就学前からでも自宅で一緒にできる!!アメリカ理系教師に聞く「早期STEM教育の始め方」/前編
STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)教育という言葉を耳にするものの、一体どう取り組めば?と思われる方も多いのではないでしょうか。
STEM教育を幼い頃から始めるヒントは日常生活のなかにたくさんあり、字を書けるようになる前の年齢でも取り組めることはたくさんあります。多くの親御さんは、日々子どもと過ごすなかで自然と行われることが「STEM教育のベース」となることを意識していないようです。
では、それらをどのようにして結びつけ、導いていけばいいのでしょうか。今回、7歳と3歳を持つ2児の父であり、アメリカの高校で建築・エンジニアリング・ロボティクスのクラスを教えているパトリック・スレーター氏に話を伺いました。
目次
「ジェンダーレス化」と「興味」への理解
まず、STEM教育を日々に取り込んでいく際、日常的な子どもへの対応をどのようにするか考えて見ましょう。この教育の重要さに目を向け、学習に取り込ませようとする家庭の多くは、男女の差別化をしない傾向があります。
「男の子(女の子)だからおもちゃはこれ、色はこれ」というのがよくある考え方ですが、それは単なる大人の固定概念にすぎず、そもそも、小さな子どもたちはジェンダーの意識が低いものです。
ですから、声をかけたり子どものものを選ぶにしても、過剰な男女差をつける必要はないでしょう。
例えば、ある家庭はSTEM分野で女の子の活躍を期待し、女の子に率先して「車や電車、ロボット」のおもちゃを与えたり、また別の家庭では、優しい男の子を育てるためにと「人形やおままごとセット」を与える親も多くいます。
さらに大切なことは、それぞれの「子ども」が何に興味を示すか、示しているかを親がきちんと把握し、興味の対象を広げながら導いてあげることです。
もし自分の子どもが車好きなら、一歩踏み込んでギアやエンジンの仕組みを考えるきっかけや対象を与えて見るとか、生き物が好きなら、種別や生息地、骨や内臓のような体の構造を調べたり観察する機会を与えたりするなど、シンプルな子どもの興味からその先にある奥深い世界へ、さりげなく親が誘導してあげるのです。
「科学・数学の基礎」へのイントロダクションは日々の生活から
一般的に、大学受験や将来の職業を視野に入れてSTEM教育を考えると、多くの人はテクノロジーとエンジニアリングに重きを置きがちです。しかし、その分野で成功するためには「STEMのコンセプト」を理解し、科学・数学の基礎を理解していることが非常に重要となってきます。
STEMの各分野はそれぞれが密接に絡み合っているため、科学と数学の基礎なしに高度なテクノロジー、エンジニアリングを理解することは大変困難なのです。
小さな子どもにとって、科学や算数のコンセプトを理解するきっかけとして、まずはキッチンが絶好の場所となります。
子どもは母親と一緒にお菓子作りや料理をしながら、材料を計る・混ぜる・お湯を沸かす、といった化学ラボでの実験につながる作業、そして、それに対する安全な取り組み方を身に付けていきます。
また、熱いオーブンに入れたドロドロの生地が、ふわふわのケーキに出来上がっていく過程を目にして、知らず知らずのうちに「化学のコンセプト」に慣れ親しんでいくのです。
ここで、「美味しそうなケーキができてきたね。」で終わらせず一歩踏み込んだ「声かけ」が、子どものさらなる思考と想像力を高めます。例えば、どんな風に生地が変化するか? なぜそうなるのか? などへ目を向けさせ「観察」や「考える機会」を与えてあげましょう。
そのとき親も、熱の作用で生地が変化する理由をうまく説明できなければ、一緒になって調べればいいのです。子どもとともに好奇心を持ち、解決の糸口を作る意識と作業が大切です。
また、小さな子どもにとって、レシピ通りに材料を測ったりする作業は、数字の概念や算数の基礎を自然に学ばせ、理解する絶好の機会とも言えるでしょう。
視覚を利用して「数字の概念」を学ぶ
実際に、子どもが足し算や引き算に取り組むようになったとき、ドリルなど数字を見ながら頭で計算する練習は確かに必要です。
ただし、小学校で10単位のブロックなどが使われることが多いのと同様に、最初は視覚で確認できるようにすることが必要です。
数字の意味が理解できなくても、視覚を使うことによって「多いか、少ないか?」という感覚は、かなり小さな子どもでも理解しやすくなります。
ただ数字を覚え計算できるだけでは、その先にあるテクノロジーを理解し発展させることが難しくなるのです。
例えば、筆者の家では足し算や引き算を始めた際、6面のサイコロを2つ使っていました。子どもにサイコロを投げさせ、2つの数で足し算や引き算をさせます。
上達して1〜6まででは数が足りない時は、サイコロの数を増やす、10や12面のサイコロを加えるなど応用もできます。
かさばらないので常に持ち歩き、足し算や引き算ができなくても、数字の概念や慣れ親しむツールとして使うことができるでしょう。
目の前にある「日常」をゲーム感覚の算数に変える
また、文章問題に慣れ親しむ基礎として、日常の景色から算数の問題を作り問うことも良いでしょう。
例えば、電車に乗ったら「この車両には女性が15人、男性が7人います。どちらが何人多いかな?」とか、買い物なら「今晩のデザートにチョコレートを買いましょう。家族5人が1人3個ずつ食べるには何個買えば良いかな?」など、日々生活のなかに算数の問題を考える機会は多くあります。
子どもに問題を作らせて親がチャレンジできるよう促すのも、子どもの競争心を刺激して一層ゲーム感覚に楽しさが芽生えるでしょう。
そして、年齢が上がるにつれ文章問題も複雑になっていくので、「読解力」向上に向けて毎日、少しずつでも一緒に本を読みましょう。計算ができても、読解力がなければ問題を解くことは不可能です。
バラエティに富んだ本を選び、フィクションとノンフィクションを混ぜたりしながら、読んだ後にどんな登場人物がいて、場所は、ストーリーの内容は、といったことを子どもに説明させます。正確に理解しているか、説明できるかも確認しましょう。
「National Geographic Kids(英語本)」 などの子ども向けサイエンスマガジンは、普通の本にあまり出てこない語彙も多く、親自身も知らない野生動物や自然界の豆知識が豊富に盛り込まれているので、親子で楽しむことができます。
まとめ
このように毎日の生活が、STEM教育の場として応用することができます。何気ないものが親の理解と導きによって、すべてが「学び」に取って変わるのです。
「STEM教育!」と肩肘張らずに、子どもと親が過ごす時間を楽しみ、親として興味を持ちよく子どもを観察することを忘れないようにしましょう。後編でも、日常から親がすべきことや意識することなどをお伝えしていきたいと思います。
参考リンク:
PATRICK SLATER
NATINONAL GEOGRAPHIC KIDS
AMERICAN MUSEUM OF NATURAL HISTORY
National Museum of Mathematics
Libery Science
国立科学博物館
日本科学未来館
MEGA WEB
EARLY CHILDHOOD RESEARCH & PRACTICE
Wikipedia「Lilian Katz」
BOSTON CHILDREN’S MUSEUM「STEMGuide」
American Academy of Pediatrics「American Academy of Pediatrics Announces New Recommendations for Children’s Media Use」
Scratch
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