日本とこんなに違う!シリコンバレー流・理系に強い子どもの育て方【前編】
Appleやグーグルなど、世界的に有名なテクノロジー企業が世界の時価総額ランキングで上位にランクインし、世界的に理系人材への注目度やニーズは確実に高まりつつある昨今。
このような社会の動きを踏まえ、子育て中の親たちの間でも「理数系に強くなってほしい」「理系脳はどうやったら鍛えられるのか」といった子育てにおける理系脳トレーニングのニーズが高まっています。いわゆるロボット教室やプログラミングスクールなどが社会的に注目され、日本全国で増えつつあります。
理系教育といえば、アメリカの教育界が力を入れている「STEM教育」「STEAM教育」などが有名です。では、世界最大級のIT産業の集積地といわれるシリコンバレーでは、どのような教育が行われているのでしょうか?
現地から、日本との理系教育の違いや、実践的な学びの内容をレポートします。
目次
ここが違う!シリコンバレーのテクノロジー(STEM)教育
STEM教育とは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の4つの教育分野を統合的に学ぶ機会を子どもたちに提供する、いわゆる理系教育です(STEAM教育はこれにArt(アート)を加えたもの)。
日本でSTEM教育というと、プログラミング教育などが想起され、ITに強い子どもを育む教育だと思われがちですが、シリコンバレーでは違った意味でとらえられています。
そもそも、「テクノロジー」という言葉のもつ意味の範囲が広いのです。テクノロジーとは「生活、社会、環境に密着した商品やサービスなどを新たなテクニックやスキル、新手法を取り入れてより良いものにしていく過程ならびにその成果」を指すのであって、電子機器やコンピュータサイエンスを指すとは限らないのです。
全米40カ所でSTEM教育をベースとしたサマープログラムを実施している『Steve&Kate』を例にとってみましょう。
ここでは、プログラミングのような最新のテクノロジーと、昔からあるミシンのようなテクノロジー、普段の生活に欠かせない料理などをランダムに体験することにより、どのように組み合わせたら、より使いやすく便利になるのか?何をどうやって発展させていけばより住みやすい社会になるのか?環境にはどのような影響があるのか?など、さまざまな視点や思考を交えながら、子どもたち自身が何かを、思いつき挑戦していく環境が用意されています。
特に意識せずとも、必然的にScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)が融合的に関係しあっており、目的やゴールに応じて、どのように組み合わせるか、全体像から読み取って具現化する力を身につける、これがシリコンバレーにおけるSTEM教育の実態なのです。
ナショナル・フットボール・リーグのチームのホームグラウンド、『リーバイス・スタジアム』でSTEAM授業!
では、学校では具体的にどのようなSTEAM教育の授業が行われているのか、現場をのぞいてみましょう。
『STEAM in Football』と書いてあるワークブック。題材はアメリカのサンフランシスコ・ベイエリアに本拠地を置くナショナル・フットボール・リーグのチーム『49ers(サンフランシスコ・フォーティナイナーズ)』です。
この本は、チームの本拠地である『リーバイス・スタジアム』で行われているSTEAM教育のオリジナル教科書なのです。
そう、テクノロジーの解釈が広いシリコンバレーでは、地元から愛されているスポーツチームやそのホームスタジアムまでもがテクノロジーを学びとるための題材となります。
例えば、アメリカンフットボールのユニフォームやヘルメットもSTEAM教育の文脈で説明します。ユニフォームはテクノロジーによって進化し、ナイキの「吸汗速乾」のドライフィットが採用されているなど、子どもたちにとって身近なアイテムをもとに説明しているのです。
それ以外にも、このプログラムのなかではただスタジアムを見学したり、話を聞いたりするだけではなく、実際に子どもたちが手を動かしてものづくりに挑戦するシーンもあります。
工作コーナーでは、紙や風船、綿など、さまざまな素材を使って、フットボールにちなんだオリジナル作品をそれぞれのセンスでつくります。
実はこの個人で作業した作品はリーバイス・スタジアムに提出するため、持ち帰ることはできないのですが、実際に学んだ内容を踏まえて、その場で試作をつくる(プロトタイピングする)ことで学びを即定着させるプログラムになっています。
身近なシーンから理系への興味を育み、得意分野を見つけ、特化する
ここまで見てきたように、シリコンバレーではテクノロジーの解釈の範囲が広く、特に科目を意識せずに、身近なシーンから理系科目に興味・関心を自然に抱く教育環境が整っています。
最初はその子に適した分野がわからないので、今回取りあげた事例のように、STEM教育を少しずつ取り入れながら興味を持ってもらい、各自の得意分野を徐々に探っていきます。
そして、早い子ではミドルから、あるいはハイスクールから、その得意分野にぐっと集中・特化していくというのが、シリコンバレー流理系教育のプロセスです。
記事の後編では、スタートアップ企業が多数集積するシリコンバレーならでは、子どもたちの挑戦を促す「トライとシェア」のフィロソフィーについてお届けします。
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。