライティング能力の高い子どもには、小説など数々のライティングコンテストへ参加する機会を与え、添削や技術面のアドバイスで全面的なサポートを行います。
学力面だけでなくスポーツにも平等に力を入れており、通常の体育の授業に加え、サッカーやクリケット、テニス、ネットボール、ラグビーなど各種の査定テストに合格した子どもだけが参加可能な選抜スポーツプログラムを導入しています。
授業の一環として毎週他校とのトーナメント試合に参加することで、公の場での挑戦や技術向上の手助けをしています。
特別授業は放課後にまで及び、レゴロボットを使った「コンピュータープログラムクラス」や「第二・第三外国語クラス」などを希望選択制で開講し、子どもたちの秘めた能力の開花と可能性の拡大を支援しています。
毎週行われる発表で人前での自信やプレゼンテーション力が自然に身につく
欧米の方々は総じて人前でのスピーチが得意です。自信に満ち溢れたパフォーマンス力の高いプレゼンテーションやスピーチは目を見張るものがあり、聴く人を惹きつけます。しかしながら、プレゼンテーション力は持って生まれた能力でもなければ、突然開花するものでもありません。
オーストラリアでは、人前での発表の練習は3歳から始まります。プリスクールやデイケアの3歳児以上のクラスでは週に一度、「ショー・アンド・テル(Show and Tell)」と呼ばれる発表の時間があるのですが、最初からすらすらと人前で話せる子どもはほんの一握りです。
ほとんどの子どもは発表の題材となるお気に入りのオモチャやぬいぐるみを抱えてもじもじしています。このような子どもたちからうまく会話を引き出すのが先生たちの役目。
「これは何?」「どのように遊ぶの?」「なぜ好きなの?」「誰と遊ぶの?」といった簡単な疑問を投げかけ、ときには子どもが話す文章の間違いを正しながら自分の力で発表できるよう導いていきます。
小学校に入るとテーマに沿った発表を開始し、徐々にプロジェクト形式の発表へと変化します。題材についての調査能力や文章の構成力を身につけながら、より伝わりやすい発表の仕方を徐々に学んでいくことでプレゼンテーションの技術を磨いていきます。
聞き取りやすい声質を生まれながらに持っている人との差はあるものの、人前で発表をする機会を多く与えられた「慣れ」によって、プレゼンテーションのスキルは自然に身についていくのです。
小学校の幼稚園部から能力わけが始まるオーストラリアの教育方針ですが、それぞれの得意な分野を平等に評価してくれる環境であることから、格差が生まれることはありません。学校は子どもたちにとって、新しいことを学ぶと同時に光る才能や個性を見出し引き伸ばしてくれる場所なのです。
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
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