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幼児期からの教育で英語も母国語に? 米国の研究からひも解くバイリンガルを育てるヒント

幼児期からの教育で英語も母国語に? 米国の研究からひも解くバイリンガルを育てるヒント

グローバル化がますます進む現代。日本でも2020年より英語教育が小学3・4年生から必修化され、英語学習がさらに身近になりました。早期の英語教育により子どもをバイリンガルに育てたいと思う親がいる一方で、子どもを混乱させてしまい、どちらの言葉も中途半端になるとの懸念や不安もあります。今回はワシントン大学の研究者が発表した幼児期からのバイリンガル教育について、その検証内容をひも解きます。

「言葉の混乱を招く」という懸念は本当なのか

懸念や不安の理由としては、「母国語を学習中の幼児期などに2ヵ国語を教えると言葉の混乱を招き、どちらも中途半端になってしまう」ということが言われています。子どもにバイリンガル教育をさせたいと思う親にとっては、ちょっと不安になる意見です。

こういった意見についてワシントン大学の研究者ナイヤ・ラミレス氏は、バイリンガル家庭とモノリンガル(1つの言葉だけを習得している人)家庭との子どもを比較した研究で、「幼少期から2ヵ国語を学んだ子どもは両方の言語が母国語になりうる」と結論付けました。赤ちゃんの脳は、同時に2つの言語を学ぶことができるというものです。

そこで、一般的にデメリットと考えられている具体的な項目を下記に挙げ、それらに対するラミレス氏の検証結果 を紹介します。

1. 赤ちゃんの発語が遅くなる

2つの言語を同時に学んでいる環境下では、確かに赤ちゃんが言葉を発し始める時期がやや遅れる傾向にあります。しかし、あくまでこれは一時的なこと。母国語への反応度について赤ちゃんの脳を調べたところ、バイリンガルの赤ちゃんはモノリンガルの赤ちゃんと同レベルの強い反応を示し、学習スピードに差は見られませんでした。

2. 母国語の語彙力が乏しくなる

これも、ある意味事実です。バイリンガルの子どもは複数の言語を学ぶ分、1つの言語に使える時間はモノリンガルの子どもより少なくなります。しかし、バイリンガルの子どもが学ぶ言語全てを含めて考えると、モノリンガルの子どもと同等もしくはそれ以上の語彙力を備えていることが分かっています。

3. 2つの言語を混ぜて使ってしまう

ひとつの文章のなかに別言語の単語や表現が混ざる現象を、コードスイッチングといいます。バイリンガルによくみられる現象なのですが、これは混乱しているのではなく、言語発達における正常な過程なのだそう。また子どものコードスイッチングは、周囲のバイリンガルの大人がやっているのを模倣して始まるものだとも指摘されています。

近年の研究で見えてきた「幼児期こそバイリンガル教育の黄金期」という事実

いつからバイリンガル教育を始めるのがベストなのかということも、親の悩みどころです。

ラミレス氏の研究によれば、赤ちゃんは生まれた直後には800もの音を聞き分ける才能があり、どんな言語も習得可能です。この能力は成長するに伴い、頻繁に使う重要な言語の習得特化へと変化していきます。

生後11ヵ月の赤ちゃんに英語とスペイン語を聞かせて脳の反応を調べた検査では、モノリンガルとのバイリンガルの赤ちゃんには以下のような違いが見られました。

・モノリンガルの赤ちゃんの脳は、「英語&聞きなれない言語」として反応。英語の音の処理に特化する一方、スペイン語は処理しなかった。
・バイリンガルの赤ちゃんの脳は、「英語&スペイン語」として反応。両言語の音の処理に特化していた。

つまり、モノリンガルの子どもが母国語に対してのみ行った処理を、バイリンガルの子どもは2ヵ国語両方に行ったのです。このことから、ラミレス氏は「幼児期はメタ言語能力(言葉そのものを認識し、仕組みを理解できる力)が高く、むしろ混乱なく学ぶことができる。そのため、複数の言語習得は時期が早ければ早いほうがいい」としています。

さらに、2つの言語を扱うことによって認知力や注意力の向上にもつながり、タスク切り替えや問題解決力などのパフォーマンスもアップするそうです。

今日から始めよう! バイリンガルの子どもを育てる5つのヒント

英語のバイリンガル教育を始めるなら、ぜひ今日からでも着手してみてください。アメリカのスピーチセラピストに聞いた、5つのヒントをご紹介します。

1. 英語学習の環境を整える

最近は無料でダウンロードできる英語教材がたくさんありますし、英語の絵本も図書館で借りられます。無料動画サイトでは絵本の読み聞かせや歌なども聴けますから、利用してみてください。おもちゃは、自宅にあるもので十分です。最初は、動物、食べ物、乗り物など身近なテーマから始めましょう。

2. 日本語は極力使わない

英語学習の時間は、英語だけを使います。「Cow。牛だね、モーモー」ではなく、「Cow! Moo Moo」という感じです。最初はシンプルに単語だけ。語彙が増えてきたら「Cow jump」など単語を2つ、3つと組み合わせていきます。

3. 少しずつでも毎日続ける

外国語を子どもに教えるのは、パパやママにとっても負担が大きいですね。でも言語学習では、継続することが何よりも大切です。忙しくて英語を教える時間も気力もないという日は、一緒に英語の歌を1曲歌う、短い絵本を1冊読む、でOKです。毎日続けることで、英語を日常の一部にしていきましょう。

4. 楽しく取り組める工夫を

幼児の英語学習は、楽しい遊びとして取り入れるのがベストです。アメリカで親しまれている学習方法に「〇〇探し」があります。「Where’s spoon?」などのお題を出して、家のなかから探してきてもらうのです。探して持ってくるという行動が伴うので知識が定着しやすく、子どももゲーム感覚で「英語は面白い」と感じやすくなります。

5. たくさん褒めよう

大人だって褒められたら嬉しいものです。子どもの取り組みに対し、どんどん褒めて自信をつけてあげてください。「自分は英語ができるんだ」という自信が、もっと学びたいという意欲につながります。

おわりに

移民の国アメリカには、2ヵ国語や3ヵ国語を話せるバイリンガルがたくさんいます。そしてその多くが、幼少期から多言語を学べる環境で育ってきました。アメリカではバイリンガル教育は特別なことではなく、ごく当たり前のことなのです。

母国語としての日本語学習は、子どもにとって最も重要です。しかし、優れた言語学習能力を発揮できる幼少期から少しずつ英語を取り入れていけば、バイリンガルという新たな可能性を子どもにプレゼントできます。無理なく、楽しく、英語学習を始めてみませんか?

<参照サイト>
https://theconversation.com/why-the-baby-brain-can-learn-two-languages-at-the-same-time-57470
https://chalkacademy.com/raising-a-bilingual-baby/
https://chalkacademy.com/teach-child-second-language-home/

著者プロフィール

世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。

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