教科の枠を超え、全校で学ぶ!ニュージーランドの「リッチトピック」がはぐくむ力とは?
国語、算数、理科、社会など、現在一般的に行われている科目別の学習。未来を生きる子どもたちへの教育には、これでは限界があるといわれているのをご存じですか。
世界の研究者約250人が協力し、オーストラリアのメルボルン大学が行ったプロジェクト、「アセスメント&ティーチング・オブ・21stセンチュリー・スキルズ」による指摘です。
同プロジェクトの調査結果を踏まえ、今世紀以降必要とされる教育についてまとめたのが、「21世紀型スキルズ」。デジタル時代に必要なのは、「分析思考」「問題解決」「チームワーク」で、これらは科目ごとの学習では養えないとしています。
では、どんなスタイルの教育がよいのでしょうか。そのひとつといわれているのが、ニュージーランドの小中学校(5~12歳)で行われている「リッチトピック」という学習法です。
今回は、1つのトピックを通して、全学年が複数の学習分野を学ぶ「リッチトピック」をご紹介します。
目次
1、8つの学習分野に関連づけて一つのテーマを学ぶ「リッチトピック」
リッチトピックは、一般的に1学期(約10週間)に一テーマを学校全体で設定し、全学年の生徒が同じトピックのもとに学びます。
取り上げられるのは、ニュージーランド人にとり大切なこと、学校で力を入れていること、社会で問題化していること、国内外で話題になっていることです。たとえば「原生鳥類」「オリンピック」「災害」など、多様です。教師が在校生の興味をふまえ、各校で決めます。
生徒たちはトピックを、英語、美術、保健体育、言語学習、数学・統計、理科、社会、技術と、教育省指定の8つの学習分野に関連づけて学びます。
たとえば「樹木」がリッチトピックなら、英語では樹木を題材にした物語を取り上げ、美術では木をスケッチし、保健体育では森林をイメージしたダンスを踊り、数学・統計では校内にある木の本数を数える、といった具合です。
トピックは同じでも、学年で理解度が違うので、内容や学び方にバリエーションがつけられます。
学校の裏の「原生林」を取り上げた際には、「理科」の学習分野として実際足を運び、詳しいことを知る近隣の人に、生息する動植物について説明してもらった。
2、「リッチトピック」で「21世紀型スキルズ」を身につける
リッチトピックを通し、学習分野を超えて学ぶことで、子どもたちには数々のメリットがあります。
「つながり」を学ぶ
私たちを取り巻く現実世界は、何事も関連しあって成り立っています。それを教えてくれるのがリッチトピックの学習法。
一つのトピックを複数の視点から学ぶことで、実社会において何と何、誰と誰が、なぜ、どのように関連しあっているのかを察知する力を養うことができます。これにより、地球の反対側の見知らぬ人に起こっている問題も、自分のこととして捉え、解決に努めるようになります。
「21世紀型スキルズ」にあがっている「分析思考」「問題解決」のためのスキルがはぐくまれるというわけです。
多才な人間を作る
リッチトピックのテーマは1つでも、さまざまな学習分野で学ぶので、偏りのない知識が身につきます。
またトピックへアプローチするための「入り口」はひとつではなく、たくさんあることになるので、「入り口」のひとつが苦手でも、ほかからアプローチし、ギブアップせずに、そのトピックを学べます。
「21世紀型スキルズ」の「分析思考」に必要な、多岐にわたる知識を養います。
学校をひとつにまとめる
学年によってレベルは違っても、全校で1つのトピックを掲げて学ぶことで、まとまりが生まれます。学年を超えて共に学んだり、個々に学んだことを発表したりする機会も生じ、知識を全校生徒が分かち合います。
これが「21世紀型スキルズ」の「チームワーク」に匹敵することは言うまでもありません。
ニュージーランドでラグビーワールドカップが行われた際には、それがリッチトピックに。「社会」では、参加国についてリサーチ、ポスターを作成した。
3、学んだことを身近に感じられるから、もっと学びたくなる!「リッチトピック」がはぐくむ、学びへの好奇心
リッチトピックを通して勉強する子どもたちはみんないつも楽しそうです。それは学んだことが机上に留まらず、自分や周りの世界にも広がっていることを感じることができるからでしょう。
未来を生き抜くための能力やスキルを子どもたちに与えるのみに留まらず、学ぶことがいかに楽しいことかに気づくことができるというわけです。学習者自身が興味を持ってこそ、学ぶ意義があるのは、昔も今も、そして未来も変わらないのではないでしょうか。
「アート」がリッチトピックだった際には、地元の美術館を訪問。学芸員の指導のもと、各作品のメッセージを読み取る。それは、感情であったり、環境保護であったり、多岐にわたった。
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
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