オーストラリアでは幼稚園からプレゼン?スピーチ教育にみる日本との違いとは
欧米、カナダ、オーストラリアなど海外の学校で幼児期から積極的に取り組むスピーチ教育「public speaking」については、近年日本でも力を入れているようです。ただ日本とオーストラリア両国で育児を経験する筆者が感じたのは、オーストラリアではスピーチ教育を通じて「話す技術」だけでなく、「型にはまらない表現力」や「傾聴する」「質問する」など幅広いスキルを学べるということです。本記事では、オーストラリアの公立現地校で毎週スピーチを行うわが子の経験も含め、現地のスピーチ教育について紹介します。
目次
なぜスピーチ教育が大切?
オーストラリアでは幼児期から「public speaking」というスピーチ教育が始まるため、人前で話す練習を重ねるなかでさまざまなことが学べます。スピーチ教育により、子どもたちは、下記のようなスキルを身に付けることができます。
・自分の考えを人に伝える表現力
・相手に伝わるロジックを考えるなかでの論理的思考力
・人前で話すことで自信がつくことによる自己肯定感
いくら素晴らしいことを考えていても、相手に伝える手段がなければただの空想で終わってしまいます。自らの考えや意見を人に伝える表現力・論理的思考力は、大人になった時のプレゼンテーションなどビジネスの場においても役立ちます。さらに、ありのままの自分の意見を人前で話すことで自信がつき、自己肯定感も高まります。
オーストラリアでは幼稚園や学校で学ぶのはもちろん、習い事として「public speaking」を学んでいる子どももいるほどです。それだけ「人前で話すこと」のスキルが重要視されていて、教育的効果が高いと認知されているといえます。
園や学校でのスピーチ教育の具体的な取り組み方
では、オーストラリアの幼稚園や小学校では具体的にどのようにスピーチ教育を進めているのでしょうか。その具体的な方法について見ていきましょう。
<まず「show&tell」から始めるスピーチ>
オーストラリアでは、幼稚園から人前で話す練習が始まります。たとえば、我が子が通う幼稚園では、以下のような場でスピーチを実践させています。
・週に1回は好きなものや家族について説明し、その後クラスメイトからの質問に答える「show&tell」を行う
・毎週月曜日はクラスメイトの前で週末の出来事を話す
・全校集会の運営を園児や児童が行う
好きなものを持参したり写真を見せたりしながら話す「show&tell」は、テーマこそ子ども向けながら形式は立派なプレゼンテーションです。筆者が授業を見学した際、立派に受け答えする子どもたちを見て当初は驚きました。また、全校集会の運営は持ち回りで学年を問わず全生徒が全校生徒の前で話す機会を持てるため、「話す力」と「自信」が身につきます。
<スピーチのテーマ例>
先述の通り、毎週行われる定例の「show&tell」の場では、幼稚園の場合は「自分の好きなもの・こと」「家族」など身近なものの紹介がメインとなります。
・好きなおもちゃ、遊び
・自分の家族
・飼っているペット、飼ってみたいペット など
小学校に入ると、学期ごとに定められた大きなテーマに沿って毎週のスピーチのテーマも決められます。たとえば、小学校1年生のある学期の大テーマは昆虫で、毎週以下のようなスピーチを行いました。
・家の庭や公園で見つけた昆虫について
・好きな昆虫図鑑を自作し紹介する
・昆虫に関するジョークやことわざについて
・家にある材料で昆虫を作って紹介する
昆虫の体の仕組み・生態などについて調べたことを発表するだけでなく、スピーチを通じてアート・クラフトや文学的な要素にも学びを広げていく点が印象的です。
(我が子が作ったバッタに関するミニ図鑑の表紙)
<授業でのスピーチ教育の進め方>
続いては、実際の授業でどのように生徒がスピーチをするのかを紹介しましょう。まず、発表をする人は、大体以下のような流れでスピーチを始めます。
Hello. My name is 〇〇.Today I’m talking about ××.
~(スピーチ)~
Thank you for listening.
Do you have any questions or comments?
最後に、質問や感想を尋ねて応答したうえで、スピーチは終わります。
なお、資料は、自分で用意したものであれば何でも構いません。絵を描いてくる子、写真を持参する子、大人がするようなプレゼン資料を画用紙に書く子、動画を投影する子などさまざまです。型にはまらない思い思いの方法でスピーチするだけでなく、この資料作りを通じても豊かな表現力が培われると感じます。
<「傾聴すること」「質問すること」も大切>
授業では「話すこと」と同様に、「相手の話を聴くこと」「質問すること」も同じくらい大切だと先生が都度伝えています。相手の話を聴くということは、相手に敬意を示すということであり、相手を受け止めるということだと教えているのです。
一般的にスピーチの練習といえば、「話す技術」を身につけるために行うというイメージのようです。しかし、オーストラリアでは、スピーチを通じて話す技術や楽しさを学ぶだけでなく、傾聴して質問や感想を活発に発言することにより、一人ひとりを尊重するのに加えて多様性が醸成されていると感じます。
傾聴したうえで質問が活発に行われる雰囲気により、話し手はさらに話しやすくなります。「public speaking」の場では話し手だけでなく「聴き手」の役割もあるのだということを、オーストラリアの子どもたちは日々学んでいるのです。
まとめ
日本でもスピーチ教育を導入している園や学校が増えていますが、まだ「話す技術」そのものに重点を置いているかもしれません。ただ、スピーチ教育がある程度日本で根付いていけば、オーストラリアのようにテーマを深掘りする力や表現する力、さらに傾聴力や活発に質問する力などを育てる教育がなされていくのではないでしょうか。
また、スピーチ教育の場は必ずしも園や学校だけというわけではなく、家庭でも実践できます。本記事を参考に、家庭で行ってみるのも面白いかもしれません。
執筆/夏目 あい
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。