小学校から起業家精神を学ぶ米国。なぜ今、「アントレプレナーシップ教育」が重要?
「アントレプレナーシップ教育」という言葉をご存じでしょうか? 起業家に必要な精神や能力を育むことを目指した教育方法のことで、次世代を担う人材育成のために米国をはじめ世界の先進国が力を入れています。今回は米国の教育現場における、アントレプレナーシップ教育への取り組みとメリットを紹介します。
目次
米国では小学校低学年から積極的に実施
近頃は日本でも、アントレプレナーシップ教育が注目され始めています。政府が2022年内にまとめるとされる「スタートアップ(新興企業)育成5カ年計画」には、小中学校や高等学校での起業家教育を重視するという内容が盛り込まれる予定です。このように、国内においても起業家教育の重要性が明確化されつつあります。
世界的な起業家を多数輩出する教育土壌がある米国では、小学校低学年の頃から積極的にアントレプレナーシップ教育を導入しています。では実際にどのような教育が行われているのか、現場で実践している4つの方法を取り上げてみましょう。
ロールモデルとなる起業家との交流
アメリカの小中学校では、ゲストスピーカーを招いた講演会を積極的に行っています。どのような仕事をしているか、現在に至るまでどのような苦労・工夫・失敗があって成功に結び付いたのかを、子どもたちに分かりやすく話してもらいます。
子どもたちにとっては、普段知り合えないような人から直接話を聞けるチャンスです。その人の熱意を身近に感じられ、将来に向けてインスピレーションやアドバイスを得られる貴重な機会といえるでしょう。
また多種多様な職種のゲストスピーカーに出会うことで、自分の理想とするロールモデルを見出せるのも大きな魅力です。それまでぼんやりしていた自分の未来を「こんな風になりたい」とリアルに想像できるようになり、目標に向かって進んでいくためのモチベーションとなります。
就学前から繰り返しプレゼンスキルを磨く
米国では、園児の頃から大勢の前でプレゼンテーションする機会が定期的に設けられます。「SHOW & TELL(見せて、話す)」というこの取り組みは、自分のお気に入りの品を持ってきて、クラスの前で紹介するというもの。園児ならば、多くの子は好きなぬいぐるみや車のおもちゃなどを持ってきます。
もちろん、はじめは上手に話せません。それでも回数を重ね、先生やクラスメートにさまざまな質問を投げかけられることで、人前で話す恥ずかしさを克服し、プレゼンスキルを磨いていくのです。そして小学校、中学校と上がるにつれて内容もスキルもレベルアップし、自分のプロジェクトやアイディアをわかりやすくプレゼンできるようになっていきます。
「米国人は人前で堂々とプレゼンするのが得意」と感じるのも、このような教育背景があることが大きいのではないでしょうか。
ディスカッションを通して社会問題への当事者意識を持つ
米国では、地域の環境汚染問題やSDGsなど「小学校低学年には難しいのでは?」と思ってしまうような社会テーマにも積極的に取り組みます。クラスでディスカッションを行い、「どうすればよりよい社会になるか」「自分たちは社会にどんな貢献ができるか」ということを深く話し合うのです。
このような取り組みを繰り返していくと、世界で起こっている事柄は他人事ではなくなってきます。地域の出来事でも他国の出来事でも当事者のように捉え、どうすればよりよくできるだろう、自分に何ができるだろうと考える癖がつきます。このように考えられる人材がどんどん増えれば、世界を動かすより大きな力になるはずです。
ディスカッションするなかでは、自分とは違う意見も出てくるでしょう。ほかのクラスメートの意見にも耳を傾け、場合によっては受け入れる柔軟さも大切です。一方で、話し合いがなかなか進まなければ、みんなの意見をまとめたり方向性を指し示したりというマネジメント力やリーダーシップ力も鍛えられます。
アイディアで終わらせない「実現力」を養う
ディスカッションを通して結論が出たらそれを実際に行動に移すというのも、米国らしい点です。アイディアをアイディアだけで終わらせるか、それとも実現まで持っていくかは大きな違いです。ここが起業家としての分かれ目とさえ言えるかもしれません。
息子が小学1年生の時には「クリスマスはみんなに幸せを感じてもらいたい」という切り口から、クラスで孤児院へのプレゼントを送ろうということになりました。実際に募金活動をしてプレゼントを買い、手紙とともに送るという行動につなげたのです。
考えるだけではなく、それを行動に移してこそ変革を起こせる。そういった実体験を小学校の頃から積ませてあげようというのが、米国のアントレプレナーシップ教育といえるでしょう。
まとめ
もともとアントレプレナーシップ教育は、未来の起業家育成を目的としたものでした。しかし、現在では「起業家としての精神や資質を学ぶことで、自らの価値を高め将来成功できる力をつけるための教育」という広義の解釈が主流です。
社会のデジタル化が進み、求められる人材の資質も大きく変化している現代だからこそ、アントレプレナーシップ教育は今後ますます重要視されていくと思われます。
執筆:長谷川サツキ
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。