星空解説員のカリスマ!永田美絵さんに聞く 子どもの「なぜ?」の受け止め方と好奇心の伸ばし方
「コスモプラネタリウム渋谷」でチーフ解説員を務める永田美絵さん(Twitter@@earthtomie)は、NHKラジオ番組『子ども科学電話相談』への出演も務めています。今回は、そんな永田さんの著書『天体のふしぎがわかる星と星座の図鑑』(大和書房)が発売されました。本に込めた思いや天体観察の魅力、さらに子どもの「なぜ?」の受け止め方などについてお話を伺いました。
目次
小学生のときの皆既月食で天文関係の仕事に就こうと決意!
__永田さんが天体に興味を持ったきかっけについて教えてください。
小さい頃から空を見上げることが好きな子でした。天体に興味を持った一番のきっかけは、小学生のときに見た皆既月食です。弟の友達が天体望遠鏡をもっていて一緒に見たのですが、望遠鏡の視野の中で月が外れていく様子を目の当たりにして「地球って本当に動いているんだ!」と感激したのを今でも覚えています。そこから、将来天文関係のお仕事に就きたいと考えるようになりました。プラネタリウムにはよく父と行っていたこともあって、解説員が憧れの存在でした。当時はどうしたらその仕事に就けるかもわからなかったのですが、やりたいと宣言していたら、友達や校長先生が応援してくれるように。大学は天文学部に進み、プラネタリウムのアルバイトのご縁から今の解説員の仕事につながった感じです。
NHKラジオ子ども電話相談員流!子どもの「なぜ?」の受け止め方
__永田さんは長年NHKラジオ子ども科学電話相談で相談員をされていますが、その中で印象に残っている質問はありますか?
子どもたちからは、大人が考えもつかないような質問やハッとするような確信をついた質問が届きます。「なんでお月様はついてくるの?」「宇宙人はいるの?」などは今も昔も変わらない質問ですが、私が印象に残っている質問のひとつに、「星はなんできれいなの?」というものがありました。聞けば、「おばあちゃん家で見た星がとてもきれいで感激した」と。そのときは、「星がきれいに思う気持ちはとっても素敵。大人になって忙しくなると星を見る余裕がなくなってしまったりするから、その気持ちを大切にしてね」と伝えました。
他にも、大好きな「からあげの星座を作りたいけどどうすればいいか」という可愛らしい質問や、「サンタが乗っているトナカイの種類は?」というものも。相談員たちは各分野の専門家ですが、どんな質問に対しても否定しません。子どもからの質問はまず受け止めて、そこからその子にどんな答え方をしたら納得してくれるかを一生懸命考えます。トナカイの質問に対し、生物的な視点から答えた専門家もいましたし、私は「1日で地球1周して配るならどれだけ速いか」を光の速さを例に答えました。子どもたちから「へえ、分かった!」と言われるとこちらも嬉しい気持ちになります。
天体を親子で好きになるとっておきの秘訣!
__親はどうしても天体を「教える」目線になってしまいがちですが、子どもが天体に興味を持つにはどうしたらいいでしょうか?
「誕生日やクリスマスに望遠鏡をもらったけど全然使ってない」そんな声はよく耳にします。何事においてもそうですが、子どもは大好きな親御さんと一緒に楽しみたいのです。なぜなら、子どもは親が楽しければ自分も楽しいからです。まして望遠鏡は慣れないと大人でも操作が難しいので、子ども一人で見るのは難しいもの。ですから、お子さんと一緒になって天体観測を楽しむことが一番です! 天体が好きな子に「どうして興味を持ったの?」と聞くと、小さい時に家族で見たという答えが多いです。夏休みの旅先や近くの公園で、空を見上げてみてください。肉眼でもOKですし、あれば双眼鏡で十分。望遠鏡は興味を持ってからで大丈夫です。
__子どもと星空観察を楽しむために親が知っておくといいことはなんでしょう。
著書の中でも
・星座の数
・なぜ季節によって見える星座が変わるか
・星座の場所はどうやって決まるのか
・時間が経つと星座が動くのはなぜ?
などについて解説していますが、何よりも大事なことは、大人がわからないことを「わからない」と子どもに言えることです。
お子さんの「なんで?なんで?」にちゃんと答えようとせずに、「これはママもわからないから、一緒に調べてみようね」でいいんです。天体の分野はほとんどの方が知らないことなので、一緒に調べるうちに子どもの方が詳しくなるというケースもよくあります。「親がすべて教える必要はない」ということをぜひ知っていただきたいです。
もう一つお伝えしたいのが、プラネタリウムや博物館でのガイドの活用です。常駐する専門家に恥ずかしがらずにわからないことを質問してみましょう。これもまずは親が聞く姿を子どもに見せることがポイント。子ども電話相談室でもそうですが、親が子どもの疑問に向き合うって素晴らしいことだと思うんです。今はネットで手軽に検索もできますが、そこに出てこない答えこそが、子どもの将来につながることが多いものです。小さいうちから、分からないこと人に聞ける子になる練習をしましょう。
プロが解説!天体観測初心者におすすめの季節や時間
__天体観測に適した季節や時間はありますか?
星空は一年中見られますが、実は明るい1等星の数からして秋~冬の方が見やすいです。天気はできれば晴れの方がいいですね。観測する際の注意点としては、毎回同じ場所と同じ方角を決めて見ること。家であれば2Fのベランダで20時、などと決めて見ると、星や月が動いていることが実感しやすいです。その日一番明るい星を探して、その星が1時間後、3時間後にどう動いたのかを見るといいでしょう。冬から春にかけてはオリオン座がわかりやすいです。18時頃からどこにいるか観察してみるのもおすすめですよ。
永田さんおすすめの星座アプリ
__何座がどこにあるのかうまく見つけるコツはありますか?
小学校では4年生になると昔ながらの星座早見表を使いますが、今は便利な時代。専用のアプリを星空にかざすと、その星座の名前を教えてくれます。
「星座表」(無料)のアプリもいいですし、有料では「サテライトトラッカー」もおすすめ。これはISSがどこにいるか、接近時刻を教えてくれるアプリです。
__永田さんが好きな星座の神話とその理由を教えてください
その時々でマイブームの星座は変わりますが、今は春の星座「おとめ座」の神話が好きです。おとめ座には農業の女神と、正義の女神アストライアという2つの神話がありますが、これはアストライアのお話。
神話によると、神々も人間と一緒に過ごしていた「黄金の時代」があったそう。次の「金の時代」に入ると争いごとが増え、アストライアは隣の天秤(てんびん座)で人間の善悪をはかっていました。次の「銅の時代」になるとついに戦争がおきてしまいます。アストライアは争いを止め続けますが、結果天に上ってしまったのがおとめ座だそうです。数千年前の人々が伝える神話ですが、当時から人間には愚かな部分があり、天から神が見ていると考えていたんですね。紛争が絶えない今の世界で、少しでも多くの人が幸せに夜空を見上げられる日がくることを切に願います。
プラネタリウムを子どもと楽しむコツ
__プラネタリウムを子どもと楽しむコツを教えてください。
今のプラネタリウムは、クラシックとコラボした大人向け、キッズ番組とコラボした子ども向けなど、まさに多種多様。映画館のように上映時間を調べて行かないともったいないです。私が働いているコスモプラネタリウム渋谷でも、ハチ公と一緒に南十字星を見に行く参加型のキッズプログラムなど、さまざまな企画をしています。
3月は100万人達成イベント「100周年を迎えたSBカレーの王子様とのコラボ」や、日本に避難してきたウクライナ人解説員がウクライナ語で解説するプログラムも。星の名前は世界共通ですし、地球の星はどこから見ても同じなんだなと感じました。4月にはエイプリルフールの日に宇宙の都市伝説を吉本芸人でもある田畑祐一解説員が行うイベントも。詳しくはHP(https://shibu-cul.jp/planetarium)を。
日本にはプラネタリウムが300館以上あるんです。関東や都内は特に多いので、1日でプラネタリウム巡りをするのも楽しいですよ。また、お子さんと来た際は、プラネタリウム解説の最後に必ず伝える「今日の星空」を夜、実際に目でみてほしいですね。
2023年注目の天体ショー!
__2023年にこれから起こる天体ショーはいつ、どんなものがありますか?
2023年は特に流星群が見やすい条件がそろった年。8/12~13にはペルセウス座流星群が1時間に50個予想、12/14~15にふたご座流星群が1時間に80個予想されています。
お家で見る場合は、遮光カーテンを閉め家の電気を消して、できれば周りが暗くなった夜遅くに空が開けた場所で見るのがおすすめ。方角は関係ないので、根気よく見ているとたくさんの流れ星が見えるはずです。また、本来は明け方の午前4時ごろがピークなので、旅行気分で早起きして観察するのもいいかもしれません。
今は宇宙大航海時代。あるかどうかわからなかったブラックホールや重力波が見つるなど、これまでの不思議が解明されつつあります。今後は女性宇宙飛行士を月に送る計画もありますし、2035年には日本で見られる皆既日食も。ぜひ生で体験してほしいですね。
__星空観察の魅力について、子育て中の親御さんにメッセージをお願いします。
脳科学の先生曰く、人間は空を見上げると未来や成功を考えるので落ち込むことができないそう。逆に下を向くと失敗や過去、ネガティブなことを考えがちだとも。ですから、仕事に子育てに家事にと忙しい親御さんにこそ、空を見上げてほしいですね。親御さんが楽しそうに星空を眺めていれば、お子さんもきっと自然と星を好きになるし宇宙にも興味を持つはずです。ぜひ本書もそのお供にしていただけたら嬉しいです。