【フランスの教育事情】音楽クラスでの感性を育てる教育とは?
「自由・平等・博愛」の精神を掲げるフランスでは、公立校の教育においてもこの考えが反映されています。「全ての子どもに音楽教育を」の方針のもと、フランス政府は公立の音楽教育機関と提携して、公立の指定校に「音楽クラス」を設置しています。
今回は、基礎学力を重視しつつ、本格的な音楽教育を通して子どもの感性を育てる機能を担う、フランス公立校の「音楽クラス」をご紹介します。
目次
音楽への志がある子どもたちへ平等に門戸を開く、「音楽クラス」
フランスには、日本の音楽大学に相当する高等音楽教育機関のほかに、全国に40あまりの県立の中等音楽教育機関があります(以下「地方音楽院」)。地方音楽院は、小学生から高校生の6歳以上の子どもを対象に、主に学外活動として本格的な音楽教育を行う機関です。
この地方音楽院がある各都市では、公立の指定校(小・中・高)に「音楽クラス」が設けられています。自治体にもよりますが、本格的な音楽教育が受けられるにも関わらず、学費は基本無料。経済的な負担がかからないため、音楽への志がある全ての子どもに広く門扉が開かれています。
「音楽クラス」の指定小学校は、低所得者層が住む団地から一定数の生徒が在籍している学校を優先的に選ぶ傾向があります。家庭の経済状況などに関係なく音楽への道を開くことは、フランスの「平等」の精神に基づいているのです。また、指定地域外からの越境入学も可能となっています。
楽器の個人レッスンからソルフェージュ、コーラスまで!初心者にも与えられる、本格的な音楽教育
「音楽クラス」が始まるのは、小学校2年時から。小学校の「音楽クラス」は人数制限がなく希望者を幅広く受け入れており、地方音楽院での簡単な面接と小学校1年時の担任の見解によって決まります。(但し、中学以降の「音楽クラス」は定員制となり、地方音楽院主催の実技コンクールを通過しなければなりません。)
「音楽クラス」に参加する生徒の大多数は、全くの初心者としてスタートします。小学校では、週に3時間から5時間の音楽教育が行われます。内容は、専攻した楽器の個人レッスンにソルフェージュ、コーラスの授業があり、2年目からはオーケストラ演習の時間が加わります。
これらの授業は学校の通常の時間割内に組み込まれています。授業は、小学校の校舎を出て地方音楽院へ移動し、音楽を学ぶのに適した整った環境のなかで行われます。
第一過程終了時(小学校卒業時)の卒業試験には、2つの課題曲(クラシックとコンテンポラリー)のほか、初見演奏(試験時に渡された楽譜を10分後に楽器で再現すること)の課題もあります。ここで「良」以上の成績を取らないと第二過程(中学以降)への進級は困難となる厳しい世界です。
音楽教育には、通常授業のない午後の時間が割り当てられるため、ほかの教科に支障をきたすことはありません。一方で「音楽クラス」の生徒のみを集め、一般科目の授業を行って補うこともあります。これらも学校の時間割内で行われます。
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勉学のモチベーション向上や情緒面の豊かな育成も?音楽教育がもたらすメリット
一般科目に後れを取らず、音楽カリキュラムを習得することは、一見子どもにとって大変な負担に思えるかも知れません。しかしながら、特に負けず嫌いの子どもにとっては、自発的に学習するモチベーションへとつながるよい効果を生み出していることも事実です。
実際に小中学校において、一般科目を含めた試験の点数などで成績上位に入るのは「音楽クラス」の生徒たちです。元々学ぶことに意欲的な生徒が集まりやすく、周りが勉強しているから自分も頑張る、という気持ちになりやすい環境であることも関係しています。
そして、地方音楽院の進級及び卒業時の試験準備には、親子一丸となって取り組む姿勢が大事です。楽器を習得するには毎日の練習が欠かせず、特に小学生のうちは家庭での支援が必要不可欠となるからです。
他にも、オーケストラの授業ではクラスの仲間と共に演奏する喜びを感じ、地方音楽院や居住地域で開催される定期コンサートへの参加を通じて、文化活動に貢献している実感を得ることができます。
「音楽クラス」に在籍する大きなメリットは、こうした体験によって情緒面の豊かな育成も期待できることにもあるのかもしれません。
オーケストラの一員として楽器を演奏し、音楽院内で日常的に良質な音楽に触れられる経験は、子どもの感性を育むうえで非常に大切なことであると言えます。同時に「音楽クラス」の生徒は、小学校の段階で勉強と音楽の習得バランスを調整することを覚えていきます。
勉学と芸術の両分野で相乗効果をあげながら、次の段階へステップアップできるよう訓練されていくのです。