教科書がない!?真の国際人を育てる香港インターナショナルスクールのカリキュラム「IPC」とは
アジアの国際都市・香港。さまざまなバックグラウンドの人々が暮らし、子どもたちが通う学校の選択肢も幅広くあります。
広東語もしくは英語で授業が行われる公立学校、アメリカ、フランス、イギリス、スイス、オーストラリアなどのインターナショナルスクール、イギリス植民地時代にできたイギリスのカリキュラムが導入されている英語の学校ESF(English School Foundation)など、各家庭や子どものニーズにあわせて選ぶことができます。
あるインターナショナルスクールに通う児童のカバンには、お弁当と連絡帳とフォルダだけで、教科書が入っていません。なぜかというと、教科書というものが存在しないからです。
この学校が導入しているのは、IPC(International Primary Curriculum)という、教科書を使わない学習法。今回は、バランス感覚のとれた国際人を育成するというIPCをご紹介します。
目次
世界90か国1,800校で採用されているIPC
IPCは、1980年代にイギリスのナショナルカリキュラムをベースに、世界中にあるインターショナルスクール向けに開発されました。わかりやすく、テーマ別にクリエイティブな学習アプローチをとり、学ぶことは楽しいことだと児童が感じるカリキュラムになっています。
テーマ学習では、ひとつのトピックを6週間かけて、理科、地理、歴史、社会、技術、美術、国際といった複数の観点から深く掘り下げて学習します。
「環境」のテーマでは、全校生徒がバスや車を使わずに歩いて登校する「グリーンウォーク」を行います。その日は制服でなく、緑の服を着用します。
「建物」のトピックでは、校外学習で香港のスカイラインを見学し、芸術の勉強で色の使い方やデザインを学びます。
トピックの数は130以上!年齢別に興味関心にあうトピックを選定
テーマ学習のトピックは、年齢別にその年齢の児童が興味を示す内容の4段階に分かれています。
・年齢幼少期(3~5歳)
・マイルポスト1(5~7歳)
・マイルポスト2(7~9歳)
・マイルポスト3(9~12歳)
の4段階です。
トピックの種類は130以上あり、社会情勢や環境の変化により毎年新しいトピックが追加され、先生がその学校環境にあったものや時期的に該当するもの(オリンピックなど)を選びます。
トピックの例として、年齢幼少期は「自分」や「家族」、「食べ物」など身近なもの、マイルポスト1は「建物」、「お祭り」、「植物」などがあります。
マイルポスト2になると、「チョコレート」、「冒険家」、「火山」、「世界を変えた発明」など成長とともに内容も高度になり、マイルポスト3では「動く人」、「資源」、「気候」など自分たちが住んでいる世界について、深く考え、理解することになります。
どのトピックにも、国際的マインドセットと自己学習達成ゴールが設定されています。
児童に大人気のトピック!「チョコレート」の学習アプローチ
チョコレートのトピックでは、味や包装デザインが好きなチョコレートを持参します。自分の出身国のチョコレートを持ってくるオーストラリアやニュージーランド人の児童もいます。基本的にピーナッツ類は学校に持って行くのは禁止ですが、この日は特別です。
ではひとつのトピックを例に、具体的にどのような学習が行われているのかを説明しましょう。どの国のどの児童にとっても大好きなトピック、「チョコレート」の学習例です。
まず、歴史学習では、いつごろ誰が最初にカカオを発見したかを学びます。理科学習では、チョコレートの成分や、甘いものと虫歯の関係などを学習。国際・社会・地理学習ではチョコレートのフェアトレードについて勉強します。
美術学習では、自分でチョコレートの包装をデザイン。技術学習では、ナッツやココナッツ、コーンフレークなどを入れて新商品を開発します。この授業では各自チョコレートを持参し、みんなが持ってきたチョコレートの味や包装デザインを参考に、自分のオリジナル商品のチョコレートを作ります。
このように、「チョコレート」という児童に身近なトピックを起点に、さまざまな教科から掘り下げ、学びを深めていくのです。
学習方法は、PCでリサーチする個人ワーク、また、情報を共有しグーグルドキュメントを使って共同作業するグループワークがあります。どのトピックも、最後はクラスや学年、ときには全校生徒を前にプレゼンというアウトプットで終了します。
30か国以上の国籍をもつクラスメイトのなかで、一人ひとりがアイデンティティを形成し国際人に育っていく
香港のインターナショナルスクールには、肌、髪、瞳の色や国籍、人種が異なる児童だけでなく、父親と母親の出身国、そして香港の3つの文化のなかで暮らすTCK(Third Culture Kids)の子どもたちも多く通っています。IPCを導入しているインターナショナルスクールには、30か国以上の国籍を持つ児童が在籍しています。
幼少期の「自分」や「家族」について知ることは、その後のアイデンティティ形成に大きな影響を与えることになるのです。また、自分の住んでいる香港だけでなく、両親の出身国やクラスメイトの出身国についてなども身をもって体験したり、学ぶことを通して、真の国際人に育つことができるのです。
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
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