スタンフォード・オンラインハイスクール校長、星友啓さんに聞く! 最新脳科学と心理学で、子どもの考える力を伸ばすコツ

スタンフォード・オンラインハイスクール校長、星友啓さんに聞く! 最新脳科学と心理学で、子どもの考える力を伸ばすコツ

東大・スタンフォード大学で哲学を学び、現在はスタンフォード・オンラインハイスクールの校長として世界各国の中高生に指導をしながら、哲学の意義や必要性を発信されている星さん。

今回は著書の『子どもの「考える力を伸ばす」教科書』(大和書房)のご紹介とともに、考える力を伸ばすコツについてお話を伺いました。家庭で4歳からできる哲学も必見です!


星友啓さん
スタンフォード・オンラインハイスクール校長、哲学博士、EdTechコンサルタント。
東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程、Texas A&M大学哲学博士修了、スタンフォード大学哲学博士修了。2016年より現職の校長に就任。その傍ら、教育及び教育関連テクノロジーのコンサルティングも。著書に『スタンフォード式 生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『全米トップ校が教える 自己肯定感の育て方』(朝日新書)などがある。HPでは新刊『子どもの「考える力を伸ばす」教科書』(大和書房)のまえがきを公開中!https://tomohirohoshi.com/
会員制オンラインサロン「学育ラボ」も人数限定で募集中(募集は不定期・人数限定のため、満席の場合はご容赦ください)。https://community.camp-fire.jp/projects/view/221282

スタンフォード・ オンラインハイスクールの中高生に哲学が必修な理由

__スタンフォード・ オンラインハイスクールで哲学が必修な理由とは?

哲学はスタンフォード・オンラインハイスクールでも唯一の必修科目になっています。理由としては、中学生になると小学校で学んだ知識がより広く専門的になっていく一方で、ある決まった見方に偏ってしまいがちな時期でもあるからです。

今の時代、これまでの価値観や世界観がある日を境にガラッと変わったりします。そんな中で、新しいものの見方に適応したり、さらには、新しい価値観やプラットフォームを作り出せるような人材が世界的にも求められています。

哲学は、「自分の当たり前を見直して、新たに価値を作る」学問ですから、深い知識を身につけ始める中高生の段階に最も必要なトレーニングです。アメリカや日本では哲学に本格的に触れるのは大学からですが、できれば早い段階から学んでほしいと考えています。

4歳から1日5分でできる!哲学トレーニング

__4歳でも哲学的思考ができるのでしょうか。

自分の中に「当たり前」がまだない幼児は、ものごとを純粋に見て、発見して、興味を持つため、“小さな哲学者”と言われています。

長年哲学を教えていて感じるのは、「哲学は若いうちから始める方がよい」ということです。4歳頃の「なんで?なんで?」の時期などに、哲学はもってこいなのです。

本書でも紹介していますが、“週に1回5分、4歳からできる哲学トレーニング”として、ゲーム感覚で遊べる「例えば何?」というのがあります。

例えば「赤くて四角いものは何がある?」というお題に対し、どのような答えをいくつ言えるかを見ていくもの。また、「リンゴとメロンは、どこが同じ?」という“同じ探し”ゲームもおすすめです。これらは、多く言えれば言えるほど考える力が備わっている指標になりますが、大事なのはこうした哲学思考をする機会を持つこと。最初は答えるまでに長く時間がかかったり、うまく返せなくても、考えていればOK。

トレーニング次第でどんどん言えるようになっていくはずです。さらに、小学生以降になったら、「どうしてだと思う?」「証拠は?」といった、物事をより深く推測して説明する力を身につけていけるといいでしょう。

わが子を賢くしたいなら「ぼーっとする時間」を確保しよう!

__考える力を伸ばすために必要なことは何でしょう?

本書でも「心のすき間時間は好奇心をアップさせる!」と書いていますが、実は脳科学的には、大人も子どもも、脳を必死に使っている時間だけでなく、リラックスする時間にも、脳の違う部分(デフォルト・モード・ネットワーク)が活性化しています。

ですから、一見何も考えずに「ぼーっとしている」ように見える時間も、バランスよく脳を発達させていくためにはとても大切なのです。特に幼児期は、起きている時間の半分以上は自由時間(デフォルト・モード・ネットワーク状態)が理想的です。

ちなみにアメリカでは、幼児期のしつけや何かを学ばせるといった詰め込み教育は、日本と比べてかなり少ない。もちろん、数や文字といった認知的なエクササイズも行いますが、それ以外の運動や芸術のバランスも組み込まれた多様な体験が設計されています。最近の研究でも、さまざまな脳の部分を刺激して育てることで脳の認知能力の発達にも効果的であるという報告があります。

ごっこ遊びでクリエイティブ脳が鍛えられる!

__幼児期にやっておくといい遊びはありますか?

何か新しいものを生み出すといった想像力(クリエイティビティ)を鍛えるには、ごっこ遊びがおすすめです。

ごっこ遊びは、お医者さん、お花屋さん、アニメのキャラクターと、自分とは異なる立場や気持ちを考えてなりきる遊びです。こうした視点の変換をすることで、自然と相手の気持ちを推測したりする脳の機能であるメンタライジング・ネットワークが活性されます。

この機能を伸ばすことで、クリエイティビティが伸びると言われています。もちろん、ごっこ遊びをする相手との流動的なコミュニケーションもクリエイティビティを伸ばすチャンスになります。

子どもの安定したメンタルが考える力を伸ばす

__考える力と安定したメンタルはどう関係するのでしょうか

子どもにとって、安定したメンタルは何よりも重要です。子どもの脳は未発達なので、落ち着いて理性的に考えることはできません。

例えば、お子さんが感情的になったり癇癪を起した際、その場で注意したり叱る親御さんも多いと思いますが、実はそれは逆効果なんです。「泣いているとき=理性的な機能がストップしている状態」なので、叱っても言うだけ無駄、効果はありません。心理学ではこれを「コネクト&リダイレクト」と呼びますが、まずはお子さんの感情に寄り添って高ぶりを抑えて(コネクト)、落ち着いたら問題を解決(リダイレクト)していきましょう。

ちなみに、子どもの感情が高ぶったときになぐさめるのは、決して甘やかしではありません。子どもは、感情を抑えるのも最初はうまくできません。親御さんが慰めて落ち着かせてあげることで、次第に自分でできるようになるのです。

さらに、子どものメンタルが強くなる一番の要素は、親など最低1人の大人と安心できる関係を持てること。これを心理学的には「愛着理論」と呼びます。特に、人間は愛着を母親に求めるよう脳にコーディングされていますから、それが満たされないと、余計不安定になってしまうのです。

もちろん、その相手は必ずしも母親でなくてもいいですし、周りに悪い影響を与える人がいても、子どもと愛着関係を築けている大人が1人いれば大丈夫です。

将来の夢を1つに決めるよりも、「いつもと違う体験」で視野を広げよう

__小さいうちから、「将来の夢」はあったほうがいいのでしょうか?

幼少期の夢が叶った美談のように、子どもたちに「将来の夢を持とう!」といった“夢なきゃ理論”が今でもはびこっているように感じます。

ですが、最近の研究では、小さい頃から1つの夢を追いかけすぎてきた人は幸福度が低く、離職率が高いという結果も出ています。もちろんそうでない人もいますが、ある種初恋のような“思い込み”に近い部分があるのかもしれません。夢が叶っても、理想と現実のギャップに悩んでしまうこともあるでしょう。

当たり前のことですが、子どもが夢や進路を決めるとき、こどもがこれまでに学んで知っていることが土台になるもの。ですが、ものすごいスピードで社会が変わっていく今の時代、子どもたちは“今なき仕事”に向かってトレーニングしていると言っても過言ではありません。

そのためには、やりたいと思うことを持っているのは大事だけれど、何かあったら変えられるよう、さまざまな可能性も見据えてメンタリティをサポートする必要があります。

たとえ今夢がなくても、どれだけ多様な体験をしてきたかがその子の将来に大きく影響すするのです。多様な体験とは、運動や芸術、勉強だけでなく、環境、人種、文化、ジェンダーにおいて「いつもの感じと違う体験」に触れること。まさに旅行はうってつけだと思います。

__最後に、この本の見どころをお願いします。

学力や知識スキルは学校や塾をはじめとして、サポートしてくれるところがたくさんあります。しかし、それ以外のメンタルや好奇心といった非認知的な能力は学校ではなかなかサポートしきれない、教えてくれない。そういった子供の能力をどうやって伸ばせばいいか分からない親御さんが多いのではないか。

そうした点を、最新の心理学や脳科学の科学的根拠をもとに解説したのが本書になります。

親御さんたちにお伝えしたいのは、「今の子育ては、ここ30~40年の間にどんどん難しく複雑になってきている」ということ。習い事や受験、進路など、やることや考えることが多くて大変な状況です。うまくいかないときには、「私が劣っているから……」などと自分を責めるのではなく「大変な時代だからだ!」と考えてほしいのです。本書に書かれたもので何か気になることがあれば、それを子育てに役立てていただければ嬉しいです。

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