全米トップ10に入る「超名門私立校」の授業を特別取材!「できる子ども」が育つ「秘訣」を紐解く!!【後編】
キンダーから始まる一貫教育で、将来を見据えた教育で子どもたちを教育していく「名門私立校(インディペンデントスクール)」。今回は、前編に引き続き実際の授業内容と、名門私立校が家庭の取り組みと併せて「できる子ども」に導く方法や、その考え方を見ていきます。
そして、アメリカの名門校の教育方法や方針が、子どもをどのように「育てていくのか」、日本の教育と比較しながら、我が子の教育に活かす手立てとしていただければと思います。
目次
学習科目における実際の内容③『Science(理科)&Social Studies(社会)』
理科では天体の仕組み・人間や動物の体の仕組み・自然災害・食物連鎖・光合成などを学びます。また、1年生の社会では世界の国々の場所(地理)と民族の歴史(世界史)について、1年かけて地域ごとに学んでいきます。
例えば、オーストラリアを学ぶときは「アボリジニ」という民族のこと、アメリカ大陸なら「ネイティブアメリカン(インディアン)」のことを学びます。
2年生では家族の形や自分のルーツなどにも学びが広がります。ここでは、黒人の父親と日本人の母親を持つ家庭で育った子の本を読み聞かせ、肌の色や人種・文化の違いを話し合っていました。
また家族構成について、核家族やシングルマザー・ファザーの家庭、祖父母と暮らすおうちなどを題材に、どう考えるかを質問し意見を交わし合います。
1、お父さん、お母さんの仕事は何ですか? また、どんな家事があって、どんな風に分担していますか?
2、女性や男性は一人で赤ちゃんを産むことができますか?
3、一人の親が子どもを世話するためにどれぐらいやることがありますか?
このような質問が先生からされ、一見、2年生に難しすぎるのでは? とも思いましたが、子どもたちは考えて発表します。こういったトピックの授業は、今後の人種・男女・貧富などを考える際に必要と言える内容でしょう。
さらに差別に関して戦った、ローサ・パークス、マーティン・ルーサー・キングJr.やリンカーン大統領のことなども学んでいきます。
Science & Social Studiesのまとめ『プロジェクト』
理科と社会の授業のまとめとして、その単元終了時に、子どもたちは「プロジェクト」と呼ばれる物に個々で取り掛かります。
まず、自分が学んだ単元で最も興味のあるものに焦点を当て、確実な文献から得た知識を引用するため、本や博物館、インターネットなどでリサーチをします。その後、図画工作と組み合わせた手法でボードに絵と共に説明を描いたり、立体にしたりして作ります。
1年生は工作ですが、年齢と共にパソコンの「パワーポイント」を使う選択肢も与えられます。できたプロジェクトをクラスでプレゼンテーションします。
自分で題材を決めて・調べて・まとめて・形にして発表する。この取り組みも、自分の意志を主張するために役立つ授業であり、人前で発表することで自尊心を高め人の発表を静かに聞くことで、聞く力やほかの人のアイディア・意見を知り、受け入れることを学びます。
学習科目における実際の内容④『Physical Education(体育)』
学校がビルのなかにあるニューヨークでは敷地が狭く、フィールドトラック付きのおおきな校庭やプールがありません。さらに、跳び箱・鉄棒・幅跳び・マット運動などの種目も一切ありません。
身体を動かすこととして、ゲームやダンスをしたり体育館で出来る球技が主です。学校であまり供給されないスポーツは習い事として、アイススケート・テニス・野球・スイミングなどをする子どもたちが多いのが実情です。
これに関しては日本の方が、学校に校庭やプールがあり、しかも色々なスポーツが体験できルールも覚えられるので、非常にうらやましい点です。
学習科目における実際の内容⑤『Music(音楽)』
2年生は合唱、3年生からは合唱と好きな楽器を選び、年間を通して学びます。
人気の楽器は、サックス・トランペット・フルートなどの金管楽器、バイオリン・チェロなどの弦楽器、その他クラリネット・木琴・リコーダーなど。既に持っている人もいれば、購入する人や楽器屋さんからレンタルする人もいます。
みんなが同じピアニカやリコーダーを使ってやらないことや、選べる楽器の幅が広いことは日本とは違った魅力とも言えます。
ニューヨークの公立学校は授業料が無料ですが、音楽・美術・体育の授業は、州によっては必修科目ではないので、予算や寄付が足りないと削られることがありますが、私立では授業料が高額な分、そういったことはありません。
また、放課後のアフタースクールでは、サッカー・フェンシング・ラクロスなどのスポーツ系や、チェス・レゴなどの頭脳系、折り紙・剣道・柔道などの日本発祥のものなど、学校によって幅広く揃えられ、子どもたちに体験させてあげることができます。
学校側から保護者への的確なアドバイス
名門私立校では、授業自体も生徒同士を競わせるというものではありません。毎月送られるニュースレター(学校通信)には、親の指導に対し、的確なアドバイスが記述されています。
このようなアドバイスは家庭での親子の成長を後押しし、学校側が家庭での取り組みも教育の一環として大事にしていることが伺えます。「できる子どもを育てる」ために、学校と親の協力がいかに必要であるかを気づかせてくれるものです。そのなかから、いくつか見てみましょう。
「Gender Role(男女の役割)」に関する概念
ここ数年、男女差別に関して見直しが図られているニューヨークでは、教育現場も同様です。『子どもたちが育つ環境で、社会における男女の役割や性によるステレオタイプの決めつけは控えてください』と注意を受けます。
現在は、ジェンダーが曖昧な人たちも認められてきている世の中であり、時代に添った指導と言えます。
『男の子なのだから泣かないの』という言葉を、日本でもアメリカでもよく耳にします。しかし、英語には「Crying」と「Whining(ワイニング)」という2つの言葉があり、前者は「泣くこと」、後者は「めそめそと泣き声で要求を訴えたり、駄々をこねること」を指します。
泣きたいときに泣くことは男女関係なく許されるべきで、『ワイニングはやめなさい』と注意するのが一般的です。
また、『女の子らしくしなさい』という言葉も同様で、男女ともに行儀よくするべきときは同じなので、『男の子だから、女の子だから』という性差をつけた表現を避けます。
その他においても、男の子が電車・車・機械に興味があるのが当たり前、女の子がお人形・お洋服・おままごとが好きなどと言った固定観念を捨て、ジェンダーレスに幅広く体験させてあげることを勧めています。
女の子が野球や柔道をしたり、数学やチェス・エンジニアリングが得意、男の子がファッションや可愛いものが好きだったり、料理や掃除が得意なこともあります。これは子どもたちが成長したとき、家庭での家事分担を考えるベースにもなるのです。
男が外で働き、女が家で家事や子育てという、一般的な男女の役割分担はすでに過去のものとなり、女男ともに外で働き、掃除や料理、子どもの送り迎えも男女で行いう欧米社会は、これら「教育の賜物」と言えるでしょう。
電子機器の扱いに関して
意識が高い名門私立校では、パソコン・スマートフォン・ゲーム機器などの制限と監視下での使用を勧めています。
「シュタイナー教育」程ではないものの、電子機器が子どもたちに与える影響は多大で、目にも悪影響を及ぼしたり、クリエイティビティ・やる気などを失わせる原因となってしまいます。
特に低学年の場合、自分で管理できず際限なく続けてしまうので、1日30分~1時間などの制限を作り、きちんと守らせることが大事としています。
子どもたちが電子機器を使う間は両親の自由時間ではなく、側で時間を測ることを習慣化し、親子で制限時間を意識するべきなのです。
いじめ、カンニングや授業妨害に関して
どんな理由があろうと、いじめ(インターネットやスマートフォンをつかったサイバーいじめも含む)やカンニング、授業妨害、程度を越えた生徒同士の喧嘩などの問題が起きた場合、校長へすぐに報告、事実調査を行ったうえで保護者呼び出し、当事者への厳罰が下されます。
そして、レターにも『気づいた方は、すぐに学校側へ報告してください。しかるべき対応をとります』という通達も来ます。
日本で問題になっているような、見て見ぬふりや責任逃れなどをせず、学校側の対応がしっかりしている部分は安心できるものです。
まとめ
名門私立校では将来を見据え、教育カリキュラムが組まれています。学校で必要スキルを身につけ学びを活かし、未来で希望の職業につけるようにする「人材育成」として、小学校からすでに始まっています。
読み書き・話す・知識・計算というのはベーシックな学びであり、それに加え、どんなトピックでも自分の意見をしっかりと持ち、主張できることがアメリカ社会では求められます。
名門私立校は学費が高額ですが、その分、よく練られた教育を継続的に行い、社会で自立し未来を切り開いていける教育を行っていると考えれば、金額の価値も変わってしまうかもしれません。
世界35カ国に在住の200名以上のリサーチャー・ライターのネットワークをもち(2017年12月時点)、企業の海外での市場調査やプロモーションをサポートしている。