「国際バカロレア認定校」とは? 注意点やメリット・デメリットを解説
「国際バカロレア教育」をご存知でしょうか。日本ではまだまだなじみのない教育システムのため、ネットで調べてもわからないことが多い方も多いと思います。そこで、一般的な国際バカロレアの情報に加え、実際に通う生徒たちの声も交えながら、その仕組みや魅力などについてお伝えしていきます。
目次
国際バカロレア教育とは?
国際バカロレア教育とは、スイスのジュネーブに本部がある「国際バカロレア機構」が提供する国際的な教育プログラムです。
英語での呼称がInternational Baccalaureateなので、IB(アイビー)という通称で呼ばれています。
国際バカロレアの教育課程は3段階に分かれていて、
PYP(Primary Years Programme):3~12歳
MYP(Middle Years Programme):11~16歳
DP(Diploma Programme):16~19歳
と一貫した教育を途切れなく受けられるようになっています。
ここ最近、日本でも国際バカロレア認定校が増えてきており、2024年6月30日時点で、
PYPの認定校が65校、候補校が48校
MYPの認定校が39校、候補校が17校
DPの認定校が69校(うち日本語DP35校)、候補校が10校
世界的に見れば、国際バカロレアの言語は英語がメインですが、日本の高校でのDPは日本語で受けられるところも約半数あるのが特徴と言えます。
出典:文部科学省IB教育推進コンソーシアム(2024年10月11日時点)
国際バカロレア教育を受けて気づいた7つのこと
私自身、IB生の親として入学してから知ったことが多々あったので、経験者目線での情報をまとめました。
その1 全カリキュラムを受けなくても大丈夫
国際バカロレア教育は、たとえば、PYP、MYP未経験の子でもDPのプログラムを受講しているというように部分的にとることもできます。
帰国子女の子が日本に戻り、そのままPYPやMYPを継続するケースも多いと思いますが、いったんは地元の学校に通い、高校受験でDPを実施している学校を受ける子、日本育ちの子が独学で英語をマスターし、高校でDP認定校を受験する子もいます。
その2 国をまたいでも問題ない
もともと国際バカロレア教育は、外交官などの海外転勤の多い家庭向けに、“どこに行っても質の高い一貫した教育が受けられる”ように開発されたプログラムですので、どこの国でも同じ教科書で同じように授業が進むイメージです。
日本の場合、4月入学なので、数ヵ月早く進行しますが、学年でこなすカリキュラムは同じなので、転勤族にはありがたい仕組みと言えます。ただ、国際バカロレア教育のハイライトであるDPプログラムの最中に転校するのは避けるべきです。
転校先で同じ教科選択ができるか、時間をかけて取り組んでいるプロジェクトをそのまま持って行けるかなど、DPを受ける際には、卒業までいられる学校を選択しておくことは大事なポイントです。
その3 人としてどうかが問われる「全人的教育」である
国際バカロレア教育の認定校に行くと必ず貼ってあるのが、「10のIBの学習者像」です。
探究する人・知識のある人・考える人・コミュニケーションができる人・信念を持つ人・心を開く人・思いやりのある人・挑戦する人・バランスのとれた人・振り返りができる人
これを見てもわかりますが、国際バカロレア教育はバランスのよい人間を目指しており、実際に子どもを見ても、多岐にわたる経験をさせてもらっているのを感じています。
その4 学費は幅がある
気になる学費ですが、日本においては学校によってかなり幅があります。というのも、国際バカロレア教育を受けるにあたり“プログラム料”がかかるというものではなく、その学校の学費によるためです。
傾向としては、インターナショナルスクールは学費が高く、次に私立校。また最後のDPになると、公立高校も実施しているところがあるので、そこであれば一般的な公立高校の学費分になります。
その5 高3のときに集大成となる最終試験がある
最近日本の大学でもIB受験できるところが増えてきていますが、これはDPの2年目(高3)で受ける最終試験の点数を大学側に提出し、受験をするということです。
国際バカロレア自体は、幼少期から始まる長い過程ですが、IBを取得するには、DPの2年間がマストで、それを終えて最終試験に合格する必要があります(45点満点中24点以上)。
その6 高校卒業後の進路が広くもあり狭くもある
国際バカロレア教育は、国際的に通用する大学入学資格です。日本でもIB受験できる大学は増えてきていますが、まだまだ限られているので、基本的には“海外大学に行きたい人向けの資格”と言えると思います。
中には、「日本の大学受験もしたい」と考えている方もいるかもしれません。
しかし、DPの2年間は相当ハードなので、日本のテスト対策と同時進行させるのは無理があると思います。よって、DPを選ぶ段階では、将来の進路を視野に入れて選択する必要があります。
その7 高1の段階で大学の専攻をほぼ決める必要がある
DPのプログラムは2年間(高2・高3)です。その2年間に受ける授業内容は、自分が進みたい大学に基づいて選ぶのですが、大学によっては科目と受講レベルを指定しているところがあります。
DPを受ける前の高1の段階で、将来進む大学の募集要項に沿った科目選択をするのはなかなか難しく、子どもたちも親も頭を抱えてしまうことが多いのです。
国際バカロレア認定校ではどんな学びをするの?(体験談)
ここまでは親側の視点でお伝えしてきましたが、今回は、現在DP真っ最中の高校生4人にリアルな声を聞いてきました。まずはIBのDPについての予備知識から。
最後の2年の過程DPでは、
言語(母国語)
言語(外国語)
社会(地理、歴史、経済、ビジネス、心理学などから1つを選択)
理科(生物、化学、物理、コンピュータ科学などから1つを選択)
数学(2つから1つを選択)
芸術(社会と理科の教科を置き換えも可能)
上記の6科目を選び、そのうちの3科目をHL(ハイレベル)で、残りの3科目をSL(スタンダードレベル)で受講します。
HLの方がSLよりも高度な内容であり、授業数も1.5倍あります。最終試験では、HLもSLも各科目が7点満点で評価され、6教科の満点は42点になります。これに加え、EE、TOK、CASという3つのユニークな取り組みがあります。
課題論文(EE):個人研究の成果を論文としてまとめていきます。基本的にはHLの教科から1つを選び、研究を進めていきます(英語で4,000語、日本語だと8,000字)。
知の理論(TOK):知識の本質とはなにかを学ぶ教科で、「正解があるものが好き」「白黒はっきりしたい」という日本人の特徴と対抗するような内容でありますが、多様性へと動く世界に必要な感覚を身につけられる国際バカロレア教育らしい授業です。
創造性/活動/奉仕(CAS):ボランティア活動のような奉仕活動は日本ではまだまだ高校生に定着していない部分だと思いますが、国際バカロレア教育の色味が強い科目と言えます。
このように、いわゆる“授業”にだけフォーカスするのでなく、「人としてどうか」という全人的教育に重きを置いているところが、IBらしさであるように思います。
IB生の親として、「いい経験をさせてもらっている」と実感する部分でもあります。
今回は都内の高校でDPを受講中の仲良し4人組に話を聞きました。Girly Samurais(ガーリー・サムライズ)という名前でボランティア団体を立ち上げている活動的な女子4人組です。
子ども食堂を手伝うガーリー・サムライズのみなさん(画像提供:佐藤めぐみさん)
Q. 授業は日本語の授業以外はすべて英語とのことですが、英語力は?
国際バカロレア教育というと、帰国子女ばかりと思う人もいるかもしれませんが、日本で生まれ日本で育った日本人もいれば、日本育ちの外国人もいます。
「高1だと英検で言うと2級くらいでついていけると思いますが、DPになると準1級、1級レベルあった方がクラスのディスカッションに入るのが楽になります。ただ、1年生のときの英語力と比べると格段に伸びているのがわかるので、毎日の積み重ねが大事なのかなと思います」
Q. 英語の伸ばし方は?
「日本で暮らしてきた人にとっては、英語を中3までにどう伸ばすかがカギになりますが、私は英検が役立ったと思います。でも実際に高校に入ると、読む、書く、聞くはできても、話すのが難しいと感じました。高1のときに、授業だけでなく、友だちとの会話でも会話力がものすごく伸びたと感じています」
「英語ができればOKではありません。DPの授業は課題も多く、時間管理の力が求められます。どのくらい頑張れるか、どこまでやりきれるか、と自分との勝負でもあります」
ユースサミット2024での英語プレゼンテーションの様子(画像提供:佐藤めぐみさん)
Q. 国際バカロレア校を選んだ理由は?
「進学先の選択肢をせばめたくなかったからです。中学校時代はまだ夢が決まっていなかったので、海外大学と日本の大学の両方の選択肢をとっておきたかったのが理由です」
「学校見学に行ったときに、先生と生徒の距離感が近く、少人数での授業が自分に合っていると思いました。通ってみると、先生がテーマを投げ、生徒間、生徒・教師間のディスカッションを経て、新しい知識に達する感覚がとても心地いいです」
Q. DPをやってみての実感は?
「DPのプログラムは、やりたい科目だけを存分に打ち込めるのが魅力です。どれだけつらくても、自分がやりたいことをやっているという自覚のもとで学べています」
「以前は、あまり好きでない教科がある日は朝のテンションが下がりがちでしたが、今は大変であっても好きな教科なので、毎朝快調です」
「EE(課題論文)、TOK(知の理論)、CAS(創造性/活動/奉仕)の3つは、国際バカロレアをやらなかったら触れなかったと思うので、他とは変えがたい学びができているなと日々感じています」
CASの課外活動では学校帰りに畑で野菜を収穫し子ども食堂へ(画像提供:佐藤めぐみさん)
Q. DPの課外活動で得たもの、嬉しかったことは?
「“ガーリーサムライズ”というチームで“フード・ブリッジ(食べ物の架け橋)”を作ることをミッションとして活動しています。具体的には、子ども食堂と企業や飲食店のフードロスをつなぐのがメインの活動です(https://foodbridge.gicz.tokyo/)。その頑張りが認められて、先日行われた『社会課題解決アイデアコンテスト・ユースサミット2024』で最優秀賞を受賞できたのは嬉しかったです」
「はじめは国際バカロレア教育の課外活動の1つとして始めたフード・ブリッジでしたが、人として成長できたねとよく話しているんです。グループ内の連帯感、自分たちがリーダーになってやるという経験、目上の方とのコミュニケーション力、社会に出てそのまま使えるビジネススキル、など得たものは数えきれません」
授業もさることながら、このような活動に国際バカロレア教育の全人教育的な精神が伝わってきます。授業の一環を超えた取り組みも、勉強ばかりではないDPらしさと言えそうです。
国際バカロレア教育を導入した「開智望小学校」の魅力とは?
最後に、私立小学校でも早くから国際バカロレア教育を導入している、開智望小学校についてご紹介します。お話を伺ったのは、広報部の竹川理和先生です。
__開智望小学校の国際バカロレア教育の経緯を教えてください。
2015年の開校当初よりプログラムを取り入れ、2018年3月に国内2校目となる初等教育プログラム(PYP)認定校となり、2022年12月に中等教育プログラム(MYP)認定校、24年1月にディプロマプログラム(DP)認定校となっています。
2024年4月に新設された開智所沢小学校でも同様の国際バカロレア教育を予定しています。
__開校して9年が経ちますが、国際バカロレア教育に関してどのような手ごたえを感じていらっしゃいますか?
PYPの最終学年である5年生は、プログラムの集大成としてExhibition(5年間の探究学習の発表会)に取り組みます。
半年以上かけてさまざまな検証を行って自らの疑問への答えを導き出す姿や、学んだことを活かしてアクション(誰かや社会のためになる行動)する姿や、自信を持って発表している姿は、この学校での学びの成果だと感じています。
また、普段の「探究」の授業の中で、教科の枠をこえて身近なテーマに取り組んでいることが、その成果の一助になっていると思います。
__音楽や図画工作でも英語を用いた授業(CLIL教育)、英語探究クラスなど、1年生から合計週10時間の英語活動があるそうですが、英語が未経験でもついていけますか?
本校では、「英語」・「Art」・「Music」を合わせた週5時間の英語学習に取り組んでいますが、「楽しく学ぶ」ことを大切にしているため、初めて英語を学ぶ子でも大丈夫です。
もちろん、英語が自然に使える環境にいる子どもたちには、「英語探究クラス」を設置し、週5時間の英語学習に加えて、週5時間の「探究」を英語で学習しています。
__開智望小学校では、どのようなお子さんやご家庭を求めていらっしゃいますか?
人のため、社会のために学ぶために、自分の得意を自覚し、粘り強く努力を続けるお子さまを求めています。
開智望小学校の探究の学びについて、詳しくはこちらの動画をご覧ください。
育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/
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