小川大介先生×スコラボ前田智大さん 受験と探究学習は両立できる? これからの新しい教育環境の作り方
近年さらに過熱し低年齢化する中学受験。そこに今必要とされている探究型の“新しい学び”をどのように取り組んでいけばいいのか。
中学受験の専門家として著書も多数手がける教育家・見守る子育て研究所所長の小川大介先生(https://sozaitosho.com/)と、「日本の子どもたちが主体的に学べる社会に」と起業し小学生にSTEAM教育プログラムを提供するスコラボ(https://sukolabo.com/)共同創業者である前田智大さんの対談の模様(スコラボセミナーより)をお届けします。これからの教育のこと、中学受験について興味のある親御さん必見です!
目次
「受験=我慢してやるもの」「探究=好きなことをやるもの」ではない!
前田さん:これは多くの保護者の方が感じていると思うのですが「探究学習と受験は別物なのでしょうか?」
小川先生:「中学受験が日本をほろぼす」などといった話が注目を集めがちですが、それは極論です。私は探究学習も大事だし、塾での学びや受験=悪でもないと思っています。
塾の学習や入試の仕組みが悪なのではなくて、参加の仕方が問題なのです。その参加過程がその子にとって大きな負担となる場合、その子の人生の傷になりうることが問題だと思うのです。
前田さん:世間では誤解されやすいですが、
「受験=我慢してやるもの」
「探究=好きなことをやるもの」ではないですよね。だからこそ、僕は受験にこそ探究が入る余地があるのではないかと感じています。
小川先生:その通り。学びたいことがあるから大学へ行くというアメリカでも、日々の学びは楽ではない。でも追い求めたいというモチベーションがある。
「面白そう=探究」「やらされている=勉強」という安易な二分論に立って、「面白そう」だけを重視する人が増えすぎると、日本は近い将来は大変なことになるんじゃないかと心配です。ただ、探究的学びを大事にするアメリカのように、日本の教育も変われる余地はあるはずだと思っています。
アメリカは学びたいことがある学生が多い
小川先生:前田さんは灘中学・高校からアメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)で学ばれましたが、どんな気づきがありましたか?
前田さん:行ってみて実感したのが、実はアメリカの方が学歴社会だということ。ただ受験の仕方が日本とは違って、トップ大学では何か一つのことに打ち込んだ経験を受験で見られるので、受験が探究につながりやすくなっています。
探究心を追い求める子がその先の大学に行くという自然な流れがあるので、学ぶことが好きな子が多い印象です。実際に東大生よりもMIT生の方が「学びたいことがある」と言っている学生が多いなと感じました。
日本で探究学習が根付くために何が必要か
前田さん:とはいえ、日本人は真面目に言われたことをすることに慣れているのと、何かを習得する教材が揃っているので、やりたいことがみつかれば学習速度は他の国より速い環境がそろっていると感じます。
ただ、今の日本は知識の習得のみの過激競争にむかっているので、探究という方向にしていかないとこれから先の子どもたちは苦しい教育になるのではと心配しています。
小川先生:「探究の学び」というフレーズに戸惑っている親御さんも多いと思います。
「探究のメニューって何すればいいですか?」と質問されたり(笑)。
子どもが自ら考えるといった探究的アプローチを授業でするためには、ファシリテーターなどの環境作りがポイントになりますよね。
探究できる場作りとして日本の現状に何が欠けていると思いますか?
前田さん: 具体例として、私自身が体験した探究的な学びの場の例を2つ紹介します。
その1 課題が身近な「地方都市」
地方では人口減少による街の衰退などを学生も身をもって感じることができます。また、私が中学3年生の時に東北大震災があったのですが、その復興に携わる学生たちはものすごく探究的な姿勢を持っていました。当事者意識も高いので、福島県の子どもたちは探究的な学びができていると感じます。
その2 中学受験時代の「灘特訓」
灘中学・高校の入試の算数は今まで見たことがないような問題が多いので、探究心がないとやる気がなくなるレベルで難しいんです。今振り返ると、灘対策の算数の先生は、算数のピュアな面白さを伝えることをすごく大事にしていました。
結局のところ、中学受験でも探究心のある子が上に行きやすいと思います。
小川先生:確かに。国語もそうです。特に首都圏では中学受験の国語のレベルが高いんですが、解法処理的な取り組み方で最低限の答えが出せるとしても、合格ラインを超えるにはさらにもう1歩深い視点で「より適切な表現は何だろうか」まで考えますから。
前田さん:中学受験のいい先生は探究心を伸ばそうとしていますよね。
小川先生:そうですね。ただ、訓練によってインプットする能力を上げ続けてしまう仕組みが今の受験の問題なんです。さらに、能力が上がって時間的なゆとりが生まれると、その隙間を埋めたくなるのが親の心理なので、どうしても子どもに無理をさせてしまう。トップ層はまだしも、中間層が探究的学びを持ちつつ中受を楽しむためには、やらせすぎないこと。余裕を持って考える力や子どものこれやりたい!を尊重できるといいですよね。
受験と探究的な学びを両立する4つのポイント
前田さん:では、受験勉強と探究学習を両方やるにはどうすればいいでしょうか?
小川先生:たとえば受験のようなパターン演習は首から上、主に頭だけを使うのに対し、探究学習は、違和感やもどかしさ、想像力な広がりを身体的に感じる体が欲する学びです。とはいえ身体的な学びばかりしていては得点力訓練の時間が足りません。ポイントは「学びに取り組む時間の間隔をどのように調整するか」。細かい時間で刻むと探究心が止まってしまいますから、探究学習では最低でも1時間は待ってあげたいですね。お子さんを観察しながらそのバランスを各家庭で決めるのが大切だと思います。
前田さん:僕はそのバランスの難しさを大学受験の時に感じました。学びたいことに没頭したいけれど、センター試験や英語のTOEFL対策もしなければいけなくて。そこで、「今は受験勉強をやりたくないけど、その先にやりたい学びの環境が待っている」と納得したらできるようになりました。世の中、探究だけでキャリアパスできればいいのですが、現実はそういうわけにもいきませんからね。理想を見ながら現実を。本人と対話しながらどう納得させるか、そして受験科目にいかに探究心を加えていくかも重要だなと感じます。
小川先生:なるほど。ただ、高校生なら理解できても、10歳や11歳の小学生がそこに到達するのは難しいですから、結局は親からの納得感や行きたい学校をゴールと設定することになると思います。その子の夢や性格を考慮したうえで、ゴール設定があまりにも高すぎると「やらなきゃいけないこと」が多くなり、子どもを追いつめたり無気力にしてしまうんです。
中学受験はここ数年、大人がのめり込みすぎるやりすぎ傾向があると思うので、親は教えるのではなく、子どもの好きや違和感に気づける距離感を大事にしてほしいですね。
ポイント① テストの点数で褒めない!
小川先生:「〇が多かったらいい、×はダメ」という思考にしてしまうと、「間違えた=自分はダメな子だ」とどんどん自己肯定感が下がってしまいます。テストの点数や結果ではなく、今の自分を認めることが自己肯定感です。そこを親御さんが間違えないように。
前田さん:結果によって良し悪しを判断するのではなく、自分の成長に達成感を感じるのが大事ですよね。スコラボでは少人数で対話や雑談をしながら、先生がしゃべりすぎず、子どもたちの意見に向き合って否定をしないことを意識しています。
ポイント② 大人が子どもに対して探究心を持つ
前田さん:声がけも大切ですよね。子どもが一見「間違った」ことを言う時、その子なりの思考プロセスがしっかりとある。発言に対して「正しい」「正しくない」とバッサリ言うのではなく、その子の思考のどこが改善できるのかを観察する。スコラボでもそんなデザインをしています。
小川先生:僕は簡単そうな問題なのに、子どもたちが「わからない」と言ってきたり、思いがけない間違いをした時には、「なるほど」「そうきたか」と挟むようにしています。正しい正しくないではなく、どんなプロセスでその答えが出て来たか、その子の頭の中を知ろうと意識を向けます。子どもに対して探究心を持つことって大事ですよね。
大人が正解の世界にいて〇×を付けるだけだと苦しくなってしまいますが、「何があった?」「なるほど!」と考えると、子どもへの理解が深まると思うんです。
ポイント③ 雑談をしながらその子を観察する
前田さん:スコラボの講座でも、子どもたちがどうやって考えているのかには意識を向けています。たとえばざっくりとした質問にハキハキ答えられる子もいれば、曖昧なところがあると考え込みすぎてしまいすぐに答えられない子もいますから、少人数での講座では、雑談しながら彼らの様子を観察しています。
小川先生:雑談は大事ですよね。その子が乗ってくる世界でおしゃべりをしてやればいいんです。何を思い悩んでいるかを「大人が観察する」「待つ」を組み込むこと。大人に必要なのは「待つ勇気」です。
前田さん:受験の学びは最大公約数なので、「実はこう思っている」といった個性は無視されがちです。だから、せめて親は子どもの個性や考えが見られる立場でいてあげたいですよね。
小川先生:ところが今は“親塾”というワードが使われていたり、受験勉強にビジネス上の感覚と手法を当てはめているご家庭も多いんです(どこまでできるようになったか、解いたかなどの結果をKPIにするなど)。子どもという存在への理解や尊重が欠けている印象です。お子さんの勉強を見る際は、本人のやりがいや満足度、その子の自信がどれだけ育ったかをそこに盛り込んであげたらいいと思います。結局は幼児期をどう見守っていくか、その子が本来持っている可能性をどういかせるかが大事になってくるんですけどね。
ポイント④ 信頼できる教育アドバイザーを持とう
小川先生:あとは、「わが家としてどういう学習設定でいくか」を作っていくことも大切です。大手塾のモデルをコピーしたり、素人の成功事例をタスクとして真似したりするのは、「そこの子の気質とわが子がかぶる」「親としてもマインドがかぶる」ならいいと思いますが、鵜呑みにするのはちょっと危険です。
前田さん:世の中にHOWは溢れているけどその子にとってのベストはわからないですからね。
小川先生:そうなんです。親としても自分のことはまだわからないことばかりですから、それを気付かせてくれる第三者の存在は欲しいところです。
前田さん:その人の子には合っているやり方をわが子が真似してもとつぶすこともありますし難しいですね。アメリカの有名な会社の優秀な社長ですらコーチングを受けているので、多くの人にもコーチ的な存在は役立つはずです。
小川先生:日本はカウンセリングに対して相対的に理解する機会が少ないから、受験と探究を別物にとらえがちなんだと思います。親子で一緒に気付いたことを深めてみたり、学び直しをしていけばいいですよね。そのためには、今後はスコラボさんのような存在が親子へのメンターとしての活躍も広がっていくといいですね。
前田さん:そうですね。スコラボを通して、私たち大人も自分自身を探究する姿を子どもたちにどんどん見せていこうと思っています。
探究と受験がいい悪いではなく、どの段階でも「何をしたいかどうなりたいか」を考えることが、なりたい自分になって幸せにつながるんですね。探究について改める考える機会になりました。ありがとうございます。
SHINGA FARM(シンガファーム)編集部が執筆、株式会社 伸芽会による完全監修記事です。 SHINGA FARMを運営する伸芽会は、創立半世紀を超える幼児教育のパイオニア。詰め込みやマニュアルが通用しない幼児教育の世界で、毎年名門小学校へ多数の合格者を送り出しています。このSHINGA FARMでは育児や教育にお悩みのご家庭を応援するべく、子育てから受験まで様々なお役立ち情報を発信しています。
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