英国の学校現場における「レジリエンス教育」、年齢に応じた伸ばし方とは?
英国の教育現場において、メンタルヘルス教育の一部として必ず使われる言葉が「レジリエンス」です。義務教育のマニュアルにも、しっかりと教えるべき題材として取り入れられています。今回は英国の小学校と中高等学校のレジリエンス教育に焦点を当て、具体的例を紹介しながら、子どもたちがどのように失敗や挫折から立ち直る方法を学んでいるかお伝えします。
目次
物語やディスカッションで学ぶプライマリースクール(初等教育 )低学年
「レジリエンス」とは、回復力や復元力、弾性(しなやかさ)を表すことばで、ストレスや逆境に負けない力を身に付け、困難を乗り越えていくことを意味します。教科として道徳の授業がない英国の教育現場では、欠かせない教育となっています。
低学年でのレジリエンス教育は、国語(英語)の授業でレジリエンスをテーマにした物語を読み、それに伴うアクティビティによって学んでいくことが多いようです。クラスでディスカッションをしたり、好きな場面をテーマに工作をしたり、自分の好きな登場人物になって、そのキャラクターの視線から物語(作文)を書いたりします。
同時に、先生が子ども個人個人に合わせたレベルでレジリエンス力の伸びを観察しています。たとえどんなに小さい伸びであっても、レジリエンス力が評価すべき値になると、生徒はサティフィケイトと呼ばれる賞状をクラスメイトの前で渡されて表彰されます。
その子のレジリエンス力が表彰された理由を先生がその場で説明することで、ほかの生徒もレジリエンス力について学びます。同時に、クラスメイト全員でその生徒の成長を讃えるなど、生徒たちが自信をつけていかれるようにサポートをしています。
話し合いの時間を設けるプライマリースクール(初等教育)高学年
高学年になると、子どもたちの心も成長し、さまざまな気持ちを表現できるようになります。学校によっては構内に「心のポストボックス」を設置していて、生徒は自分自身や友人の整理できない気持ちや問題について投函し、助けを求めることができます。匿名でも構わず、先生はそれをもとにクラスで話し合いの時間を設けます。
また、生徒それぞれが「ハッピーボックス」を作ることもあります。自分で好きなようにデザインした箱を置き、見たり触ったりすると自分の気持ちがハッピーになるアイテムをそのなかに入れます。悲しい気持ちや辛い気持ちになったときにはその箱を開け、自分の感情を抑えたり慰めたりすることを学ぶのです。
演劇など広い視野から受け止めるセカンダリースクール(中高等教育)
11歳から始まる英国のセカンダリースクールでは、1980年代に導入され週1コマあるPSHE(Personal, Social and Health Education:人格的社会的健康教育)の時間でレジリエンス力について学びます。この授業では体と心の健康や社会的な問題などを学習しますが、評価はつきません。学校外から警察や医療関係者、専門機関の人たちが訪れ、ワークショップなどを通じてより広い視野の中でさまざま問題について学びます。
たとえば、“演劇の国”ともいわれる英国では、学校機関を専門にして旅公演をする劇団があります。これらの劇団は学校内で、いじめや試験のストレスなどをテーマにした演目を本格的なスケールで上演します。劇には失敗やいじめから立ち直るストーリーラインが多く含まれていて、生徒たちはここでも鑑賞という形で、レジリエンスについてのメッセージを受け取ることができます。
レジリエンス力はメンタルヘルスの分野に入りますが、現在セカンダリースクールではとくにこの分野に力を入れています。校内ではアンケートなどが頻繁に行われ、助けを求める機会や自分自身を理解できるような助言を得られる機会を多く設けています。サポートが必要な場合は学校内外のカウンセラーに相談することができ、最近では以前に比べてよりスムーズにできるようになりました。
また、教育関係のチャリティー団体などでは、個人のレジリエンス力の向上に対して賞を授与しています。ノミネートは先生やクラスメイトからの推薦により、学校を通して行われます。生徒が受賞すると、賞状だけでなく学校のクラブ活動などに使える賞金が授与されるケースも多く、各学校とも生徒のノミネートに前向きです。
まとめ
英国の子どもたちは文学や演劇を通してレジリエンスを学び、それらの作品を用いたクラスでのディスカッションも多く行われています。個人の努力も評価され、初等教育現場ではクラスごとの表彰、中高等教育現場では賞金が授与されるほどスケールが拡大しました。メンタルヘルスへの注目が高まる近年において、レジリエンス力を養う教育は今後さらに重視されていくと思われます。
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