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フランスの「ギフテッド教育」と習い事の才能を伸ばす画期的な取り組み

フランスの「ギフテッド教育」と習い事の才能を伸ばす画期的な取り組み

フランスにおける「ギフテッド」の定義は、基本的に知的潜在能力が高い「IQ130以上」を指します。独創性やリーダーシップなども含まれるものの、根底にある定義があまりに狭義的なため、アメリカやイギリス、ドイツなどに比べてギフテッド教育は遅れています。一方で、フランスは芸術やスポーツの才能を見抜いてサポートする教育には長けており、義務教育よりも習い事で才能を伸ばしてもらいやすい国です。フランスのギフテッド教育や習い事の現状などを紹介します。

定義は「IQ130以上」で創造性や特別な能力は含まれない

フランス語で「ギフテッド」は翻訳しにくい言葉です。英仏辞典には「surdoué」という言葉が載っていますが、定義は「IQが130以上ある知的能力を持つ者」と明確で、創造性や特別な能力は含まれていません。国民教育省は長い間「précoce(早熟)」という言葉を使っていましたが、最近は「Haut Potentiel(ハイポテンシャル)」を使うことが多いようです。ただいずれにせよ、国民教育省も「IQが130以上ある子ども」を指す言葉として使っています。

フランスのギフテッド教育がアメリカなどより遅れているのは、ギフテッドであることが基本的にIQで判断されてきたためといえます。IQの高さによってギフテッドとされた子どもの多くは一般の学校で優秀な成績を修めていることから、その枠からはみ出たギフテッド教育は重要視されなかったのです。

また、フランスの義務教育では個性を伸ばすことよりも、苦手分野を克服する指導方針が根強く残っています。そのため、たとえばギフテッドレベルで数学に秀でていても、読み書きやコミュニケーションが苦手であれば、まずは言語療法士のもとで治療を受けるよう指導されてしまうのです。

このような背景から、ギフテッド教育はカリキュラムの融通がききやすい私立校で実施されているのが殆どです。フランスの私立校には国の認可を受けている学校と認可外の学校がありますが、残念ながらギフテッドだけを集めた専門の学校は認可外となり、補助金が下りません。そのためどうしても学費が高くなってしまい、裕福な家庭の子でないと通えないのが現実です。

それでも、2008年に15名の生徒で始まったギフテッド専門のジョルジュ・ギュスドルフ校には、現在220名が在学しています。高額な授業料にもかかわらず入学を希望する親が多く、生徒数が増えているのです。

ギフテッドを育てる母親たちの不安

ギフテッド・チャイルドを持つ母親2人と話す機会がありました。

1人は保育士で子どもに慣れているものの、我が子の子育てには頭を悩ませていました。幼稚園に頻繁に呼び出され、娘さんは問題児のレッテルを貼られて不安な日々を過ごしました。ある日、娘さんが「ママ、人の存在意義は何?私には生きる価値があるの?」と言ったそうです

幼児とは思えない発言に驚き、慌てて医者に連れて行って事情を話しました。IQテストを受けギフテッドだと判定されてから、直ちに公立幼稚園を辞めてギフテッド専門の私立校に通わせ、親子ともようやく落ち着いたとのことでした。

もう1人は男の子を持つ母親の話で、やはり子育てに悩んでいました。幼稚園から呼び出されるたびに、落ち込んだといいます。

息子さんが小2になり、初めて九九を習ってきた日のこと。突然二桁×二桁の暗算をし始めたのを見て、ギフテッドだと確信したそうです。けれども、「社会に出たときにいろいろな人と共存できるように」との願いから、現在は一般の私立中学に通わせています。

結果的に別々のコースを選びましたが、2人の母親は「我が子の幸せを願って決めたの」と、同じことを言いました。

放課後の習い事には税金を投じ芸術やスポーツの才能を伸ばす

ただフランスは、子どもの芸術的な才能や運動能力を見抜き、それを伸ばす教育には長けています。

音楽やダンス、演劇などが学べる課外教育機関「コンセルヴァトワール」もその1つで、多くは公立で各家庭の収入に応じて年間授業料が決まり、格安なのが特徴です。貧困が原因で子どもの才能を潰してしまうのは国の損失だという考え方は、いかにもフランスらしい美点といえるでしょう。

学校帰りに通う習い事ではあるものの定期的に試験も行われ、落第2度目で退学となり、無断欠席3回でも退学です。厳しく感じられますが、税金が使われているので納得できます。

さらに、子どもたちの才能を伸ばす習い事の放課後時間を確保するため、フランスには半日授業だけの公立学校もあります。学校の成績とコンクールや大会での結果によって入学を許可された生徒たちは、半日だけ学校に通い、残りの時間を習い事の練習に費やします。内容は楽器やダンスが多いものの、テニス、バドミントン、アイススケート、体操、乗馬、演劇、声楽、チェス…と多岐にわたります。


コンセルヴァトワールの校内オーケストラ


女子器械体操のパリ地方大会

まとめ

ギフテッド・チャイルドの多くは高いIQにより学業成績が優秀なことから、フランスの義務教育現場では個々のギフテッド教育は後回しにされてきました。そのため、古い考え方の学校制度に馴染めず取り残されたギフテッドたちはギフテッド専門の私立学校に流れ、年々その数は増加しています。今後こういった子どもたちにも目を向け、ギフテッド教育の在り方を再認識することができれば、フランスも諸外国と開いてしまった遅れを取り戻せるかもしれません。

その一方で、芸術やスポーツの才能がある子を伸ばす画期的な教育についても、公的サポートの強化などにより引き続き力を注いで欲しいと思います。

<参考URL>
国民教育・青少年・スポーツ省
ジョルジュ・ギュスドルフ校 (ギフテッド専門の小・中・高校)

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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